幸せになってよ(ゼロスとプレセア)
ゼロスは、無類の女好きである。
街に着くやいなや、彼はそこら辺を歩いている女の子(無論、年齢問わず)に片っ端から声を掛けるのだ。まあゼロスにとっては呼吸をするに等しい、挨拶みたいなものなのだが。テセアラの神子であるゼロスの特権なのか、声を掛ける度に様々なアイテムを女の子達から頂く訳で(時々嫌いなタコを貰って口から出る言葉が悲鳴に変わることもあるが)。金欠に陥ったり節約したい時などはとても重宝するので、そういう時は特に頼りにされたりする(そんな時だけって…俺さま不憫過ぎじゃね?とゼロス)
そう、何が言いたいのかといえば。ゼロスは世間一般で言うところの『モテる男』になる訳で。そうなると必然的に他の男に比べて、良くも悪くも恋愛経験は多くなる訳で。
「…ゼロスくん。少し、質問しても良いでしょうか?」
「んー?何かなプレセアちゃん。プレセアちゃんから話し掛けてくれるなんて、俺さま感げ」
「おかしなことを聞いてしまったらごめんなさい」
「スルーしちゃうのねプレセアちゃ〜ん!」
ゼロスに対してスルースキルを持つ少女は、青年の言葉を遮り何事もないように言葉を紡ぐ。それに対して甘えたような声を出すと、チラリとこちらに向く綺麗な色の瞳。
「ゼロスくんは、恋をしたことがありますか?」
「………はい?」
ゼロスは目を軽く見開き驚きを隠すことなく声で表した。
そう、こんな青臭いガキ(例えばロイドやジーニアス辺りが妥当である)に対してするであろう質問を受けるだなんて、想定外のことなのだ。そのため、ついうっかりゼロスは一瞬だけ表情を作るのを忘れる。
常日頃から思っていたが、このプレセアという少女は変なところで勘が働くというか、鋭いところがあるのだ。普段は他人の感情に少し鈍いところもあるのに…。何か触れられたくないところを見透かされたのではないか、と僅かに疑念を抱いて(人を疑ってしまうのは本人の悪いクセである)、ゼロスはいつもの人懐こい笑顔を貼り付けた。
「なになに〜プレセアちゃん。俺さまに興味ありげ?」
「いえ」
「即答!?俺さま大ショックぅぅ!」
「……ただ、」
ただ?
ゼロスが復唱する。
「……私は、恋愛感情というものが…よく分からなくて」
「…」
「ゼロス君は…たくさん経験があるようなので、知っているかもしれない。そう思って聞いてみたんですが…」
そうだった。
この目の前に居る少女は、一番恋愛をしたい年頃の時に意識がなかったのだ。気付いた時には、周りの時間があまりにも経ってしまっていて。精神と肉体は12歳のまま止まってしまっていたが、本当ならば今は28歳で。恋愛の一つも経験しているような年齢だというのに。
真剣な少女の言葉に、ゼロスは珍しく無言になる。気持ちが全く込もっていない、恋愛と呼べるかも分からない関係ばかり数多く持ってきた自分。そんな自分がこの無垢な少女に何かを言えば、汚れてしまいそうな気がした。
「恋愛感情…どんな感情のことを、そういうんでしょうか」
「……んー…。言葉で説明すんの難しいな…」
「…ごめんなさい」
「ん?何で謝んのよ、プレセアちゃん」
「困らせてしまいましたね」
「いやいやいや、俺さまぜーんぜん気にしてないぜー?ただちょーっとどう説明するか考えてるだけ!」
プレセアは不思議そうにゼロスを見上げる。いつもは茶化したりするのに、この男は何故か今とても真剣に自分の話を聞き、そして答えてくれようとしているのだと分かった。それを感じ取った少女が少しだけ、表情を和らげたのには色々と考えを巡らせている最中の神子は気付けなかったようだが。
(恋愛感情、か…)
恋に憧れる少女が夢見るような、そんな甘ったるい恋愛をしたことは無かった。寧ろ、そんな恋愛だなんてまやかし物だと。自分には一生関係のない物だと冷めた考えの自分が居る。今の神子という立場のままでは相手を不幸にするだけだなんて、どうせ無理だろうなんて言い訳を重ねて。本当は臆病なだけなのに。
(俺に近付いてくるのは大抵が『神子サマ』に気に入られるのが目当てで。気持ちなんかお互い入ってないのに、馬鹿みてェ)
しかしロイドに想いを寄せるコレット、プレセアに想いを寄せるジーニアスを間近で見てきて。見ているだけで幸せが溢れてくるような恋愛も、周りにはたくさんあるのだと最近知った(もちろん、そればかりではないけれど)。
そしてこの目の前に居る少女も、自分とは違う。時が止まっていたとはいえ、この子は普通の女の子なのだ。これからいくらだって、幸せな恋も出来る。
「プレセアちゃん」
「…はい」
「恋愛感情ってのはさ、自然に知っていけば良いんじゃねェかな」
「…」
(あ。見るからに無表情になった。いやいや、今のはてけとーに言ったんじゃないって)
「だってよー、プレセアちゃんはこれからいくらだって恋が出来るんだぜ?焦って背伸びするのは良くねェっしょ」
「…ゼロス君…」
「あ、でもいざ好きなヤツが出来た時にそれが分からなかったらダメだよな…ま、まあ恋愛感情ってのが具体的に何なのかはイマイチ説明出来ねェけどよ、どうなるかぐらいは分かるぜー?」
「…お願い、します」
「おうよ!ゼロス君にドーンと任せとけってー」
(まずはそうだなァ、好きなヤツが出来るとそいつの顔が頭から離れなくて眠れなくなったり、近くに居るとドキドキしたりだなあ…。あ、そいつの傍にずっと居たいって思ったりな!)
(…参考になります…)
文字通りのマシンガントークを繰り広げるゼロスを見ながら、プレセアは思う。きっとこの人にも、そういう人が居るんだろうと。
そして自分の話を真剣に聞いて、真剣に考えて答えてくれた本当はとても優しい彼が、
「プレセアちゃんはこれからうーんと幸せになるんだからな?そこんとこ自信持っていこうぜ。プレセアちゃんはこっからムチャクチャ幸せになるんだ」
「……はい。ゼロス君も、です」
「おっ…そりゃどーも」
(そう、幸せになるようにと)
「ゼロス君」
「…ん?」
「……ありがとう」
少女がふわりと微笑んで、青年もそれを見て満足そうに笑った。
例えば、こんな恋のはなし
(ゼロス君、今は好きな人が居るんですか?)
(え"っ、な、なんでいきなりそんな話になるのかなプレセアちゃ〜ん)
(勘、です)
(…女の勘っておっかねェ…)
(title:水葬様)
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ゼロス+プレセアも兄妹みたいで好き。
因みに、どうしてプレセアがいきなり恋愛に興味を持ったかというと、ジーニアス関係だという裏設定があったりなかったり←
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