俺もまた馬鹿なんだ(岡崎と春原)
6月某日。
梅雨真っ只中なこの日、岡崎朋也は悪友である春原陽平の部屋に遊びに来ていた。何故って、春原という人物はヒマな時にはちょうど良い相手だからだ。突拍子もないことを突然思い付き、馬鹿なクセして思い付くまま本能で動く。故に何かを成し遂げようとする度悲惨な末路を辿る…というのは最早日常茶飯事。まあ要は暇潰しにこの部屋に来ていたのだが────そこまで考えて、ボス戦をたった今クリアしエンディングに入ったゲームのコントローラーを放った。
春原の部屋にある下級生からくすねてきた大量のゲームもほぼどれもやり尽くした。所謂「ヒマ」な状態。しまった、と岡崎は軽く舌打ちをする。暇潰しをしに来たというのに、ヒマになってしまっては意味がないのだ。
「なァなァ岡崎、今ちょっと良いこと思い付いたんだけどさぁ〜」
(……来た)
友人が魔王やらモンスターやらを倒しに行っている間、ヒマになった春原は部屋の隅で携帯をいじっていた(まあどうせいかがわしいサイトでも覗いてたんだろ)。そしてボス戦終了後、待ってましたとばかりに駆け寄ってくる様はまるで犬だ。思うや否や「よし、お手」と片手を差し出すと、「わん!…って、いつから僕はお前のペットになったんだよ!!」と間髪入れずにノリツッコミが(何時も思うがコイツノリだけは良いよな)
俺とお前は友人関係っていうよりも飼い主とペットに近い主従関係だろと思ったが、春原がうるさくなりそうなので口に出すのはやめておくことにする。…つーか、鼻血を拭け。
「どうした春原、言ってみろ」
表面上はクールに、冷静にしているものの、内心ワクワクしていたりした。春原が発した、あからさまにこれから騒動を起こしそうな「ヒマ」から脱出する言葉に。
実のところ、それを待ちわびていたのは岡崎朋也のほうなのだ。
春原は「フッフ〜ン」と意味不明な音の息を吐き、偉そうな顔をする。
「今梅雨の時期じゃん?」
「…だから?」
「ったく、馬鹿だな!!んなこともわかんねーの?」
「……」
きっとコイツの周りに居る奴全員に「馬鹿」のレッテルを貼られている「お馬鹿キング春原」に馬鹿呼ばわりされるとは……人生終わってる気がする。つーかわかるか。説明もされてないのにお前の思考なんて。
「ちょ、失礼ですね!!」
「悪い、声に出てた」
手を顔の前に出して軽く謝った。するとそれで満足したのか、大して気にすることなく話を続けようとするご友人。馬鹿だからなのかよくは分からないが、ほとんど棒読みで悪びれていないのに…お前の人生それで良いのか。
まあそんな好青年(?)な友人の悪態はともかく。
「…で、梅雨がどうしたって?」
「あ、そうそうその話だよ!ったく、岡崎が話の腰を折るから危うく度忘れしそうだったよ」
「お前の場合、度忘れは老化が原因だけどな」
「そうそうそう、ホント最近目もかすむしちょっと動くだけで身体中色んなとこが痛くなるし…もう歳だなぁ…って僕まだ十代ですけど!?」
「ああ、俺もだ」
ああーもう全然話が進まねェよ!と春原が肩を落としたのを見て、軽く笑ってしまった。だからコイツと過ごすのは好きなんだ。退屈しないから。しばらく笑っていると「何がおかしいんだよ!」とツッコミが入ったので爆笑の渦に飲まれそうだったが、咳払いをしてようやく落ち着いた。ああ、腹が痛い。
「もう本ッ当に話の腰折るなよ!?」
「ああ」
「絶対だからな!?」
「わかったわかった」
「…なんか…馬鹿にされてる気がする…」
「気のせいだ」
「そう?なら良いけど…」
また同じ手に引っ掛かったか馬鹿め。春原をいじるだけで充分暇潰しになるが…まあ良い、話を聞いてやろう。
「……で、さっきの話の続きだけどさ」
「ああ」
「今梅雨の時期じゃん?」
「…それはさっき聞いた」
「そこから会話をやり直してるんだよ!!!話の腰を折ったんだから責任持って聞け!」
「……悪い。で?」
「梅雨ってことは雨が降ってるじゃん?」
「…まあ梅雨だからな」
「話してるんだから一々ツッコむなよ!!!!!」
全く、注文のうるさい奴だ。
ゴホン、と一つ咳払いをしてから春原は話を続けた。
「雨が降ってるってことは…外に出るとどうなると思う?」
「傘無しでか?」
「ああ、傘無しで」
「……春原、前から思ってたけどお前馬鹿だな」
「うるさいよ!つか、こっちの質問に答えろ!!」
「…傘が無いんじゃ濡れるしかないだろ」
「そう!!それだよ僕が言いたかったのは!!!」
ビシッ。
効果音を付けるなら正にそれ。
そんな音が聞こえてきそうな勢いで春原がこちらを指さした。春原、人を指さしちゃいけないんだぞ。
…とか言ってる場合ではない。
それよりも問題が他にある。
何故なら、今まで話しを聞いてきても話が全く見えないからだ。いくら馬鹿でも、これは行き過ぎている。
春原の奴、遂にボケ始めちまったか…なんて哀れみながらも、質問をしてみる。
「悪い…話が全然見えないんだが…」
「ええっ!?ここまで言ったら分かると思ったんだけどなぁ〜…」
岡崎、お前ボケた?なんて言ってくる。その台詞、そのままお前に返す。「お前ボケた?」はお前にこそピッタリな言葉だ。
「つまりはさ、雨に濡れれば"水も滴るイイ男"を実際に試すことが出来るじゃん?」
…ああ、なるほど。
…………そんなことか。
本当に「…ああ」だけしか言葉が浮かばないほど、下らないことだった。
敢えてもう一度言おう。春原、お前は馬鹿だ。
「つまりお前は、雨でずぶ濡れになりたいと…」
「そう!そうなんだよ〜。やっぱり僕ほどのイイ男が雨に濡れたらそれだけ魅力が跳ね上がるよね!そしたら今まで恥ずかしがって僕の傍に来れなかった女の子達が魅力が倍増した僕のその輝きに魅了されて、"キャー"って黄色い悲鳴をあげながら僕の周りに集まって来るって訳さ!」
「…ああ、そうなるな…なんて頭が良いんだお前は!!」
「いやぁ〜、それほどでもあるよ〜!」
「よしっ、じゃあ早速濡れに行こうぜ!」
「おー!!!」
どしゃ降りの雨が降る外に、春原と共に勢い良く飛び出す(もちろん俺は傘有りで)
ィヤッホーイ!!!なんて奇声を上げながら天からの恵みを身体全体で受ける友を見て、思った。
(春原、残念だが……)
お前はお前が思っているほど「イイ男」でもなければ、恥ずかしがって近寄って来ない女子なんて居ないと思う。一体頭の中で何がどうなってそんな考えに至ったのか…本当にコイツの頭の中は不思議だ。
でもまあ。
モテたいと思うのは男として当然なのかもしれない…なんて思うし。
(今の充実した楽しい学園生活はコイツのおかげでもあるし、)
(可能性はないけどいつの日か、コイツに彼女が出来るという奇跡が起こることを願っておくとしよう)
コイツに付き合ってる俺も、
(また馬鹿だったりする)
(でも、馬鹿騒ぎは嫌いじゃない)
『春原ぁぁ、程々にしないと風邪引くぞー』
『は…はっくしゅッ!!!つか、先に言えよもう!』
『ったく…だから言わんこっちゃない』
『だから聞いてねーし!!!』
Fin
──────
CLANNADの岡崎と春原。
書くのめっさ楽しかった 笑
コイツらの友情関係がたまらなく好きです。
ボケ気質な春原に対し常におちょくりながら接するS(爆)な岡崎くんに、いちいち乗ってノリツッコミをする春原が好きだ 笑
…で、なんだかんだいざという時も良いコンビなんだよなぁ^^ 大好きvv
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