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「お前は本当に…可哀相な奴だなぁ」
男がハイジに呆れたように、憐れむように、そして見下すようにそう言葉を吐いた瞬間、ハイジは動きを止めた。
一瞬にしてハイジのまとう空気が変化してしまったことは俺の目から見ても明らかだったが、ハイジと関わることを極力避けて過ごしてきた男にそれがわかるはずもなかった。
ハイジは顔面を蒼白にし、胸元を掻きむしるような動作をした。
息苦しいのか、激しくむせ、膝を折るハイジを見て男は煩わしそうに顔を歪め視線をそらす。
「こうしちゃいられねぇ…ぐずぐずしていると俺が疑われる」
はっとしたように表情を変え、台所から立ち去ろうと男は足を踏み出すが、それは叶わなかった。
驚いたように振り返る男の視線の先には、男の右足に絡みつき、男の動きを封じるハイジの姿があった。
「ねぇ父さん。今のってどう言う意味なの…?可哀相って…僕のことじゃないよね?」
縋るように男に必死にそう言い寄るハイジを見て、男は煩わしそうに息を吐く。
男はハイジと視線を合わせる為に膝を軽く折り、自分の右足に絡み付くハイジの指をゆっくりと外していきながらハイジの目を見て口を開いた。
「…俺があいつと出会い、恋に落ちなければお前はこんなことにならなかったのにな。俺にはどうも女を見る目がないらしい」
その言葉を聞いて男に憐れみの目を向けられる意味がわからないと言った顔で、ハイジは強く訴え続ける。
「何を言ってるのかわからないよ父さんっ、僕は自分が可哀相だなんて思ったことなんて一度も…」
「ごめんなぁハイジ。あいつにお前を生ませちまって。生まれて来てもいいことなんか全くねぇのに、幸せになんか絶対になれねぇのに。ごめんなぁハイジ」
ハイジがすべてを言い終わらない内に、まるでハイジの言葉を戯言だと言うように男は言葉を被せる。
俺には男の言葉が確実にハイジの心を壊して行くのが見えた。
「俺はもう疲れたんだよハイジ。あいつのことを考えるのも、お前のことを考えるのも。俺が思い描いていた家族はこんなんじゃなかった。もううんざりなんだよ」
ハイジの光を失った瞳から静かに涙が流れ落ちるのがわかった。
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