きずな
当たり前のやさしさは
*
もう日課となっていた山南さんのお墓の前での時間。
こうしてここにいる一人の時間は落ち着くんだけど、少し淋しい。
「ね、山南さん」
もちろん返事なんて返ってこない。それでも私はひとりで話し続ける。
「もうよくわからないんだ。どうしたらいいのかな?」
結局は自問自答だけど、何だか頭の中が整理できる気がする。
新選組を抜ける、それってどんな気持ちなんだろう。
山南さんはあの時何を考えていたのかな。
「どうすれば決められるのかな」
抜けるか残るか、ではなくて。
決めなくちゃいけないのは、覚悟だ。
「痛っ!」
いきなり頭をはたかれた。後ろから近付く気配に気付かないほど悩んでたみたい。
「どうしたんだよ、平助?」
「……左之さん」
振り返った私の顔はさぞ情けないものだったんだろう。左之さんは苦笑いを浮かべている。
手には数本の仏花、そういえば今日は山南さんの月命日だった。
「何か平助に会うのが妙に久し振りな気がするな」
「最近十番隊出動多かったもんね」
「ほんと、土方さんも人使い荒いよな、まったく!」
「あはは、ほんとにね」
正直、最近の私にはわからない話だけど。とりあえず合わせて笑っておけばいいかな。
「……おい」
ヒョイと目の前に左之さんの顔が現れた。まじまじと覗き込まれる。
左之さんは鈍そうに見えて案外勘が鋭いから、不安になる。
もう何もかも、知っているんじゃないか。
「どこか具合悪いのか、顔色悪いぜ?」
一瞬呆然としてしまった。何を言われるのか、すごく緊張してたから。
そういえばそうだった。左之さんはこういう人だ。
言葉はちょっと乱暴だけど、実はすごく世話焼きで優しい人。
「ありがとう、私は大丈夫だよ。元気だから」
思わず笑顔になる。何だか久し振りな気がする。
「ならいいんだけどな。ま、元気出しやがれ!」
左之さんはいつも通りにかっと笑って私の頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。
何でだろう。
すごく嬉しいのに、涙が出そうだったのは。
20081112 彩綺
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