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右手の痛み
「こ……いなか!?」
僕はぽかんと口を開けて魔術師を見つめた。
恋仲って、父と誰が!?
って、いつの話!?
あまりに驚きすぎて思考能力が低下した僕の姿に、ジーンも苦笑を漏らした。
「まあ、王妃様がこの国に嫁いでくる前のことだから知らなくてもおかしくはないけど」
嫁いでくる前?
僕は働かない頭で考える。

ってことは、三人の王女様たちが生まれる前ってことだ。
つまり、僕も生まれてない。

あれ?
嫁いでくる前ってことは、王妃様は他の国の王女様?
父とはどこで出会ったんだろう?
父は今は庭師だけど、前は違うって言ってた。他の国出身で、今とは違う仕事をしてたって。
でも、どこの国かは教えてくれない。
何で!?
何か秘密があるから?

っていうか、僕と王女様たちはそんなに年齢は変わらない。
僕の母は?
死んだとずっと父に聞かされてきたけど、どういうこと?

僕の母は……まさか、いやいや、それは違う。
父の髪の毛の色は濃い茶色。
僕の髪の毛の色は黒。
国王陛下の髪の毛は金色。
王女様たちは全員銀髪。
ならば、きっと王妃様は銀髪だ。

うん、絶対違う。
父は口は悪いけど、根は真面目だし、そんな、まさか二股をかけて女性と付き合ったりなんかしない。
絶対違う!

……違うよね。

僕は一人で色々考えて頭が混乱していた。
それは表情にも出ていたようだ。ジーンが突然吹き出して笑い、彼が僕を観察していたことに気づく。
「悪い子じゃないみたいね」
くくく、と彼は笑い続けている。
そんなに笑わなくても。
「正直なところ、王女様たちにはあまり男の子には近づいて欲しくないのよ。よりにもよってジュリエッタ様の婿探しの舞踏会前だもの、変な噂はたてたくないの」
やがて、ジーンは静かに言った。
「解ります」
僕は頷く。
「できればあなたには城に近づいて欲しくないんだけどね」
「……それは……」
どうしよう。
さすがにそれは――。
「解ってるわよ、庭師としての仕事が大切なんでしょ?」
「はい」
「まあ、信用してあげる」
ジーンは目を細めて笑う。そして、その手を伸ばして、僕の手を取った。
その途端。
バチン、と鋭い音がして、握られた僕の右手に激痛が走る。
「痛っ!」
反射的にジーンの手を振り払い、自分の右手を左手で抑えた。
刺されたかと思うような痛み。
そっと左手を避けて右手を見ても、傷らしきものはなかった。
「何を……」
僕がジーンに警戒心丸出しの視線を投げたとき、ジーンは僕よりも鋭い視線をこちらに向けていた。

「見えない」
ジーンは唸るように言った。「あなたの過去。何も見えない」
「一体、何をしたんですか? 何かしたんですよね!?」
「私だって宮廷魔術師の端くれだもの、誰かの過去や考えてることを見る力くらい持ってる」
魔術を使ったってこと?
で、僕の過去を見ようとしたと?
「でも、真っ黒だわ。何も見えないなんて、おかしい。変だわ」
「勝手にそんなことされても」
理不尽だ。
むかむかしてきた。僕だって、父に言われた通り、真面目に働いてきたつもりなのに。
そりゃ、身分が下の人間だし、何をされても文句は言えないだろうけど。
でも。

「あなた、何者?」
ジーンが何の感情も混じらない声で言った。
僕は彼を軽く睨みつけ、できるだけ静かに応えた。
「ただの庭師です」

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あきゅろす。
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