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ハイジは視線を下に降ろしたまま、自分の体の下で体を強張らせているシンの頬に恐る恐る触れた。
ハイジの右手から伝わる熱に反応して、シンはびくっと体を揺らす。
「ねぇシン…どうして?どうしてシンは俺に切り掛からないの?」
意味がわからないと言った顔でハイジがそう言葉を漏らすと、シンはハイジの声色から殺気が消えたのがわかったのか、固く閉ざしていた瞼をゆっくりと開いた。
シンはハイジの顔を見上げ、何故か困ったような、呆れた顔をして小さな息を吐いた。
「…なんつー顔してんだよお前…。俺を殺したい程にキレてたんじゃねぇのかよ」
シンの普段とかわりないいやみの混じったその言葉を聞いて、ハイジは抑えこんだ涙を再び溢れさせた。
「…何で泣いてんだよ。意味わかんねぇな。泣きてぇのは俺の方だぜ」
予想していなかったのか、シンがハイジのリアクションに動揺しているのがわかった。
ハイジはそんなシンの反応に安心したように表情を緩める。
「俺が怒ってるのは、殺してやりたいのは小百合達であってシンじゃない。シンに怒ってる訳じゃないんだ」
「だったら何で…」
納得が行かないといった顔で反論しようとするシンの言葉を、ハイジはすぐに遮る。
「悲しかった」
全てを射抜くような眼差しでハイジが静かにそう言うと、シンはハイジの目から目を逸らさずに息を飲み込んだ。
ハイジは更に続ける。
「シンが俺よりも小百合を庇ったことが、ゼロにあんなにも酷いことをした小百合達を庇ったことが、凄く痛くて怖かった」
「…痛い…?怖いって…お前がか?」
ハイジが過去の経験から痛みや恐怖に強いと言うことを知っているため、ハイジの言葉の意味が理解できなかったのか、シンは僅かに眉を寄せる。
ハイジはそんなシンの問いに小さく頷き、困ったように笑った。
「大抵のものは怖くないし、痛みにも強い自信があるよ。
だけど俺にだって怖いものはある。慣れてるし平気だけど、一度だって痛いのが好きだなんて思ったことない。
俺だって痛いのは嫌だよ。
それに何もないのにわざわざ誰かに酷いことしようなんて思ってない。
それなのにいつだって暴力での支配、怒り、裏切り、憎しみが俺を追ってくる。逃げても逃げても追ってくるんだ。
見えるナイフは怖くない。
俺は見えないナイフが怖くてたまらないんだ」
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