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「…よく言うよホント。ねーラクハー、今日俺と一緒にここに泊まろ?」

俺の手を右手でクイクイと引っ張りながらふざけた顔でそう訴えてくるチェシャ猫を見て不思議な感情が芽生えてくる。

「俺はまだやる事がある。いいからもう寝てろ。大人しくしていられたら明日見舞いに来てやるから」

チェシャ猫を見下ろしながらそう返事をして俺はふっと我に返った。

俺に向けられたチェシャ猫の驚きと困惑の混ざったとぼけた顔を見て、ハイジにいつもしているように無意識にチェシャ猫の細く柔らかい髪を撫でてしまった自分の右手をゆっくりと引っ込めた。

「…わかってる?俺お前より年上なんですけど」

「…ちょっとした手違いだ。悪かった忘れてくれ」

奇怪なものを見るような眼差しで俺を見つめてくるチェシャ猫に、俺は自分の過ちに気づかされる。

俺はこいつを鬱陶しく危険な人間だと思っている。

だが俺は多分こいつを本気で嫌いにはなれない。

最悪だな、こんな変態相手に今後も無駄な世話をやいてしまいそうな気がする。

何故ならそれは、こいつの危うさが俺の大事な、唯一無二である可愛い弟と似ているからだ。


医務室に遅れてやって来たワンの診察を始める骨のような医者の背中を横目で確認しながら、俺は頭を悩ませる。


「ねーラクハ」

チェシャ猫が気だるげに俺を呼ぶので俺は目だけをチェシャ猫に向ける。

「何だよ。仲良くなるって言っても俺にエドアンのような馴れ馴れしいフレンドシップを期待するなよ」

俺が危険な人間であると言う事を知った上で、無防備に俺のすぐ横で気持ち良さそうに爆睡していたエドアンの寝顔を思い浮かべながらそう言うと、チェシャ猫は俺の首に視線をなぞらせた。

「…そんな事期待してるわけねぇじゃんか。ラクハがエディみたいに通りすがりに夜冷えるから深夜徘徊するときは厚着しろよ風邪引くから、何て事を言って来た日には逆にひくよ」

チェシャ猫にまでそんな言葉をかけているのか、エドアンらしいと言えばエドアンらしいが。

チェシャ猫は1つ大きな欠伸をすると俺の方を見つめて柔らかい笑みを浮かべた。

「殺されかけたからかなぁ、何かラクハに気を許しちゃってるよ俺。よしっ決めた。今度から死にたくなったらお前の所に行こー」

にこやかな顔で数回頷きながらそう言うチェシャ猫に俺は一瞬言葉に詰まった。



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