短編小説
部隊長の実力 2
「フェイトちゃん、もうこれしかないよ」
「そうだね。はやては逃げ続けてるし」
「じゃあ、見よう」
「うん」
2人の眼前に展開しているウインドウ。そこに映るのは六課隊長室の記録映像だ。
そう、あれからはやてに逃げられ続け捕まえられなかった2人は最終手段に出る事にしたのだ。コレで分からなければ本当の最終手段(=ヴォルケンリッター撃破して、本当の力づくスターライトブレイカーやジェットザンバーの使用も辞さずではやてから聞き出す)を取るつもりでいるが・・・・・・
なぜここまで意気込んでいるかと言えば、
まず午前中、フェイトにアルフから連絡が入ったのだ。その中で、
「『僕はアルフからも信用されてなかったんだね。頑張らないと』とか言って溜息ついてたんだけど、一体何があったんだい?」
と、首を捻りながら言われたのだ。
アルフもフェイトも翔を信用していないなんて有る訳がないので、2人して首を捻る事になった。
次に、昼にその話をフェイトから知らされたなのはは嫌な予感がして実家に連絡をとった。
「翔君なら何か落ち込んでたわよ。朝食後に何か考え込んで『頑張らないと』って気合い入れてから元に戻ったけど。何かあったの?」
と桃子に言われ、
「昨日の晩、そっちから帰って来たら誘われて一緒に呑んだけど、『僕って信用無いんですね』ってかなり落ち込んでたぞ。喧嘩でもしたのか?」
その場にいた士郎からも言われなのはは呆然とした。
フェイトもそうだが、なのはだって翔を心底信用している。それどころか信頼し、頼って甘えてもいる。そんな相手に「信用されていない」なんて思われて焦らないはずがない。
2人とも慌てて翔に連絡を取ったのだが、はぐらかされて終わっている。
結果、「原因を知らないと動けない!」と2人は並々ならぬ決意を持って行動を開始したのだ。それでも逃げ続けたはやては賞賛されてしかるべきだろう。
◇
無人の部屋のドアが開き、2人の人間が笑顔で会話をしながら並んで入ってくる。
「んーいつもよりずっと美味しく感じたわ」
「ここの料理は美味しいよ。はやての努力の結果の1つだね」
「アンちゃんに褒められるんは凄い嬉しいわ」
「腕組んでる・・・」
「落ち着いてなのは。続きを見ないと」
「・・・・・・・・・そうだね」
「アンちゃんと会うの久しぶりやのに、仕事せなあかんなんて」
執務席に着きながらはやては頬を膨らます。
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、はやての仕事を邪魔する為に顔見に来たんじゃないから僕は退散するよ」
「もうちょっとくらいあかん?」
「声掛けてくれれば何時でも会いに来るよ。君達は僕の大事な愛し児達なんだから」
「!キ、キス・・・」
「う〜、おでこなら・・・けど人の見るのは・・・」
「う・・・せやから恥ずかしいって・・・や、嬉しいねんけど・・・」
顔を紅くして俯くはやてを不思議そうに見る翔。
「せ、せや!なら晩御飯一緒に食べよ!今日は急ぎの仕事ないし」
「ん?嬉しいけど、今日はフェイトと食事する約束だから・・・多分大丈夫だろうけどフェイトにも訊いてみてからで良い?」
「へー。フェイトちゃんと・・・って、フェイトちゃん何時の間に連絡とってたん?」
「アルフ経由でだけど?『最近会ってないんだろ?フェイトも会いたがってたし、行くよな?』ってアルフに言われた」
「ふーん、アルフは盲点やったな・・・」
俯いたはやてに首を傾げながらも、機嫌が悪くなったのは察して翔ははやての頭を撫でる。
「ふーん、アルフさんかー」
「な、なのは?別にそんなつもりは・・・・・・」
「そんなつもりってどんなつもり?」
「い、いやその、だって、久しぶりに会いたかったし、その、寂しかったし・・・」
「うん、まあ、その気持ちは分かるから良いよ」
「そういえば、ここに来るまでにちょっと聞こえたんだけど・・・」
「なに?」
ふと何かを思い出した調子で手を下ろした翔に、はやては顔を上げる。
「なのはとフェイトが付き合ってるって本当?」
「はぁ!?」
「なにそれ!?」
見ている方も大混乱である。
「あー、それをどっから聞いたのかは今は良いとして」
「「良くない!!」」
「ちゃんと聞き出してよはやてちゃん!」
「問い詰めてよ!誰からかまで詳しく!」
そんな外野には当然構わず画面は進む。
「2人が付き合ーてたらアンちゃんは反対するん?」
「なんで?2人とも良い子なのはよく知ってるのに。良い相手見つけたって祝福する理由なら数え切れないくらいあるけど、反対する理由なんて1つもないよ」
はやての言葉に、本当に不思議そうに首を傾げ、娘自慢そのままの嬉しそうな笑顔で告げる。
「いや、あるでしょ?」
「一番大きいのが・・・」
「わたしもフェイトちゃんも女の子なんだよ。ヒュー・・・」
なんかもう泣きそうな顔である。
「・・・2人とも女の子なんは気にせんのやね・・・」
「? 気にするはずないじゃん。僕女に生まれた時は同性愛者なんだから」
「は?」
呆然とするはやて。ついでに画面の前の約2名も目を見開き口をポカンと開けている。
「僕は必ず男に生まれる訳じゃないんだから、女でだって生まれるんだよ。言った事無かったっけ?男親も女親も経験してるって」
「あ、あ〜〜聞いた事ある」
「それで僕の恋愛対象って、基本的に女性なんだよね」
「せやから女に生まれた時は同性愛者になると」
「うん。実際女だった時だって彼女いたの結構あるし。だから僕同性愛に対する偏見とか忌避とかって一切無いんだよ」
「そらそーやろーなー」
翔の説明にうんうんと頷くはやて。しつこいようだが画面を見つめて頷いている女性が2名ばかりいる。
「はやてがそんな風に聞いてきたって事は、2人が付き合ってるってのは本当なのかな?」
「あーー、うん」
「「なっ!!」」
絶句
「「はやて(ちゃん)!!!」」
後に叫び、射殺さんばかりに(画面を)睨む女性2人。
「ハー そーなんだ・・・・・・
なんで教えてくれなかったんだろう?僕が反対するとでも思われたのかな?
そーだよね・・・・・・
僕ってそんなに信用無いのかな?ないから教えて貰えないんだよね・・・」
付き合っている事を教えて貰えなかった=反対するような人間だと思われている=信用されていない
と言う方程式が出来上がった翔は肩を落とし暗い影を背負う。
「アンちゃん、そんな落ち込まんで」
そんな翔の肩を(立ち上がって)ポンポンと叩き慰めるはやて。
「はやてだって反対すると思ってたんだろ?
君達が幸せなのが僕の望みで、幸せになれるのなら反対なんてしないのに。幾らでも応援するのに。
それなのに、それなのに・・・・・・・・・」
「アンちゃんがわたしらの事大切に思ってるんは良く解ってるて。ただ、常識とか「そんなモン知らん。僕の存在自体が常識から外れてんのに、んなモン気にするか」
はやての言葉を遮った翔の顔を見て、はやては「しまった」という顔をする。
「あーあれは拗ねてるね」
「うん」
「せ、せや、アンちゃんが反対なんかせんて分かれば話してくれるんやない?」
はやての言葉に翔はバッと顔を上げる。
「そうかな?信用してくれるかな?」
「もちろんや!(2人がアンちゃんを信用せんはずないしな)」
「うん、そうだな。落ち込むより信用されないと」
力強く頷くはやてに翔は決意を固める。
「・・・よし、まずは。はやて」
「なんや?」
「なのはって今日の夜仕事有るのか?」
「へ?通常業務やけど、それがどうかしたんか?」
「なのはの分の仕事はなんとするから、休ませて貰って良いか?」
「どういう事?」
「今日フェイトと食事の約束してるから、それをなのはに譲ろうと思って。
せめてものお祝いに仕事から離れた2人の時間を上げたいんだ。その分は俺の知識を総動員して穴埋めするから」
「『俺』になってる・・・」
「・・・本気だね・・・」
「こんな事で本気にならなくても・・・」
「っていうか騙されないでよ・・・信じないでよ・・・」
「・・・うん・・・わたし達の方が信用されてなかった気分・・・」
「うん」
「んー、わかった。アンちゃんの頼みやし何とかしたる!」
「ありがとうはやて」
「その代わりというとなんやけど、アンちゃん今日の夜空いたんやろ?」
「ああ。我儘聞いて貰った分と、なのはの仕事の分なら幾らでも手伝うぞ」
「そやのーて、いや、それはもちろん嬉しいんやけど、なら、今日の晩御飯はわたしらと一緒に食べよ?」
「?良いよ。せめてもの御礼に僕が作るよ」
「それも嬉しいけど、折角やし一緒に作りたい」
「それは晩のはやての疲れ具合で決めよう。僕ははやての事も心配してるんだからね」
頭を撫でられ頬を染めるが、本心から心配されている事を理解しているはやては嬉しそうに笑う。
「それじゃ僕はちょっとレストランの代金とかこっち回して貰う手配してくるよ」
「ん、わかった。後でな、アンちゃん」
「はやても無理はしないでね」
そうして画面の中、翔は部屋を出て行き、はやては仕事に取りかかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ふーん、そーゆーことだったんだ・・・・・・・・・」
(必要な)映像が終わった画面の前、ゆらりとサイドポニーの女性が立ち上がる。
「やってくれたね・・・・・・・・・」
その隣、同じくゆらりと立ち上がったのは長髪を背後の膝の上あたりで1つに纏めた女性だ。
「「・・・・・・はやて(ちゃん)・・・・・・」」
並んでドアへと歩いていく2人の女性。
なんかもう、黒いというか暗いというか、漆黒の闇のようなものを背負ってというか纏ってというか、全身から発している。
その俯いて見えない顔がとても怖恐ろナニかを誘う。主に恐怖とか恐怖とか冷汗とか脂汗とか死の予感とかを。
だって彼女達は聞いてしまっていたから。
翔が出て行った後の部屋ではやてが呟いた言葉を。
「すまんなー なのはちゃん。フェイトちゃん。
けど、真っ直ぐなだけじゃ、部隊長なんてやってられんのや」
「これでわたしがリードやな」
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