幸福の作り方(摂薄)
(SSS)
「ホラ、行くぞ」
スッと差し出された手。
躊躇することもなく、そっと自分の手を重ねる。
繋いだ箇所なら熱が生まれて、そこから熱が身体中に広がっていくような感覚を覚えた。
…熱い。
だけど決して離したりはしない。
「幸せにして頂かないと、割に合いませんわ」
「へーへー、流石は天下の太夫様。並みの暮らしじゃダメだってか?」
「アラアラ、よくお分かりで」
「こちとら生憎茶屋通いのロクデナシなんでね、んな豪勢な暮らしになりゃしねェよ」
チラリ。
横目でチラチラと見てくる。
落ち着かない様子がなんだか面白くて、思わずクスリ。
「…嫌ならまだ間に合うぜ」
頬を掻いて、そっぽを向いて。
事も無げにそう言った幼なじみは、こちらを見ようともしなかった。…なんだか、拗ねた子供みたいだ。
そう言ったクセして、決してその手を離そうとはしないクセに。
アタシが離さないことも、知っているクセに。
だけど臆病者なアナタのこと。
きっとはっきり口に出さないと不安になるのね。
だけど狡いアナタのこと。
わざとこちらから言わせようとするのね。
(ねえ、例えば此処でアタシが逃げたとしたら。アナタは追い掛けてくるのかしら?)
スッと繋がれた手を離す。
驚いたように目を見開いてこちらを見る幼なじみに、ふわりと微笑んだ。
嗚呼、やっぱりアタシは意地が悪い。
「心配なさらなくても、あたくしは居なくなったりしませんわ」
(例え手が繋がっていなくたって)
(例え貴方が私を手放そうとしたって)
(絶対に)
「…幸せにする自信はねェよ?」
「アラアラ、"生けるモテ神様"が随分弱気ですこと」
「茶化すなよ。俺ァ至って真面目に言ってンだからよ」
不服そうに顔を歪めて、真っ直ぐに見つめる。何を勝手に弱気になってるの、アンタがアタシを連れ出したんでしょ?
…だけどそれは彼の優しさ故なのだと、知っているから。
「心配ありませんわ。摂津様があたくしに尽くして下されば」
「……そりゃ俺に何から何までお前さんの世話しろって言ってんのか?」
「アラアラ、そうは聞こえませんでした?」
「はっ、冗談。ンなこと俺ァゴメンだね」
そう言いながらも楽しそうに口元を緩めたのを、見逃しはしなかった。
「協力し合うのが夫婦ってモンだ」
幸せになれるかなんてわからないけれど。
「やっぱ無理っつってももう遅ェからな。後悔すんなよ?」
「アラアラ、摂津様こそ。後悔しても後戻り出来ませんわよ?」
「──はっ、上等」
だけどアタシには、アンタが必要。それは分かってるから。
だから今は、それだけで充分でしょう?
「宜しく奥さん」
──────
ブログ小話再録。
サムライうさぎの摂津さんと薄雲さんです。
時間軸は夫婦になる前かな。摂薄のプロポーズする話になりました。これを機に、摂薄小説が増えると良いのになあ(どの機!?)
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