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夫婦茶碗と貴方の笑顔(摂薄)
※最終巻ネタバレ注意












あれから数年の時が流れて。
こうして二人同じ時間に食事をして、同じ時間に働いて、同じ時間に笑い合ってるなんてまるで夢物語みたいだわ。



「ちょっくら食材の仕入れに行って来らァ。留守中に店の掃除サボんじゃねェぞ」

「ウフフ、貴方こそ仕入れを口実に女漁りなさらないように」

「………」



グサッ。
刺さったのはべらぼーに太い釘。


(アラアラ図星かしら?凄い汗ですわよ)



なンだよチクショー、なんてあまりに不細工な表情で出ていく背中を見送った。それはとても伊達男なんて嘘でも言えない顔で、"生けるモテ神"が聞いて呆れる。あんな顔をする人のどこが「モテ神」なのか。他の女にはカッコいいで通っているがきっとあんな表情を見せるのは身内や仲間を除いた中でアタシだけ。



それがなんだか嬉しくて、柄にもなく嬉しくて。僅かに緩む口元。本当に柄にもないんだけれど。



(コレじゃあアタシのほうがアイツにベタぼれしてるみたいで、シャクなんだけれど)
(嬉しく思うのは本当のことで)




二人で始めた居酒屋の評判は上々だ。私が接客をし、アイツが料理を作る日々は思いの外充実していて、あまりにピッタリはまり過ぎて最早天職なんじゃないかと思う程。




(摂津様特製の手料理だ。有り難〜く頂け)
(アラアラ豪華だこと。妙に張り切って作られたようで)
(……うるせェ。黙って食え)
(…フフ、温かい)
(ったりめーよ)



結婚して初めてアイツと一緒に食事した時、何故か胸が詰まって泣いたことは今でも昨日のことのように思い出せる。




(嗚呼、こんなの何年振りだっけ)




並べられた温かい料理を前にポツリ、思う。



遊女をしていた頃とは比べられない程。長い長い間忘れていた誰かと一緒に食べる食事の温かさ。


それは貝の良いダシが効いたお吸い物を啜った時、ぽろりと零れて消えた。



「…摂津さんの作る飯は泣く程ウマいってか?そりゃ光栄なこって」

「アラアラ自意識過剰も此処までくると立派だこと。目にゴミが入っただけですわ」

「……お前なァ、」




(嬉し泣きぐらい我慢すんな。お前さんが強がりなのは知ってるがなァ、もう俺の前じゃンなことしなくたって良いだろ)



…その自信は一体どこから来るの。


柄にもなく真面目な顔して。
可笑しくて笑ってしまったけれど、また少しだけお吸い物が塩辛くなった。




それからは本当に毎日が楽しくて、幸せで(調子に乗るから絶対に言ってやらないけれど)



日だまりのような日常をくれた夫に、ほんの少しだけ感謝してみたりして。




「たでーま。なんも無かったかおキヨ」

「アラアラ早いお帰りで。可愛い娘とは喋れましたか?」




さり気なく気遣いの言葉を掛けてくれる優しい夫を嬉しく思いながらも、可愛くないことを言ってしまうのはご愛敬。本当は嬉しいけれど、口から出るのはいつもこんな言葉。




(我ながら可愛くないと思う)




だけどそんな小さな葛藤を知ってか知らずか、アイツは仕込みをしながら軽い口調で平然と言ってのけるのだ。



「…ンなことしねェよ。一時は"生けるモテ神"と呼ばれた摂津さんも人並みに落ち着いたってこった。一応は嫁さんが居るンだからな…だいたいそんな身で話掛けたら泣いちまうだろーが」

「…、」




はらり。
桂剥きが彼の手から落ちる。
「誰が、」の言葉は口から出る前に消えた。




(何、それ。まさか、まさかコイツアタシを──…)




ほんのりと紅に染まる頬。
徐々に高まる鼓動が耳障りだ。




「女泣かせは趣味じゃねぇンだよ。俺に恋慕の情を抱いても叶わないと知りつつ女の子にちょっかいを出すなんざ、"生けるモテ神"の名が廃らァ」

「………」




前言撤回。
やっぱりコイツはコイツだ。一瞬でもときめいたのが間違いだった。腑抜け老け顔女ったらし。




(耳が赤いのは気のせいだった?)




「…悪口は本人の居ねェとこでな…」

「ウフフ、気のせいですわ」

「ったく…ンなとこにつったってねェでお前も仕込み手伝え。そこの荷を開けてくれねーか」



何はともあれ夕方には店を開かねばならないので、仕込みは大切な作業である。喧嘩していてもそれは関係ないので、気を取り直して言われた通りに荷を開ける。…と、





(淡い紅と、蒼の)
(二対になっている、)




「色々買ったンだが……なんか美味そうなモンみつけたかい、そこのベッピンさん」

「……ええ」

「…そーかい。じゃあ仕込み初めよーぜ」

「ふふ、お客様に不味いものを出す訳にはいかないので」

「へっ、あたぼーよ!」





不敵に笑う旦那にふわりと微笑んで、傍らにそっと並べる夫婦茶碗。



柔らかな陽の光に、煌めいて。



(ふふ、馬鹿な奴)



今度こそ、後ろを向いたアイツの耳が赤く色付いたのは気のせいじゃないみたい。




Fin

─────────

夫婦な二人。
まさか公式でゴールインしたとは!!やっぱり公式は強いなぁ…応援している二人がくっつくとめっさ嬉しいですよね☆

驚いたと同時にものっそい嬉しかったです(´∀`)←

この夫婦は甘々とかじゃなくて、何時までもこのまま微糖な関係なんじゃないかなぁ。ベタベタしないサッパリした感じなんですよね。

ちょっと補足すると、摂津さんは照れ屋さんなだけです。嫁さんを泣かせなくないんだけど、恥ずかしかったんで思わず口からポロリ…みたいなね 笑

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あきゅろす。
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