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きずな
ここにいてありがとう
*




 気付けばもう三月で、桜の花が咲いていたりする。そして私は通い慣れた道を通って山南さんのお墓へとやってきた。

 お墓の上には立派な桜の木が枝を伸ばしていて、辺りは雪が薄く降り積もったように白くなっている。
 私は墓石の上のそれを軽く払ってから手を合わせて目を閉じた。


 今日は山南さんの月命日。この日にはいつも会う人がいる。私はそれを今日も期待していた。





 後ろから足音が聞こえた。それに振り返るとその足音の持ち主、左之さんは目を真ん丸にして驚いた。



「うわっびっくりした! 急に振り返るなよ!」
「あはは、ごめんね」


 左之さんとはお参りしようと思う時間が一緒なのか毎月ここで出会う。それはあれから数ヶ月が過ぎた今日でも変わらない。




 そして私が恐れていたように、左之さんやみんなから軽蔑されることなんてちっともなかった。こうして普通にいつも通り話しかけてくれる。

 いや、私は本当はみんなから軽蔑されるべきだったんだ。そんなことで傷つくべきではないし、そんな資格はない。



 だけど、みんなの暖かさに私は甘えてしまっているんだ。





「今日はどうしても左之さんに会いたくて、待ってたんだ」
「ふうん、何か用でもあるのか?」


 立ち上がって体ごと左之さんに向き直る。そして私より頭一つ分背の高い左之さんの顔を見上げた。




「たぶん私がこうしてここに来れるのも最後だから、その前に左之さんと話がしたくて」
「……そっか」


 新選組を抜けたら気軽にこんなところ来れるはずがない。淋しいけど仕方のないことだ。


「ねえ左之さん、私、新選組を離れることにしたよ」
「んなこと知ってるよ」

「ごめんね」
「謝んじゃねぇよ、馬鹿」


 左之さんに頭をはたかれる。試衛館にいた頃から何回こんなふうに叩かれたんだろう。

 痛くはないけど頭を抱える。


 笑っちゃうな。いつからこんなに涙脆くなったんだろう。



「それでも、私は伊東さんについていきたいんだ」
「さっさと行っちまえ。せいせいすらぁ。」


 そうやって笑い飛ばして、それでも頭を撫でてくれた。



「今までありがと、左之さん」



 言いたかったのはそれだけ。

 左之さんがすんと鼻を鳴らした。
 
 
 



20081123 彩綺


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