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そう言えば前にもシンを上から見下ろしたことがあったっけ。

あの時は楽しむことが出来たけど、今は楽しむことが出来ない。

目を固く閉じ、動く気配のないシンに、何故だか黒い感情が芽生えてくる。

「何だか歓迎パーティーみたいだねシン。

そう言えばあの時の続きをする約束だったよね。

今やったらどっちが勝つかな。

まともにナイフで戦ったら俺負けちゃうかもね。

ナイフの扱いではシンに勝てる気がしないし。

どう思うシン?

俺が負けたら何してほしい?

シン、何とか言ってよ。

ねぇ、…どうして俺の顔を見てくれないの?」

俺の問いに何も答えてくれないシンに、俺は耐えることが出来なくて腕を振り上げてしまう。

心の底でシンを傷つけたくない、殺したくない、シンは大好きな友達、誰か俺を止めて、と叫ぶけど。

もう一人の俺が、これ以上傷つく前に殺してしまえ、何もかもなかったことにしてしまえ。お前はこいつを殺さずに、この恐怖に堪えられるのか?と、俺を誘惑する。



怖い。

怖いよ。

誰よりも俺が怖い。


恐怖にのまれてしまいそうになったそんな時。

俺が心から望んでいた、俺が一番助けを求めていた、俺を暗闇からいつも引き上げてくれる、眩しいくらいの温もりが俺を包み込んだ。

俺を襲う恐怖を一瞬で吹き飛ばすその温もりに、堪えていた涙が溢れ出した。

「ハイジ」

耳元で聞こえた、俺が世界一大好きな、世界一安心する優しい声に頭が痺れる。

「兄…ちゃん」

声に出してしまえば、後は溢れていくばかりだった。

壊れたように泣き喚く俺を兄ちゃんはしっかりと抱きしめて、優しく頭を撫でてくれる。

「…何がお前をそんなに怖がらせたんだ」

静かに俺にそう尋ねてくる兄ちゃんに、俺は泣きながら起こったこと、苦しんでいること、ぐちゃぐちゃしていることを思いつくままに吐き出した。




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