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御題
この国の未来を本当に憂う者がいるのなら




 それは伊東さんだ、と平助は思った。文机に向かう後ろ姿が一段と細くなったように見える。

最近は朝廷に提出する建白書の作成に根を詰めているようだ。これで三通目だが、着実にその先見の才が開花している。

平助などは未だに攘夷思想が拭い去れないが、伊東の思想はすでに大開国にまで発展している。

「伊東さんってすごいな」

そう呟くと、伊東は肩を震わせて笑っている。

「平助はいつも突然そのようなことを言い出すね」
「だって本当のことですもん!」

伊東の横から机の上の文を覗き込む。伊東の流麗な文字で、しかし力強い言葉が並んでいる。平助は溜め息を吐いた。

「やっぱりすごすぎます、伊東さん」

尊敬の念を瞳に宿して、伊東を見つめる。伊東はクスクスと苦笑する。

「僕だって、最近は心苦しいことばかりだよ」

伊東はそのまま床に仰向けに倒れ込む。両手を頭上に伸ばすと、体の関節が音を立てた。

「じゃあお昼寝するといいですよ!」

平助も同じように横たわる。隣りに目を向けると、気持ち良さそうに目を閉じる伊東の顔が見えた。

「それも、たまにはいいかもしれないね」
「ふふっ、何だか楽しくなってきました!」

そうして二人して目を閉じる。晩秋ながら小春日和の日差しが開け放した障子から差し込み、二人を暖める。

 見る夢はどちらも同じ、どうしても叶えたい、願い、なのだ。




20071110 彩綺


あきゅろす。
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