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ハイジのその言葉を聞いて、俺はあの日のことを思い出した。


それは狙った訳でもなく、合わせた訳でもなく、俺達が同じ日に初めて人を殺した一生忘れることができないあの日。

あの時のハイジの瞳は今でも俺の脳裏に焼き付いている。


それは、俺が実の母親の頭を銃で蜂の巣にした直ぐ後に起こった。


***

俺が血まみれの寝室から外に出て、顔についた血液を不快に感じ腕で拭っていると、2階から慌ただしく人が降りてくる音が聞こえた。

全てのことがどうでもよかった俺は、特に気にする訳でもなく台所へと向かい顔を洗う為に水道の蛇口を捻る。


顔を洗っている際に、台所の隅にハイジが居る気配がしたが俺は特に気にとめなかった。

直ぐに耳障りな男の悲鳴が寝室から聞こえ、数分後に悲鳴の主が台所へと現れた。


「お前がやったのか」

生気のない声で俺の背中に向けて投げ掛けられたその言葉を聞いて、俺はゆっくりと後ろを振り返った。

「他に誰がいるんだよ」

おそらくそれが、俺がこの男の前で発した最初の言葉だった。

男が、従順で物言わぬ奴隷が対等な一人の人間として言葉を発したことに酷く驚き、怯えているのがわかった。

冷や汗を流し、不自然に口を開閉させているその姿を滑稽だと思っていると、か細い声が俺の耳に届いた。


「…兄…ちゃん…?」

何が起こっているのかわからないと言った顔で俺の方へと体を引きずってくるハイジに、俺が母親を殺したと言ったらこいつはどう言う反応をするんだろうか、と若干の好奇心が沸き上がってきた。

ハイジの腫れ上がった左目と左頬を見て、手当をしてやっていなかったことを思い出しながら、不自然に変色しているハイジの手が俺の手を掴むのを黙って見届ける。

「ハイジ、今まで悪かったな…。今日からはゆっくり眠れるぜ」

何の感情も込めずにハイジにそう言葉をかけ、ハイジの手を振りほどくと、ハイジは首を傾げ、視線を俺から男へと移した。

「いつかはこうなるんじゃないかって思ってたぜっ、もう耐えられない」

血相を変えた顔で俺の顔を見つめながら台所を出て行こうとする男を、シンクに寄り掛かり冷静に観察していると、ハイジが慌てたように男を呼び止めた。





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あきゅろす。
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