きずな
涙も笑顔も、何もかも
*
私の心はもうほとんど決まっていた。
伊東さんを選ぶのか、それとも新選組のみんなを選ぶのか。
どちらも私にとって大切でかけがえのないもので、選べばどちらかは必ず失ってしまう。だから本当に、本当に迷って、やっと心を決めた。
さて、次の問題はそれをどうやって伝えるかなんだけど。何だか緊張するし、難しい。
とりあえず伊東さんの部屋に向かおうと思って廊下を歩いてたら、今一番気まずい人と出会ってしまった。
「……土方さん」
「平助か」
土方さんは縁側に腰を下ろしてお茶を飲んでいる。今日は暖かいからひなたぼっこでもしてたのかな。
いつもすごく近くにいるのに、何だか久し振りに言葉を交わした気がする。
「どうしたんだよ、こんなところで」
この先には局長と副長、そして参謀の部屋しかない。最近私がここに来るのは伊東さんに用がある時だけだ。
「用事があって、伊東さんに」
私は答えるのを少し躊躇った。伊東さんを疑い始めている土方さんに伊東さんの話を振るのは気が引ける。
「ふん、仲が良いことだな」
土方さんは気に食わない様子で言う。何を言ったらいいのかわからなかったから曖昧に笑っておいた。
「だけどな、伊東今出てるぜ」
「えっ!?」
奥に向かいかけた足を止める。目的がなくなってしまったら、ここには気まずい空気だけが残った。
「ちょっと座っていけよ。今日はいい日和だ」
「……うん」
しばらくの沈黙のあと、土方さんに促されて私は土方さんの隣りに座った。だけどその後もやっぱり無言が続いた。
「……ごめんね」
「はあ?」
土方さんの横顔を見ていたら何故か申し訳ない気分になったんだ。
私は伊東さんに着いていく。新選組を抜けてしまうから。
土方さんの顔も見ずに立ち上がって、元来た廊下を歩き出す。
きっと土方さん驚いただろうな。何のことか、気付いてるかもしれないけど。
やることがなくてぼんやりと歩いていたら、廊下を曲がったところで人とぶつかってしまった。
「おや、平助」
「……伊東さん!」
伊東さんがちょうど帰ってきたみたいだ。今日は暖かかったからか羽織っていた着物を腕に掛けている。
ちょうどいい。この機会に言ってしまおう。伊東さんに着いていくって。新選組を抜けるって。
「どうしたんだい、平助?」
「えっ?」
頬をそっと拭われる。冷たい手。でも優しい手。
自分の手も頬にやる。濡れてる。ああ、泣いてるんだ。
「ごめんなさい、あれ、何でだろう?」
ああもう子供みたいじゃないか!
こんなことしていないで、早く伝えよう。
「伊東さん、私、伊東さんと行きます。新選組から脱退します」
とにかく、はっきりと伝えるべきことだけ伝えた。
伊東さんは驚くこともなく、ただ微笑んで頷いてくれた。
もう後戻りはできない。
こんな、泣くなんて今日で終わりだから。
20081113 彩綺
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