短編小説
あり得るかも知れない未来 2
「あの子達は理解していないのか?」
あの後、やってきたフェイト・アルフ・八神家・ハラオウン家そして家主の高町家全員参加の宴会になり、今は解散したその日の深夜だ。
そんな闇の中、恭也は傍らに立つ人物に尋ねる。
「そうでしょうね」
そんな恭也に静かに答えたのは翔だ。なのは・はやて・フェイトの3人に張り付かれていたが、現在は彼女等を起こすことなく抜け出してこの場にいる。
「けど、理解するまで待ってるわけにはいきません」
恭也が何かを口にする前に翔は口を開く。
「・・・そうだな。君が危険だ」
その言葉の意味する事に、だから恭也も同意する。
「自業自得なんですけど、一つだけ愚痴らせて下さい」
「・・・聞こう」
「ただ、穏やかに、平和に暮らしたいだけなんだけどなぁ」
その内容と、あまりにも寂しそうに零された言葉に、恭也は何も言う事が出来なかった。
「聞いて貰ってありがとうございます」
「いや。・・・すまない」
「気にしないで下さい、と言っても恭也さんには無理ですね」
「ああ」
「なら、あの子達も含めた後の事はよろしくお願いします」
「言われるまでもない」
恭也の即答に「でしょうね」と翔は苦笑する。
「それでは、恭也さん、士郎さん、今まで色々とお世話になりました。桃子さんと美由希さんにもよろしく言っておいて下さい」
「ああ ・・・父さん?」
頷いた恭也の動きが止まり
「やれやれ、気づいていたのかい」
家の影から高町士郎が頭をかきながら姿を現した。
「僕たちがここに来るのに気づいて着いて来ていたことなら気づいてました」
「全く、翔君には敵わないね」
翔の言葉に士郎は苦笑し
「出て行くのかい?」
表情を一変させ真剣に尋ねた。
「はい」
そして戸惑うことなく肯定する翔。
「・・・・・・そうか」
真っ直ぐに見返す瞳に覆す事は出来ないと悟った士郎は大きく息を吐き出した。
「たまにでいい、連絡くらいは入れてくれ」
「こちらからの一方通行になってしまうと思いますが」
「それでも良い。君が無事だとわかるなら、な」
「わかりました」
頷いた翔に士郎は安心したように笑った。
「それでは、長い間お世話になりました」
「それは後十年以上先に、美由希かなのはに言われる言葉だと思ってたんだがな・・・」
士郎が寂しそうに呟いた言葉が、恭也の胸にやけに響いた。
◇
「お父さんお母さん、ヒューがいない!!」
翌朝、恭也が自分を起こしに来た事を不思議に思ったなのはは翔の部屋へ直行し、誰もいない部屋に我に返って居間に駆け込んできた。
「おはようなのは」
だが、そんななのはに士郎は普段と変わらぬ挨拶を送る。
「あ、おはようお父さん。じゃなくって!ヒューがいないの!」
一瞬流されそうになったなのはだが、すぐにハッとして叫ぶ。
「落ち着きなさいなのは」
「でも!」
「落ち着け」
士郎と恭也の2人がかりで言われてなのはは口を閉じる。
が、その目は「説明して!!」とハッキリと言っていた。
「翔君は昨日の夜出て行った」
「・・・・・・ぇ?」
士郎の言葉に呆然とするなのは。
「う、うそ・・・」
「本当だ。昨日の夜、お父さんと恭也が見送った」
「な、なんで!?そんなのうそ、うそでしょ!お父さん!!」
「本当だ」
「なんで、なんで!!」
◇
放課後、必死の顔で走って帰って来たなのはと、同じように真剣な顔をしたフェイトとはやてが高町家の居間で恭也と向き合っていた。
ちなみに、士郎がいないのはまだ翠屋で仕事中だからである。
もう一つついでにいうなら、なのはは朝翔が出て行ったと言う事以外は何も聞いていない。騒いでいる間に時間が過ぎ、「学校に遅れる」とバス停まで(恭也に)強制連行されたからだ。
「おとう、、ショウが出て行ったって本当ですか」
硬い表情で、最初に口を開いたのはフェイトだった。
「本当だ」
「!!」
短く返された肯定に、フェイトはショックで言葉を失う。
「なんでや・・・なんで出て行ったんや!」
そんなフェイトに代わり爆発したのははやてだった。
その隣ではなのはも真剣な顔で恭也を見つめている。
「・・・仕事だそうだ」
「「「仕事?」」」
首を傾げるなのは・フェイト・はやて。管理局に入った自分達ならともかく、まだ小学生の翔に仕事があるはずがない。あっても翠屋の手伝いだが、それなら出て行く事などないのだから。
「記憶があるのは役目があるからだと聞いた事があるだろう。その仕事だそうだ」
不思議そうにしている3人に恭也は説明を加える。「その仕事の内容はしらない」と付け加えるのも忘れなかったが。
「な、なら!その仕事が終わったら帰ってくるの!?」
気づいたようになのはが声を上げ、フェイトとはやてがハッとしたように顔を上げる。
「・・・・・・おそらくは、ない」
だが、恭也は少し考えた後否定する。
「な、なんで!!」
なのはの叫びに、同意見だと睨むフェイトとはやて。
「翔は元々1人でも生活出来る。実際、初めて会った時もサバイバル生活していたしな」
「それだけなら帰って来ないとは言えへんやないですか」
「そうだな」
「なら!」
はやての言葉を肯定した恭也にフェイトは期待を持って声を上げる。
「だが、翔は元々家で世話になる事にも否定的だった。俺たちが無理矢理に説得して留めたんだ」
「でももう家族だもん!」
なのはが叫ぶ。
「帰ってくる気があるのなら、部屋をあそこまで片づけては行かない。今のあの部屋は翔に与えられた当初と同じ状態だ」
が、恭也の返答は無情だ。
「一応、父さんが連絡を入れるようにとは言っていたし、翔も承知していた」
「な、なら」
「その時に」
「帰ってきてって説得する!」
3人は決意を固めていた。
「一つ聞きたいんだが、こうなる事は覚悟していたんじゃないのか?」
道場へ行く、と言った恭也が背を向けたまま3人に問い掛ける。
「どういうことですか?」
フェイトが聞き返すが、なのはとはやてもフェイト同様に恭也の背中を睨むように見ている。
「時空管理局という所にとって、翔というのはどういう位置づけになるんだ?」
そんな3人に構うことなく背中を向けたまま恭也は再度問い掛ける。
「翔と敵対しないことを、俺は願うよ」
本当に小さく零された呟きは、だが何故か3人の耳に届き、こびり付いたように離れなかった。
◇
時空管理局の法において、
・魔法のない世界で勝手に魔法を教えたり魔導具を渡したりする事は犯罪である事
・ロストロギアやそれに相応のモノについては最優先で対応し、秘匿は犯罪である事
等を知り、
翔の存在とその知識等を思い出し、真っ青な顔をして見つめ合っている3人の姿があった。
また、その日のうちにフェイトの家へ向かいリンディとクロノに確認を取って蒼白な顔でフェイトの部屋へ籠もった3人の少女がいたそうだが未確認である。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
バッドエンドでしょうか?
敵対するというか、ほぼ確実に自分を追う事になるだろう最大組織になのは達が所属する事になり、自分の存在をきちんと知られる前に雲隠れを決行した主人公と、
主人公を失う引き金を知らずに引いてしまった3人娘
と言うお話でした。
まあ、これも一つの結末の形としては有りなんじゃないかと思うのですが・・・
あぁ、短編のはずなのに長いのは何故・・・?
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