きずな
心のぜんぶで想うこと
*
噂は瞬く間に広がっていくもので、伊東派が隊を抜けるという話は数日のうちにみんなに知られていた。もうすぐ公式に発表もされるはず。
そして私は今までよりさらに伊東さんと過ごす時間が多くなった。
「よ、平助」
伊東さんの部屋に行くときはよく人に会う気がする。今日は新さんが私のことを待ち構えるように立っていた。
「おはよ、新さん」
私は正直顔を合わせにくい。だけど、私が抜けることを知っているのは今のところ伊東さんだけだから、新さんは普通に何も気にすることなく私に声を掛けたんだろう。
「元気か?」
「まあね。新さんは?」
「まあ、いつも通りだな」
久し振りに話したから、どこか不自然な会話。一緒に暮らしていたら知ってて当たり前なのにね。
「なあ、ちょっとだけ話せるか?」
「……うん、大丈夫」
新さんが真面目な顔になった。先の話が何についてなのか、大体わかった。
「伊東のことなんだけど」
「……うん」
思ったとおり。当然気付かれていたに決まってるよね。さて、何て言われるのかな?
「あいつら、新選組から分離するらしいな」
「そうみたいだね」
自分の事なのに、まるで人事みたい。新さんは何故かそれを聞いて笑った。
「お前もだろ、平助」
やっぱり、気付かれてた。新さんは鋭いから、きっとわかってると思ったけど。
それなのに、何でだろう。いつもと変わらない優しい表情なのは。
「うん、私も行くよ」
だから私もいつも話すように普通に返事をした。新さんは一度大きく頷いて、フッと遠い目をした。
「そうか」
「うん」
「淋しくなるな」
「……うん」
そうだね。
それ以上言葉にするとまた私は弱くなってしまいそうだから、しばらくそのまま黙って二人並んで座っていた。
20081114 彩綺
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