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ハイジが俺以外の人間にこんな風に感情をぶつけ、涙を流し自分を失う程に誰かを失いたくないと、心から叫ぶ姿を目の当たりにするのは初めてだった。

ハイジが普通の幸福を得られるように、もうあんな悪夢を二度と見なくていいように、俺はずっと気を張っていた。

そしてハイジが早く俺から解放されるように、俺から離れても自分を保っていられるように、あえて一人にさせる機会を増やしたり、構い過ぎないように気をつけるようにしていた。

その結果が現れ始めているというだけで、別に悪いことではない。

寧ろハイジの為には必要な変化だと言ってもいい。

それなのに、何故俺はこんなにも空虚感に苛まれているんだ…?

その理由を考えることを本能が拒否していることがわかり、俺は一度静かに深呼吸を行うと思考を直ぐに切り替えた。

今はそんなことどうでもいい。

ハイジを闇から引き上げることが出来るのは俺だけだ。

歯を食いしばり感情を抑えようと躍起になっているハイジの髪に、俺は指を絡ませる。

ハイジが助けを求めるように、涙を一杯にためた瞳で俺を下から見上げるのを確認し、俺は口を開いた。

「絶望するにはまだ早い」

俺がそう言うと、どういう意味?とハイジはすぐに顔をしかめる。

俺は一度シンの方に視線を移し、再びハイジの方に視線を戻す。

「お前は今感情に支配されていて、見落としているものが沢山ある。だから少し冷静になれ。

安心しろ、ここには今俺達とこいつらしかいねぇ。

これ以上こいつらがお前に何かするって言うなら、お前がこいつらの顔を見るのが嫌だって言うなら、俺が直ぐに殺してやる」

俺がハイジを焦らせないように落ち着いた声色でゆっくりとそう言い聞かせると、ハイジはギュッと唇を噛み締め涙を腕で拭った。

ハイジは俺の言葉に安心したのかゆっくりと数回深呼吸をする。

俺はハイジが落ち着いてきたのを見計らって口を開いた。

「言葉が全てじゃねぇ。こいつらの言葉よりも、お前が目で見て感じたものが本物だ」

ハイジは俺のその言葉を聞いて考えるように視線を上下に揺らす。

しばらくしてハイジは何かに気がついたのか、ある一点を見て視線を止めた。





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あきゅろす。
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