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ハイジに何故何の躊躇いもなく心の内を晒したのか、自分でも理由ははっきりとはわからない。
ただ、こんな状況の中で今更偽りも隠すようなこともないだろうと思った。
少し間を置いて、ハイジも俺に続くように口を開いた。
「…俺もね、今まで兄ちゃんのことがよくわからなくて、ちょっと恐かったんだ。
どうして兄ちゃんは母さんに何を言われても、何を命令されても、何をされても、何も言わないのかなって。
あいつが見て見ぬふりすることや、助けてくれないことにどうして何も言わないのかなって。
言えば何かが変わるかもしれないのにって、ずっと不思議だった」
俺はハイジの話に適当に相槌をうちながら先を促す。
「だけど、どうして兄ちゃんが何も言わなかったのか…やっとわかった。馬鹿なのは俺だったんだ」
声を震わせて拳を強く握り締めるハイジに、俺は初めてハイジの心の内に触れた気がした。
「…お前は馬鹿じゃねぇよ。多分…俺はお前がいたから自分を保っていられた。俺にはできないことをお前がしてくれていたおかげで、俺の負担は随分軽くなっていた」
俺のその言葉を聞いて、ハイジは驚いたような顔をした。
「俺には母さんの怒りや悲しみを吐き出させることも、それを受け止めることすらできなかった。
母さんにとって俺が俺である限り、俺は悪魔でしかない。
俺が何をしたところで母さんにとっては余計なことだった。
俺が母さんの視界にうつるだけで母さんの心を壊してしまう。
それがわかっていたから、俺は何も言わずに何でもやった。それが例え、どんなに無茶苦茶なことでも、どんなに無理なことでも。
俺はお前が母さんの怒りを受け止めている間、外の世界で他人を犠牲にし、盗みや暴力で必要なものを無理矢理奪いとっていたんだ。
例え相手がどんなに貧しい家のやつだろうと、どんなに心やさしい人間だろうと、時には事が大きくなり相手を殺すはめになった時だってあったが、俺にはそんなことは別にどうでもよかった。
外の人間から俺が何を言われても、どう思われても別に構わなかった。
だけど母さんのことを侮辱するやつらだけは絶対に許すことができなかったから、俺はあらゆる手段を使ってそいつらを黙らせた。
俺が母さんの為にできることはその程度のことしかなかった。
本当はそれすらも俺の自己満足でしかなかったんだけどな」
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