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病院、という場所は好きになれないと太公望は思った。
ピ、ピ、と鳴り続ける電子音も、この病院特有のにおいや静けさも、真っ白すぎる壁さえも。彼の気持ちを沈めさせるには十分だった。かけ離れているのだ、ここは。何もかも。
とても好きになどなれないこの場所へ足を運ぶようになって、今日で何日目だろうか。
小さな花束を手にして、太公望はすっかり慣れてきた病院の廊下を歩いていた。この廊下の、奥の奥。そこに彼の部屋がある。



「─…陸遜、」



静かすぎる部屋は、この場所だけが現実彼切り離されているような錯覚すら覚える。
窓の外から聞こえる子ども達の声をどこか遠くで感じながら、太公望はベッドの脇に備えられた椅子に座った。ギシリ、小さな音を立ててパイプ椅子が軋む。

「陸遜、」

眠る彼は、寝息一つ立てていなかった。ただ、薄い胸がゆるゆると上下するのだけが分かる。そっと手を握れば、驚くほどにその肌は冷たかった。どんどん細くなっていく腕から伸びる透明なチューブが、ひどく不似合いだとも思う。

陸遜のこの病気について、太公望は詳しくは知らない。調べようと思えば出来るのだが、陸遜がそれを望まなかった。だから、彼がずっと入院している理由を、太公望は知らない。ただ、血色の悪い肌や日に日に痩せていくからだがそう良くはない病なのだと物語っていた。
ピ、ピ、と、相変わらずの機械的な音が規則的に彼の生を知らせてくる。か弱い音がまるでそのまま陸遜を表しているようで、太公望は思わず視線を機械から逸らした。そうすれば、ぽたりぽたりと落ちる点滴の薬が目に入る。
細い体から伸びるそれは彼にとってとても大切なものなのに、彼の生気を吸いとっているようにも見えて。やはり、太公望は瞳を逸らしたのだった。

「…呑気な顔をして寝るな」

彼が起きていないと、どうも悪いほうにばかり思考がいく。早く起きろ、と心の中で呟いて、太公望は少しだけ掌に込める力を強めた。






































一度は書いてみたい病弱陸遜のパラレル。
すごく書いてみたいとは思うのですが、病気を扱うにはそれ相応の下調べが必要なことと、一つ間違えば異常に暗いお話になったりご都合主義なお話になったりしそうで、なかなか勇気が出ません・・・。

2008.1105




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