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江戸の片隅の小さく狭い長屋。
そこで平助は母と二人で暮らしていた。

平穏な日常、何の変化もない日々が緩やかに流れていった――




母のそれほど高くないが澄んだ声が、子守歌の形をとって布団に横たわる平助の上に降ってくる。
その手は触れるか触れないかの強さで平助の頭を撫でる。
くすぐったくて思わず笑いを漏らし身を縮めると前髪を乱すように額を撫でられた。
その間も子守歌は止むことがない。

母の声、手のひら、全てが甘く心地好いもので、平助は静かに目を閉じた。



「ごめんね、平助」

まもなく眠りにつくところであった平助の耳に、聞き取るのが難しい程小さな声で呟くのが聞こえた。それは明らかに平助に向けての言葉である。

(何で、あやまるのかなぁ)

母の言葉を不思議に思いながらも、平助の意識は眠りの底へと落ちていった。





まだ物心もつかぬ時分のこと、それが平助の最初の記憶であった。





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