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もう一度忠誠を。(綱吉と獄寺)




(俺が、俺達ファミリーが貴方に着いて行こうと思ったのは)




勉強が出来るとか、運動神経抜群だとか、そういうことじゃない。

ボスにとって必要なのは、きっと。





「ただいま戻りました」

「…獄寺くん、お疲れさま」




任務からボンゴレ本部へと帰還した俺に、ふわりと優しい笑顔を向ける。

嗚呼、そのすべてを包み込むような温かな眼差しは昔からちっとも変わってはいないんだ。




「今回の件は獄寺くん一人じゃキツかったでしょ。…無理をさせてごめん」

「いいえ、とんでもない!俺一人でも充分事足りましたよ。十代目の判断は正しかった」

「‥そっか」



お優しい十代目を気遣って言ったつもりだったが、もしや失言だったのだろうか。

少しだけ、笑顔に悲しみが見えた気がするから。



「じゃあ早速で悪いんだけど、結果報告してくれるかな」

「は、はいっ!」




十代目・沢田綱吉が"ボス候補"から"ボス"へと変わったのはもう随分前のこと。当初は色々と変わりはじめた環境・立ち位置に戸惑っていたようだったが、今では大分落ち着いてくれたように思う。


その仲間を思いやる優しさはそのままに。ちょっとやそっとでは揺るがない、意志の強さとボスにとって必要不可欠な冷静さを身に付けた。




「ねぇ、獄寺くん」

「はい、何でしょうか十代目!」



一通りの報告が終わったあと。
書類に目を通しながらサインをし始めた十代目が、目線を上げて俺を見る。呼び掛けに答えて真っ直ぐに見つめ返すと、十代目は何かを諭すような、そんな眼差しで。



「医務室」

「…え、」

「行っておいで」



十代目が、すべてを見透かすような眼で俺を見る。諭すように、だけどしっかりとした意志がその瞳には宿っていた。





(さすが、十代目)




任務中に肩を負傷した。
それはほんの少しだけ。軽傷だった。背後から銃を撃たれて──だがそれは上手く躱した為擦っただけだったのだが。



黙っていたのは十代目に要らない心配を、かけたくはなかったから。




(見抜いていたのか)




「申し訳ありません、十代目…」

「謝らなくて大丈夫だから、行っておいで」



十代目はそれ以上何も言わなかった。隠していたことに怒りもせず、問いただすこともせず、ただ柔らかい声色で。



「わかりました」

「うん、気を付けて」



背中に温かな視線を感じながら、俺は医務室へと急いだ。これ以上十代目に余計な心配をかけてはならない、と。



* * * * *



昔十代目に言われた言葉を、医務室で治療を受けている最中に思い出した。


その時も同じように、俺と十代目の二人だけで。「候補」から「ボス」になる直前に一度だけ言われたことがある言葉だった。




(ねえ、獄寺くん)
(なんスか十代目!!)
(…うん、)




あの時々垣間見せる不安そうな瞳は、相変わらずだなと。




『俺は獄寺くんが思う程、出来た人間じゃないよ』




返事を返した俺に困ったように微笑んでから、ゆっくりと紡がれた言葉。

俺はその言葉に驚いて、十代目を見つめる。




『元々は何をしてもダメな奴で、周りからはダメツナなんて言われてた。リボーンが来てからは段々と周りからの目も変わり始めて来たけど、元々は何も出来ない奴だったんだ。慕ってくれる獄寺くんやみんなには悪いけど、「マフィアのボスになんかならない」って思ってた』

『……、』



そんな昔の話をする彼の意図が、わからない。ただ呆然と、淡い意志を宿した瞳を見つめていた。




『俺は、獄寺くんの思うような立派な奴なんかじゃない。でも君はそんな俺の為にたくさん色々なことをしてくれたよね。無理もさせたと思う』

『…そ、そんなことは、』



反論しようと口を開いた瞬間、十代目に静止された。優しい瞳は変わらない。




『いざとなったら逃げ出しちゃうかもしれなかったのに…どうして、今までこんな俺に必死に着いて来てくれたの?』




"どうして"

なんで十代目に着いて来たか。深い意味はなく、ただ純粋に聞きたいのだという。



正直、そう質問されたことはショックだった。今までたくさん傍にいたのに伝わらなかったのか、と。




(いや、そんなことは重要じゃねぇ)




貴方が「わからない」というのなら。

その為に貴方が「不安」だというのなら。


(俺は何度でも貴方に伝えますよ)



十代目の不安を取り除くことは、当たり前のことだ。





"どうして"着いて来たか。

…そんなのは決まってる。十代目がボンゴレの血を引く子孫だから?決まりだから?

違う、そういうことじゃない。


例えボンゴレの血を引いていなくたって。

例え運動や勉強が出来なくたって。

例えボスと部下の関係じゃなくったって。




(俺が、俺達ファミリーが貴方に着いて行こうと思ったのは)




勉強が出来るとか、運動神経抜群だとか、そういうことじゃない。



『十代目、』





ボスにとって必要なのは、きっと───




『俺は、俺達ファミリーは…貴方の器に惚れたからです』




ファミリーを大切に想う、気持ちだ。




思いやりのある眼差し、言葉。
大空のように大きく、荒んだ心でさえ包み込んでしまいそうなそれ。



(俺達は貴方の、そういうところに惹かれたんだ)




『俺にとってのボスは最初から貴方以外には居ません、十代目』



貴方に救われたこの命。
全ては貴方の為だけに。




『きっとファミリーの奴ら全員そう言いますよ』

『…獄寺くん…』



思い切りニッと笑ってやる。
十代目はうっすらと涙を浮かべていた。



『ありがとう…』




* * * * *



医務室からの帰り道。
真っ白な天井を見上げて、想う。


十代目。
貴方は絶対に逃げたりはしませんよ。

だって貴方は自分より人の為に動ける人。人の為に力を発揮する人だから。

挫けそうになっても、絶対俺達ファミリーが支えますから。




(これからもずっと、忠誠を)



誓う忠誠、光る涙
(護り抜いてみせますから、)



──────
ブログ小話再録。

獄寺くんとツナのお話。+10です。

当初の予定では+10ではなく普通の学生時代で、獄+ツ+山の並盛仲良しトリオにするつもりでしたがいつの間にやら二人だけに…(爆)

とにかく、この二人の絆が好き。

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