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「兄ちゃん、俺っておかしいのかなぁ?」

「…おかしいって言われたのか?」

俺は兄ちゃんのその問いに、俺から逃れるように床や壁に引っ付いているノアの箱船の囚人を指差し、兄ちゃんに必死に訴える。

「あいつら俺に能天気に生きて来た奴にはわからねぇかってっ、ここは弱い奴には何をしてもいいって言うルールだって、俺わかんなくなって」

文章構成なんて考えずに思い付くワードを俺は吐き出し続ける。

「強い人が弱い人に酷いことをするのは当たり前だからって。違うよね、兄ちゃん。俺そんなの嫌だよ、もし本当にここがそんな所だって言うなら、俺おかしくなるよ!」


兄ちゃんは黙って俺の話を聞いていたけど、途中で何かに気がついたように俺の言葉を遮った。

「一番は何だ」

「…え…?」

俺は兄ちゃんの言っていることがわからず思わず目を丸くする。

兄ちゃんは俺の手からナイフを抜き取り俺のポケットにしまうと視線を下げた。

そして、俺の体の下で目を閉じ体を強張らせているシンに視線を移す。

「一番お前を怖がらせているのはコイツなんじゃねぇのか」

兄ちゃんのその言葉を聞いた瞬間激しい耳鳴りがした。

とっさに両手で耳を覆い、俺は心に刺さっている包丁を抜き取るように兄ちゃんに訴える。

「俺…シンがわかんねぇよ。だってね兄ちゃん、シンはゼロに酷いことをした小百合やあいつらを庇うんだ。

俺よりも小百合を庇うんだ。

俺を殺してでも小百合を庇うって言うんだよ?

ねぇどうして?俺わかんねぇよっ!!シンは俺よりも、ゼロに酷いことをする小百合の方が好きなんだ!

今まで仲良くしてくれたのも、優しくしてくれたのも、助けてくれたのも嘘だったんじゃないかって。

本当は最初から俺だけだったんじゃないかって、友達だと思ってたのは俺だけだったんじゃないかって。

俺はやっぱり病気だから、俺の考えは間違っていて、あいつらの気持ち悪い考え方が正しいんだって。

だから誰からも信用されないんだって。そして嫌われるんだって、そう思ったら出口がわからなくなって」

嗚咽混じりに必死に訴える俺を宥めるように、兄ちゃんは優しく俺の髪を撫でながら、静かに息を吐き出した。



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