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ハイジの狂気に飲まれてしまったからなのか、ハイジが俺の隣に戻ってくるまで男は床に背中を付けたまま動かなかった。

「…わかっただろ小百合。コイツを見た目通りに非力ですぐ泣きそうなガキだと思ってたらこっちが痛い目を見んだよ。

見た目とは真逆の危ねぇもん隠し持ってやがる。

お前今朝の見て無かったのか?」

シン・アベルは奇怪な物を見るようにハイジを呆然と見つめる男に腕を貸してやりながら呆れたように片眉を上げる。

「…どうしてこう言う片方が嫌な思いをするような事をするんだろ。

ちゃんと話合うとか、お願いするとか、お互いが納得出来る方法を取れないのかなぁ。

そうしたらどっちも苦しくないのに。俺よくわかんないよ」

再び席につき、テーブルの上で頬杖をつきながら眉を下げるハイジに俺は心の内で小さく息を吐き出す。

ハイジのような考え方を持つ人間やエドアンのように平和主義の人間ばかりだったら戦争は起きない。

だが…人間の大半は綺麗な部分の裏に少なからず汚く醜い部分を持っている。

ある意味ではノアや小百合と言う男、チェシャ猫のように自分の欲や願望をそのまま行動にし表に出している奴の方がハイジやエドアンよりもよっぽどリアルで人間らしいんじゃないのか。

汚く醜い所が見えない位に綺麗なもので覆われている人間は幻想のように思えて…絶対に手に入らない物に救いを求めているような気がして俺にとってリアルではない。

雲を掴むよりも漠然としていてまったく掴みようがない、そんな感じがする。

「…お前はまだ人生経験が浅いんだハイジ。その内綺麗事だけでは片付かないもんがあるんだって事を嫌でもわかるようになる」

シン・アベルに大人しく椅子に座っているように指示されている白髪の男を面白そうに観察しながらノアは穏やかな口調でハイジに言葉を投げかける。

「そうなのかなぁ?兄ちゃんはどう思う?」

いきなり話を振られ、尚且つ答え難い質問に俺は誤魔化すようにハイジの髪をグシャグシャとかき混ぜた。

「…お前はお前の思う通りに進めばいい。間違ってたら俺が止めてやる。だからお前は前だけ見てろ」

ハイジの顔を見ずにそう答えたが、安心と嬉しさが溢れ出したうん、と頷く声を聞きハイジの表情は容易に想像できた。



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あきゅろす。
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