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どれくらいの時間が経ったのか、それすらもわからない程に俺の思考は薄れていた。
唯一わかるのは窓の外が闇に包まれているということくらいだった。
これから先のことなんてとてもじゃないが考えることはできなかった。
自分の存在を否定したくないが為に俺は実の母親を殺した。
しかしそれは果して正解だったのか。
まるで胸の中に大きな空洞ができたように、思考が通り抜けていく。
もともと俺は何も持っていなかったような気がするが、今日改めて俺の全てが消え失せた。
ぼんやりとテーブルに体を預け、窓の外を眺めていると足音が近づいて来た。
俺は上半身を持ち上げ、テーブルから体を離す。
二階から降りてきたハイジの姿は、もはや俺の知るハイジからは掛け離れ過ぎていたが、鈍く光る瞳の色だけが今目の前に立っている赤黒い人物がハイジであることを俺に理解させた。
体中を血で染め表情なく直立しているハイジから、言いようのない不気味さと恐怖による緊張感を久しぶりに与えられた。
まだ自分にそんなものを感じる機能があったのか、と内心少し驚きながら俺はハイジに何と言葉をかけるべきなのかを考えた。
ハイジは恐らく今から俺を殺すのだろう。
何故なら俺がハイジにとっての総ての不幸の源であり、同時にこんなにも最低最悪な結末を作り上げた張本人だからだ。
俺がこの世に存在していなければ、今頃ハイジは普通のありふれた幸せを当然の権利として手に入れていた筈だ。
ハイジに殺されるのであれば、俺はすんなりと納得することができる。
ハイジにはそれだけの権利があり、俺には抗う権利もなければそんな気力もなかった。
俺はこのままハイジに殺されることを望んでいたのかもしれない。
自分の存在意義を探すのは疲れた。
どんなに探しても見つからないと言うことに俺が気がつく前に、これ以上俺がおかしくなってしまう前に、楽になれるのならその方がいい。
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