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あなたはだれですか(ゼロスとコレット)
(+ロイド)




その日コレットは、とても気分がよく目が覚めた。宿屋のベッドから起き上がると凄くすっきりとしていて、こんな寝起きは久しぶりのことで。今日はなんだか良いことがあるかもしれないと直感でそう思った。そして意外にもその予感は、的中することになる。

今日は雲一つないぐらいの晴天だった。お日様のポカポカとした光がさんさんと降り注ぎ、それだけで気持ちがふわりと舞い上がる。そして今日の朝ご飯にも、お昼ご飯にも、嫌いなものが一つも無かった。元々日常の小さな幸せを見付けるのが得意なコレットは、楽しそうに口元を緩める。嗚呼、今日はなんて良い日なんだろう!機嫌良くいつもより少しふわふわした軽い足取りで、スキップをするかのように仲間達と次の場所への道を歩いていく。



「じゃ、ここらで一回休憩な!」



こんなロイドの声掛けにみんなが賛成して出来た休憩時間。

傍らの大きな木の木陰に入って、その木を見上げる。お日様の日射しを良い具合に遮ってくれるし、風も穏やかだ。日射しを浴びてキラキラと、葉っぱの一枚一枚が綺麗に映る。



「コレットちゃ〜ん」

「あ、ゼロス」



向こうから見知った赤毛が手を振って近付いてくるのが見えた。よっと、と軽い声をあげて隣に座る男を特に拒否することなく受け入れる。



「どしたの?」

「ちょっとコレットちゃんと話がしたいなあーって思って。嫌だった?」

「ううん、そんなことないよ。私ゼロスとお喋りするの、楽しくて好きだよ」

「うーん、俺さまの話術が分かるなんてさっすがコレットちゃん!他の奴らも見習って欲しいモンだぜ」

「あはは…」



苦笑するコレットの髪の毛を、不意に青年が大きな手のひらで掻き混ぜる。不思議そうな顔でゼロス?と呼ぶと、ゼロスは満足そうに笑って手を離した。



「コレットちゃんの髪って、綺麗だよな」

「ん…そかな?」

「そーそー。俺さまもコレットちゃんみたいな色が良かったなあ」



緩く笑いながら、また髪を梳き始める。それにありがとう、と素直に返答しながら、温かい手のひらに気持ちが良さそうにコレットは目を細めた。人に頭を撫でられるなんて、いつ振りだろう。暫らくそんな機会は無かったなあ、と考えを巡らせる。小さい頃はよく、お父様に撫でて貰った気がするけれど…。



(何だか、心がポカポカして)
(凄く凄く、幸せな気持ち)



「…ふふ、」

「ん?どしたのコレットちゃん」

「あ、んとね…今日は朝から良いことばっかりだったの。ほんとに、嬉しいことばっかりで…」

「今俺さまに撫でられてることも?」

「うん、そだよ。あ…でも、だから今日1日でたくさんの幸せ使っちゃったなあって、今ちょっとだけ恐くなっちゃった」



そっか。うん。短いやり取りでも自分の言葉を聞いて、返してくれる人が居ることがやっぱり嬉しい。でもそれと同時にこんなに嬉しいことがあって良いのかなと、ちょっとした不安が出てくるのは仕方のないことなんだろうか。暗くなっちゃってごめんね、と顔を上げると、真面目な顔をしたゼロスと目が合った。



「コレットちゃんは、うーんと苦しい思いをしたんだ。だからもう、うーんと幸せになってもいいんだよ」

「え?」



驚いて、瞬きをする。
それに対してゼロスは、楽しそうに笑った。



「小さい幸せで満足してる場合じゃないぜ?コレットちゃんはこれから、うーんと幸せになるんだから」

「…ありがと、ゼロス」



柔らかく微笑んだ少女に満足そうな顔をすると、ゼロスはゆっくりと立ち上がって伸びをした。随分と長いこと、話をしていたようだ。向こうのほうでジーニアスと遊んでいたロイドが、こちらに歩いてくる。



「──ね、ゼロス」

「ん?」



ゼロスの服の裾を引っ張って呼び止めた。クルリとこちらに向いた顔は不思議そうで。今度はコレットが、楽しそうに笑った。



「私はゼロスの髪の色、好きだよ。凄く綺麗な夕焼け空みたい」



そんなことを言われるとは思ってもみなかったのか、一瞬だけ呆けた顔をして。





「──…ありがとな、コレットちゃん」





そして少しだけ複雑そうに、ゼロスは笑った。









「おーい、コレットー!」

「なあに?ロイド」





元気よく駆けてきた幼なじみの男の子に、ふわりと笑う。だがロイドは、実に不思議そうな顔をしていた。




「お前、こんなところで一人で何やってたんだ?」

「…え、?」

「一人で居ないでさ、こっちに来いよ!今ジーニアスと何か面白いことしよーぜって話しててさ…あ、まだ何やるかは決まってないんだけど…とにかく、コレットも一緒にやろうぜ!」



ロイドの言っていることが理解出来なくて、コレットは目を見開いてしまう。どうして?だってさっきまで──



「ま、待ってロイド!私、さっきまでお喋りしてて…一人じゃなかったよ」

「…え?」




少しだけ、怪訝そうな表情を浮かべて周りを見渡すロイド。しかし向こうに居る仲間以外には、モンスターすらも居なかった。誰も居ないのである。これには流石のコレットも困ってしまって、あたりをキョロキョロするしかなかった。確かにさっきまで喋っていたのに…と。





……あれ?






「なあ、誰と会話してたんだ?」









──さっきまで会話してたの、誰?








最初から
    誰も
     いなかった






(反転コンタクト様)


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