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いっつもいっつも、うるさいくらいに人の名前を呼んで。
呼ぶなって言っても、引っ付くなって言っても、全部無視で。

それでも、そういうのがイヤじゃ、なくて。むしろ慣れてきたくらいだったから。





・・・その状況には、流石についていけない。






「誰ですか?君、」

骸様が記憶喪失になった。
そう、彼に付き従う柿本千種から知らされたのは一時間ほど前のことだった。正直、普段からふざけていた彼のことだったから、はじめはタチの悪い冗談だと思った。笑って、もっとマシな嘘つけよって言ってやろうと思って、けれど、千種があまりにも真剣な顔をしていたものだから、信じざるをえなかったのだ。本当に?と何度も何度も自分に言い聞かせて彼らが住まう黒曜へやってくれば、開口一番にそう言われたわけだ。
「ボス・・・」
クロームが、形の良い眉を下げて綱吉の名を呼ぶ。
正直言って、綱吉のことだけは忘れるはずがないと少女は信じていたのだ。だからこそ一抹の望みをかけて彼を呼び出し、骸に会わせてみたのだが。
ダメだった、と彼女は目じりに涙を浮かべた。
千種の話によれば、彼の記憶喪失は正確には全てを忘れてしまうようなものではなく、一時的に記憶が退行してしまう類のものらしい。
今の六道骸はエストラーネオから脱走したあたりの記憶ではないかとのことだ。その証拠に、彼は千種と犬のことは覚えていた。ただ、綱吉との戦いの後で出会ったクロームのことは記憶にはないようだが。

「むく、ろ」

本当の本当に、記憶がなくなった、らしい。
いや正確には退行しているのだが、彼は『沢田綱吉』のことを何も知らない。それは、綱吉にとっては記憶がまるまるなくなってしまっていることとほぼ同義だった。
酷く冷たい赤と青に睨みつけられて、綱吉はびくりと肩を震わせた。怖い。まるで汚らわしいモノでも見るかのような視線だった。
「何ですかさっきから。千種、犬。僕の許可なく部外者を呼び入れるなんて・・・君達はいつからそんなに偉くなったんですか?」
「・・・すみません、骸さま」
「ごめんらさい・・・」
部外者、というのは言うまでもなく綱吉とクロームを指している。
「君達も、僕が今迷惑しているのが分からないんですか?早々に出て行ってくれると嬉しいのですが。ああ、それとも僕に殺されたいと?」
不機嫌そうに眉を顰め、骸はその特徴的な頭に手をあてた。頭が痛むのだろうか、その表情は少し辛そうにも見える。
泣きそうになるのをぐ、と堪え、クロームは「分かりました、」と呟いた。「ボス、行こう」そう言って綱吉の腕をとる。
クロームに引きずられるようにしてヘルシーランドをあとにしながらも、綱吉は骸から視線が離せなかった。対する骸は、もう興味がないといわんばかりに視界から彼ら二人を除外してしまっていたが。

自分を全く映さない赤と青。

自分でも驚くほど、綱吉は胸が痛かった。
















































一度は書いてみたい記憶喪失パラレル。
ツナを記憶喪失にするか骸を記憶喪失にするか、ギャグにするかシリアスにするか・・・選択肢が多すぎて迷います。
今回のは骸が記憶喪失でシリアス話のときのネタ。すさまじく長編になりそうだ・・・。でもいつか書きたい。




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