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 雪の如く、舞い散る花弁の直中に一人の貴公子が立つ。
辺りには言葉に言いあらわせられぬ程、美しく清純な笛の音が響き渡る。それを発しているのがかの貴公子である。

ふと音が止み、唇から笛が離れる。一度深く呼吸し、擡げた顔は先程までとは打って変わってあどけなさすら残る少年のそれである。

「今日も素晴らしき笛の音であるな、敦盛」
「兄上」

手を打鳴らす音が場の空気を震わせる。少年、敦盛がその先に認識したものは兄経正である。敦盛は兄の元へゆっくりと歩きよっていった。

「法皇様から賜ったこの笛も敦盛が吹くことを喜んでおるだろうな」
「いえ、そんな、大袈裟ですよ」

面映ゆそうに微笑むと、まるで艶やかな大輪の花が咲いたかのように辺りの空気が華やかに変わる。

「もう一曲吹いてもらえぬか? 明日を思うと胸が痛む」
「兄上のためならば喜んで」



再び流れ始めた笛の音は、戦の場に似つかわしくなくあまりに清らかなものであった。



あきゅろす。
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