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ゼロとベリーズは空気を読んでいるのか何も言わなかったが、今のリアクションを見るとシン・アベルのさっきのもっともらしい言い分は照れ隠しだったのでは、と言う気がして仕方なかった。
俺達はそんなシン・アベルに急かされるようにして食堂を後にすると、ハイジとゼロをシン・アベルに託して労働へと向かった。
「ハイジさんって不思議な方ですね」
チェシャ猫不在と言う事もあって普段よりも開放的な空気が流れている家畜小屋で作業をこなしていると、ベリーズにそんな事を言われた。
「時々もの凄く怖いと感じる時もあるんですけど、ハイジさんの纏う空気はとても優しく温かいんです。
普通は誰もシンさんやワンワン、チェシャ猫に自分から近づこうとは思いません。誰だって自分の身が一番可愛いですからね。
ラクハさんがハイジさんを守ろうと思って怯まずに強く向かって行く事が出来るのは理解できるんです。
ですが、ハイジさんはそう言ったものとは違うように見えます。
何て言いますか、生死にあまり関心がないような…、よくわからないんですけど」
ベリーズは困ったように笑いながら言葉を濁す。
ベリーズはおそらくハイジの残虐な一面と普段の純粋無垢なハイジに矛盾を感じているんだろう。
ハイジの残虐な一面はハイジが真っ白過ぎるせいで傷つきやすい自分を守る為に生まれたものだと俺は思っている。
だから俺はハイジを悪だとは思わない。
「…ハイジが生死にあまり関心がないのは多分俺が原因だ。いつも自分の存在に疑問を感じ、強く生きたいとも思わず、人を殺しても罪悪感すら感じない俺を間近で見ているからハイジは感覚が麻痺してるんだ」
「ラクハさんは人を殺しても罪悪感を感じた事がないんですか…?今まで一度も…?」
「軽蔑したか?」
俺がそう尋ねるとベリーズは動揺したように曖昧な返事をした。
だがすぐにベリーズは何かを考えるように遠くを見つめながら口を開いた。
「間違いなくそれは間違ってる事だと思いますし、危険な事だと思います。もう一種の病気ですよそれは。人を殺して平気なんて人間じゃないですよ」
「あぁ、自覚してる」
「ですけど、」
ベリーズは一度言葉を切ると俺の方を見上げてくる。
「不思議ですね、チェシャ猫はとても怖くて堪らないのに僕、ラクハさんは怖くないんです」
そう言って複雑そうな顔をするベリーズに、何と返すべきなのかわからなかった。
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