御題 すれ違う正義のもとに . じゃあね、と呟く。 ああ、と返す。 それが本当に最後だった。 「お前、それ、本気なのか」 「うん」 新八の問い掛けに何の衒いもなく平助は頷く。 顔には微笑を浮かべている。それは穏やかなもので、いつもの明るく幼いものとはだいぶ様子が違う。 「私は、ここを出て行くよ」 一呼吸おいてもう一度しっかりと頷く。 自分に言い聞かせるようなその仕草は、平助のほんの少しの名残に見えた。 「そうか」 「あれ、それだけなの」 けっこう勇気がいったのにな、と平助は表情をくしゃりと和らげる。 緊張が緩むと普段の年の割に幼い表情に戻った。 「何を言ったって、どうせお前は曲げやしないんだろう」 新八は呆れたように溜め息を吐き、平助に視線を送った。 平助の答えなど簡単に予想がつく。 「もちろん」 俯くことなく真っ直ぐに新八を捉えるその瞳は揺らぎようもない。 予想通りの答えに新八は満足げに頷いた。 「やっと私の進むべき道がわかったんだ」 「そっか、それはよかったな」 新八は目線の少し下にある頭を乱すように乱暴に撫でる。 平助は嬉しげに顔を綻ばせ、しばらくされるがままになっていた。 不意に二人の体が離れた。 平助は飛び跳ねるように軽い足取りで部屋の出口まで走っていく。 「もう行くのか?」 「うん」 至極あっさりとした返事が返ってくる。 何事もなかったかのような様子に新八が拍子抜けしていると、何かを呟く微かな声が耳に入った。 「平助、今何か言ったか?」 「……きっと、新さんもそのうちわかるよ」 何をだ、と新八が聞こうとするが、平助は「じゃあね」とそれを遮った。 戸の陰から顔を出し手をヒラヒラと振る、普段と変わらぬ姿。 それなのに新八は、きっとこれっきりなのだろうと強く感じたのだった。 20080804 彩綺 |