Trip Sisters!
彼の中に潜む彼女
応接室ー
雲「君は、いつも外を眺めてるね」
10月某日。
放課後いつものように応接室で雲雀さんの風紀委員の仕事をお手伝いしている途中。
「外が、好きなんです」
雲「?」
手つかずの書類を掴んだまま、私はボーッとしながら窓の外を眺めた。
「窓から見える外の景色、綺麗だと思いませんか?」
手の中の書類を透けガラスのテーブルに置いて、窓まで近づく。
雲「さぁ。僕は窓から見るんじゃなくて、外に出て眺めたいけどね」
「確かにこんな枠に閉じ込められた景色なんて窮屈なだけだと思います」
見る範囲が決められた。
自由でいられる場所が決められた。
何もかも決められた世界。
雲「僕は自由じゃない場所が嫌いだからね」
「自由な空も素敵ですが、中には…こうして閉じ込められた景色のほうが魅力的に見える変わった人もいるのです」
雲「あぁ、いまの君みたいなね」
「ふふっ、そうですね」
青く澄んだ空、純白に浮かぶ雲。
熱く輝く太陽。
「そう言えば、雲雀さんは雲の守護者でしたね」
雲「別にそんなものに興味無いけど」
「雲雀さんが雲なら、私は星になりたいです」
雲「星?」
朝では見られない、夜に輝ける星。
現実世界で雲雀さんを見てきた私と同じ…。
「星だと、夜でも雲はあるから一緒にいられると思うんです」
雲「星、ね」
昼間でも見られる星はお姉ちゃんだから。
いつでも輝ける、多才な姉。
憧れてた。
怠けているのに、いざとなれば何でも出来る。
それは、影で努力していたから。
私も、努力を怠らない人になりたい。
「いつか、誰かを護れるくらい…強くなりたい」
雲「……君は星には向いてないね」
「え?」
書類仕事をしていた雲雀さんは、手を止めて私の隣までくる。
雲「僕には、君は星なんかよりずっと綺麗に輝く…月に見えるけど」
「……つき?」
雲「そ」
月。
暗い夜を照らす希望の光。
月なんて、憧れの憧れだった。
そんなに大きく輝けない。
そんなに私は強くない。
「…私に月は贅沢すぎます。星で充分ですよ」
雲「…どんなに小さな星でも、集めれば大きな光となる。
そんな綺麗事、僕は嫌い」
「…」
雲「だから、君には、綺麗事で並べられた星じゃない…大きく輝く満月でいてほしい。そう思った、かな」
そう言って私に微笑む雲雀さん。
満月……。
「そう、雲雀さんが望むなら」
貴方が望むなら、私は星にでも月にでも、満月にでもなる。
いつか、堂々と貴方の隣を歩けるように、立てるようになるまで。
私は貴方を追いかけ続ける。
雲雀sideー
雲「ま、あくまで僕の勝手な理想だけなどね」
「いえ、そう思って頂けただけでも嬉しい限りです」
そう言って、僕に微笑みかけて一礼する彼女。
…不思議な子、だと思った。
雲「…こんなの他人から見た主観なのに、よく嬉しいだなんて思えるね」
他人から見たり聞いたりする言葉や視線なんて、ウザったいだけのものなのに。
「……?人間の見方や主観なんて人それぞれです。自分にとって見えてはいないものが、他者には見えている。
それを教えてもらって初めて自分が気付く。それは、とても有り難いことだと思います」
雲「斜め上からの感想どうも」
長々と話した彼女に完敗し、僕はふてくされながらも愚痴をこぼした。
「雲雀さんの頭に住んでいる寝癖もそうです」
雲「寝癖?」
「朝からいましたけど、いま言われるまで気づかなかったでしょう?まぁ、雲雀さんの性格上あらかたどうでもよかったのか、さほど気にしていないのか、ですがね」
そう言いながら、少し背伸びして僕の寝癖を直す彼女。
本当に完敗だ。
僕と彼女では、考えていることがなにもかも違う。
きっと見るもの、聞くもの、考えていること、思っていること、感じていること。
その何もかもが、彼女には新しく見えているのだろう。
きっと、僕にはわからないことだけで。
「はい、直りました。言ってしまえば、人から言われなければ気付かない人なんてどこにでもいます。エスパーや、よほど気の利く方でなければ全く気づきません。そんなことに気づいて、指摘して、上から目線で語る人は確かに嫌いです。いい訳の仕様がないくらい」
雲「どんな形であろうと、他人から指摘なんてたまったもんじゃないね」
その瞬間、咬み殺してあげるよ。
「物騒ですね。では、いまから私と雲雀さんは帰宅しますが…そのときにもし、雲雀さんのズボンのチャックが開いていて、パンツが丸見えの状態で私がそれを指摘せずに、雲雀さんと夜道を歩いていたら、それはそれで……まぁ、なかなかいかがわしいことになりますが。これはどうですか?」
雲「教えたら咬み殺すし、教えなかったら後から咬み殺すかな」
「そう。どの道どちらを選択しても結末は同じ。雲雀さんでなくとも、教えたら激怒なさる方もいれば、教えなかったらそのまま絶交なんてこともありえる。人間とは、正直になれない生き物です」
雲「正直になって、どうしたいの」
正直になったところで、良いことなんて一つもない。
だったら、ひねくれていたほうが何倍もマシだ。
「ひねくれて嘘ばかりついても、想いは伝わりませんよ」
雲「何を伝えるの」
「あなたが思ったことです。口を開かなければわからない。思ってるだけでは伝わらない。嘘をつけばつくほど、話しはごちゃ混ぜになって、話しの元がわからなくなる。その点、正直な気持ちを伝えてしまえば話しはややこしい方向にはいかないし、相手に想いは伝わります」
雲「やだ」
「雲雀さんは頑固なので本音をなかなか喋りたがりませんが、雲雀さんの言いたいことは、わかる人にはわかりますよ」
雲「君はわかるの?」
「丸わかりです。ディーノもリボーン君も、わかってると思いますよ」
雲「……くだらない」
「ふふ、まずは正直になるところから始めましょうか♪」
雲「しないよ、もうっ」
僕の中に潜む彼女は、なんとも小悪魔だった。
それと同時に、僕を光の世界へと導いてくれる…まさに月のようだった。
雲「ズボンのチャック平気?」
「えぇ、大丈夫ですよ」
Fin*°
11.13
ATOGAKI*°
この前、西尾維新さんの「掟上今日子の備忘録」を見てなんとなく思いついたので執筆してみましたw
西尾維新さんの小説大好きです!!
物語シリーズとか全巻持ってます( ・´ー・`)
初の短編で焦りましたが、楽しんで頂けたらなによりです!!!
読んで下さりありがとうございます😍💕
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