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島根ではよくあることです(吉田と総統と菩薩峠)
※吉田くん誕生日記念
※家族な鷹の爪団





「僕は此処を出て行きます!ああ行きますとも!!」

「もう知らん!吉田くんとはこれっきりじゃ!!」

「そんな耳がとんがってる人の下になんかつきたくないですよ!」

「やかましいわい!生まれ付きじゃこの耳は!!」



喧嘩の原因は一体何だったか。ただ怒鳴り散らしたあと、秘密基地を飛び出した寂しそうな顔をした少年の顔がこびり付いて離れなかった。



「全く…吉田くんときたら。今はそんなイベントに構っているヒマはないというのに」



今日中に何とか資金(主に家賃代)を集めなければ、大家さんに追い出されてしまうのである。これだけ言うと唐突に思うやもしれない。だが、これでも相当払う日にちを延ばし延ばしにしてきたのだ。そう、ギリギリなのである。もう精一杯だ。それなのに吉田くんときたら───



「フィリップ、博士。各自資金調達に向かってくれたまえ」

「ハイ」

「仕方ねェな」



それぞれが資金調達の為に出掛けるのを玄関まで見送る。さて、自分も準備をしなければと戻ろうとすると、服の裾を引っ張る何かに止められた。



「パパ」

「おお、菩薩峠くん。今日中に稼いで、何とかするから安心しなさい。今日は文化的な食べ物が食べれるように努力するから、」


フルフル、と首を振る。
なんじゃ違うのか?そう思いながら何を伝えたいのかと少年を見れば、壁に向かって指を差している。よく見れば、その指は壁ではなく壁にかけられたカレンダーに向かっていた。



「…ん?バレンタイン?」



コクリ。
頷く菩薩峠くんに、申し訳ない気持ちになった。バレンタインは、基本的には女の子から男の子にチョコレートをあげる日である。つまり、うちにはあまり縁がないイベントだ。貰える可能性があるとしたら大家さん…なのかもしれないが、複雑だ。よりにもよって今日この日、バレンタインデーにこんなことになってしまうとは。



「すまん菩薩峠くん。吉田くんにも言ったが、今は家賃も払えない状態なんじゃ。チョコレートに使えるお金は…」



そこでハッとする。



…そうだ。
喧嘩の原因はバレンタインデーだった。朝から『今日はバレンタインですね総統』『バレンタインですよね』『島根ではよくあることです』とあまりに嬉しそうに連呼するものだから。あまり時間がないと焦っている自分との温度差。ついイラッとしてしまったのだ。

そりゃあ、バレンタインデーは男子にとってはワクワクの日だ。たくさん貰えるんじゃないかとウキウキしながら過ごす男子も少なくない訳で、気持ちはよくわかるのだが。



(だが自分達は悪の秘密結社で女性の知り合いもあまり居ないし、貰える可能性も低い。…まあ博士は毎年山のように貰っているが)



しかしだからと言って自分が女子の代わりに団員達にチョコレートを用意したりするのは、あまりに惨めではないだろうか。


そこまで考えてふと少年に視線を戻すと、この上なく不機嫌な顔をしていた。


「ぼ、菩薩峠くんどうしたんじゃ!?」

「お兄ちゃん」

「ん、吉田くんのことか?」


コクリ。
頷いてから、誕生日と一言呟いた。



「……あっ」



一気に青ざめた総統。
それを見て、何となく満足そうな顔したのは菩薩峠だった。



* * * * *



「…ちぇっ、何だよ。今日は俺の誕生日なのに…」



土手に体育座りをしながら、川に石を一つ放った。

そりゃあプレゼントは欲しかった。だが、それよりも何より『おめでとう』の一言が欲しかったのだ。博士もフィリップも(フィリップは強制的にだが)、菩薩峠だって言ってくれたのに。…まあ菩薩峠は『お兄ちゃん』っと言っただけだが、恐らくそういう意味だろう。なのに総統ときたら、大家の影に怯えて、資金稼ぎで頭がいっぱいになって、大事な部下であるはずの吉田の誕生日がすっかり頭から抜けてしまっているのだ。


知らず知らずのうちにじわりと目の前がぼやけてきて。ギュッと目をつぶる。

人の誕生日をついうっかり忘れる総統なんて、総統なんて……



「総統なんて、キャベジンの飲み過ぎで死ねば良いんだよっ!」

「それは胃薬じゃろ!逆に胃の調子が良くなって健康になるわい!」

「……あ、総統」



いつの間にか自分の影に重なっていた大きな影。それから少し離れたところに菩薩峠も居た。背後から盛大に突っ込みを入れた総統は、見ると今にも泣き出しそうな顔をしていた。


「…何て顔してんスか。泣きたいのはこっちのほおぶぶぶぶぶ」

「吉田くんワシが悪かった!だから戻ってきてくおぶぶぶぶぶ…!」

「何で吐いてるんですか総とおぼろろろろ」

「同じ理由じゃおぶぶぶぶぶ」



二人して泣きながらえづく土手(見ると菩薩峠ももらい泣きしてえづいていた)。しばらくすると落ち着いてきたので、吉田はまた前を向いて座り直した。


「…吉田くん、本当に済まなかった

「………」

「あれから資金稼ぎから先に戻ってきた博士に頼んでの。ボタン一つで料理が出せるマシンを作って貰ったんじゃ。生憎今はおが屑とベッドの下の綿ぼこりしかないが、これなら好きなものが食べられる。…何で今の今まで気付かなかったんじゃ」

「……」

「とにかく、せっかくの誕生日じゃ。吉田くんの好きなものを食べれば良い。じゃから、」

「総統」


総統の言葉を遮るように、吉田は目線は前を向いたまま名前を呼んだ。菩薩峠は二人を交互に見て、総統の服の端をギュッと掴んだ。


「僕が聞きたかったの、それじゃありません」


くるり、と吉田がこちらに向いた。総統は驚いたように目を見開く。


「確かにプレゼントも、パーティーの料理も欲しかったです。でもね、一番欲しかったのってそれじゃないんですよ」

「吉田くん…」

「そりゃあね、確かに誕生日忘れられて悲しかったですよ。遠回しに思い出させようとしたら逆に叱られるし」

「………」

「でも、例え人の誕生日をうっかり忘れるぐらい総統がボケてても、近くに居ると加齢臭が漂ってくるようなおっさんでも、悲しいことに鷹の爪団の総統は総統ですから」

「吉田くんぶっ飛ばして良いかね」

「パパ」


菩薩峠が首を振った。あまりの物言いに腹が立ったが、今回のことは自分が悪いのだ。此処はグッと我慢することにする。



「だから総統、」



その言葉に、総統が表情を和らげて吉田を見る。


(島根に居た時、誕生日で一番嬉しかったこと?そんなの決まってる。大好きなお母さんが、『おめでとう』って言ってくれたことなんだ)



「誕生日おめでとう、吉田くん」


あったかい笑顔と共に一番聞きたかった台詞が降ってきて、それだけで誕生日を忘れられたことも帳消しに出来てしまう程に嬉しかった。

ああ。
鷹の爪団の全員が、俺大好きだよ。





Happy birthday!
(一年で一番特別な日)


「さて、それじゃあそろそろ帰るとするかね。早くしないと、デラックスファイターに気付かれて、マシンを破壊されてしまう」

「そうしましょう、お腹ペコペコですよ。オイ菩薩峠、転ばないように総統に運んで貰おうぜ」

「…パパ」

「なっ、吉田くんどういうつもりかね!?」

「たまには良いじゃないですか。何せ僕らの父親なんですから」

「いつ父親になったんじゃ!」



(でも総統、ちょっと嬉しそうですよ?)
(…!)


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2/14は我等が鷹の爪団戦闘主任・吉田くんの誕生日!(それを忘れるなんて、総統どんだけ資金稼ぎでいっぱいいっぱいだったんだ…)

遅くなってしまいましたが載せてみました。

家族な鷹の爪団が大好きな私の趣味満載です。菩薩峠くんと吉田くんは兄弟みたいよね!総統は鷹の爪団のママン兼パパンよね!みたいな(うふふ)

きっとこれから秘密基地に帰って盛大に盛り上がろうとしたらデラックスファイターが来て、デラックスボンバーされるんだよ!(台無し)

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