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きずな
もう言わなくても、ね
*





「ねえ、入ってもいい?」
「どうぞ」


 部屋の外から声がする。誰かなんてすぐにわかる。
 そちらの方を向くと、総司が障子から顔を覗かせてる。顔色は相変わらず青白くて不安になる。


「寝てなくて大丈夫なの?」
「それより大事なことがあるから、大丈夫」


 総司は最近労咳の具合がよくなくて部屋から出てくることが減った。もちろん隊務につくことなんて無理だから、新さんが一番隊も率いている。

 総司の言う大事なこと、きっとあのことだ。昨日伊東さんが新選組を離脱するという話が全体にされて以来、試衛館のみんなとはまだ誰とも話していない。

 何て言われるんだろう。きっと総司は軽蔑してる。裏切り者だって思われてるだろう。

 総司は私の返事を聞くとゆっくりと部屋に入ってきて私の正面に座った。


「ねえ、平助」
「何?」


 総司は神妙な顔をして私を見る。私も総司も、緊張してる。今までそんな風に会話したことはなかったのに。






「本当に行くんだよね」
「……うん」
「本当に?」
「うん、本当に」


 何度も念を押される。まだ信じられないって気持ちが強いみたい。


 でも、私の心は変わらないから。



「ごめんね」



「平助のばか!」



 あれ、この間も同じようなことを言われた気がする。
 総司は頬を膨らませて怒りを露わにしてる。やっぱり怒ってるよね。



「うん、そうだよね。ばかだね、私」
「本当にばかだよ」
「ごめんね」


 私が謝ると、総司はさらに顔をしかめた。




「そんなに伊東さんが好き?」
「うん、すごい人だよ。尊敬してる」
「私たちよりも?」


 そんなの、答えられるわけがない。黙り込むと、総司は何故か笑みを零した。






「なんてね」
「えっ?」


 総司はいたずらを企むような子供っぽい顔で笑った。それは普段とちっとも変わらない。



「平助はばかみたいに頑固だから。決めたらもう動かない」
「……うん」
「だったらしょうがないや」


 総司が呆れたように笑って首を振る。そして立ち上がった。



「仕方ないな。もし何かあったら私が平助を殺してあげるから、安心して」
「うわ、怖いよ」


 私も思わず笑顔になってしまう。こんなやりきれなくて、しかもすごく物騒な話なのに。



「じゃあ任せたから、それまで死んじゃ駄目だよ?」
「大丈夫です! それじゃ、またね」




 総司はヒラヒラと手を振って、部屋を出ていった。





 またね、ってことはこれで最後じゃないってことだよね。


 甘い考えかもしれないけど、嬉しくて嬉しくて堪らない。





 私は本当にばかだ。








20081115 彩綺


あきゅろす。
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