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夫婦喧嘩もなんとやら(伍助と摂津)




清木との決戦からどれだけの月日が流れたのだろう。
あれから本当に様々な出来事があり、茶屋通いが大好きな遊び人がその幼なじみを娶ったのはつい最近のことである。




「頼む、匿ってくれ伍助ちゃん」

「……またか、摂津殿」





今日もふらりと現れた伊達男。
あの二人が夫婦(めおと)となってからというもの、暫らく宇田川の門をくぐらなかった筈の義兄が何故かまたことある毎にこちらに顔を出すようになった。初めのうちはその久しい顔に喜び、志乃も伍助も嬉しそうにしていたのだが…こう毎日続くとどうにも落ち着かない。



此処へ訪れる理由を問えば、『喧嘩した』や『退屈だから』なと様々だ。喧嘩で家に居づらいのはわからない訳ではないが、そんなにたくさん喧嘩をしているのか。それに「退屈だから此処に来る」はなんだか腑に落ちない。ここは突っ込みを入れたほうが良いのだろうか(それに確か夫婦揃って飲み屋を開いた筈なので、退屈になる暇などないと思うのだが)




それに、だ。
毎日毎日何かと理由を付けては我が家に来る義兄に、こちらとしては些か不安を感じたりもするのだ。もしや夫婦仲が上手くいっていないのかもしれない、と。





(其れ程までに結婚生活は居心地の悪いものなのか?)






自分が志乃と結婚してから不安や悩み事はあったものの、決して居心地の悪さは無く、寧ろ心地よく幸せだった。自分が決めた相手なら尚更結婚生活は悪くなるとは思えない。さらには自分達を結んでくれた義兄のこと。出来ることならば幸せになってもらいたい、と願ってしまうのだ。




「…摂津殿、」

「んー?」




昼食に作って貰った志乃特製のおにぎりを縁側で食べながら、横目で摂津が伍助のほうを見る。たったそれだけのことなのに、緊張で一筋の汗。


…他の夫婦の問題に口を挟むのは余計なことなのだと、重々承知している。だがしかし、と伍助は汗ばむ手を強く握り締めた。




(放っておくことなど…見て見ぬフリなど、オレは出来ぬ)





「摂津殿、摂津殿は……」

「どうした伍助ちゃん急に改まって。なんかあったンかよ?」

「む…」



目の前の男が茶化すものだから、より緊張が高まりせっかくの決意が削がれそうになってしまう。だが、ここで負ける訳にはいかなかった。



膝の上の拳を握り締め、生唾を飲み込む。




「…そ、其れ程までに居心地の悪いものなのか…?」

「は、?」

「あ、その、摂津殿があまりにも頻繁に来るものだから、夫婦仲が上手くいっていないのではないかと……っ」

「……」




沈黙。
混乱してつい一気にまくし立ててしまった。見れば義兄は顎を手を当て、何か考える素振りをしている。

ああ、情けないと自分自身を心の中で叱咤する。オレは何故こうも口下手なのだ!何故緊張すると頭が真っ白になってしまう!



はむ。
伍助の葛藤など知るよしもなく最後の一口を口に含むと、摂津はニヤニヤと意味深な笑顔を貼りつけた。



「はっはーん…さては伍助ちゃん、遠回しに俺が来んのが迷惑だって言ってンな?」




そのからかうような物言いに、誤解された!!!と伍助に衝撃が走るのも無理は無かった。




「いや、ちっ、違うぞ摂津殿!!別にそういうつもりは…」

「いや〜伍助ちゃんも知恵がついたもンだなァ。俺ァ兄として義弟の成長が嬉しいぜ」

「だから違…」

「そんなに志乃とのふたりっきりを邪魔されなくねェンなら、ハナっからそう言やいーだろ〜?水臭ェぞ伍助ちゃん〜」



カラカラと笑われながら肩をボンボン叩かれて、この家の主はもうどうすれば良いのかわからなくなってしまった。元々口下手な為こういう状況にはどう対処すれば良いのか皆目見当もつかなくなるのである。



最早黙り込んで俯くしかない伍助に、あー笑った笑ったとヘラヘラ頼りなく響く声。こっちの気も知らず能天気な!と顔を上げると意外にも穏やかな摂津の顔があった。




「はは、わりィ伍助ちゃん。ちィっとからかい過ぎたな」

「…せ、摂津殿!!!!!」

「だからあんま怒ンなって」



いつの間にやら手元には煙管。
ストレス溜めるとデコに響くぞと額をこづかれて、軽く殺意が芽生えたのは言うまでもない。誰のせいだ、誰の!!こっちは真剣に心配していたというのにこの男は!




「…心配してくれンのはありがてェんだけどな、」

「……む?」




ぷかぁ。
口から紫煙を吐き出しつつ、空を見上げた。それにつられて伍助も空を見上げる。



今日は、雲一つ無い快晴。
気持ちが良いぐらいに、晴れ渡って。



「……ま、アイツとは別に上手くいってねェ訳じゃねェから。あんま心配すんな」

「し、しかし……毎日何かしら理由を付けてはここに…」

「…別に俺が来ンのは迷惑じゃねェンだろ?」

「そ、それはそうだが」

「じゃあ良いだろ?」

「む…しかしだな、」

「だーかーらー、俺が大丈夫だって言ってンの!」



何故かわしわしと頭を撫でられた。無理矢理俯かされたので表情はよく見えなかったが、頭を撫でられるその直前。


…摂津の耳元が、赤くなっているように見えた。




(………?)





「別に喧嘩なんか本当に大したことじゃねェ。だからまあ気にしねェンだけどよ、」




そのままわしわしと暫らく頭を下げさせられていると、隣で何故だかため息一つ。そのあとに小さな声で摂津が何かを呟いたのを、伍助は聞き逃さなかった。




『なんつーか、むず痒いんだよな…』






(結局は惚気られただけ、)





(…摂津殿)
(何だ?)
(それは幸せと言うものなのではないか?)
(………)





(あまり妻に寂しい思いをさせるな、摂津殿)



Fin


─────
新婚ホヤホヤ摂津さんの惚気話でした 笑

なんだかんだ言いつつ、本当は「家に妻が居る」という幸せな状況がむず痒くて慣れずにいるだけの旦那さん。

旦那さんとしては伍助のほうが先輩ですから、上手く伍助に摂津さんを何とかして貰えたらなぁ〜という話。でもまあ結局は混乱してダメダメでしたが←

いやー、それにしても…やっぱりこの義兄弟の関係は良いですね!大好きです♪

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あきゅろす。
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