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「姉上、大伯姉上!」
「まあ大津、どうしたの、そんなに慌てて…」

弟・大津に呼ばれ、大伯は髪を梳く手を止め振り返った。
もう十二になったとはいえ幼い印象を残す顔を綻ばせ、大伯の手をとる。
その手ばかりは少年らしく固い手応えになっており、以前との違いに驚く。

「見せたいものがあるんだ。だから、ついてきて!」

と、無邪気に駆け出す姿はやはり子供で、大伯はくすりと苦笑を漏らした。

「さ、こっちこっち!」
「あ、ちょ、ちょっと待ってよ!」

勢い勇んで走り出す大津に引っ張られ、つんのめりながらも廊下を駆ける。
すれ違った女官が目を吊り上げていても気にせずに走っていったあるところで、大津は立ち止まって手を庭の方へ差し出した。誇らしげな表情である。
そして大津の手の指し示す先には、美しい紅色の花が咲き誇っていた。

「わあ、綺麗ね!」
「でしょう!」

大伯が頬を紅潮させて叫ぶと、大津は照れくさそうに頭に手をやった。

「馬酔木という花だってさっき教えてもらったんだ。綺麗だったからどうしても姉上に見せたくて……」
「……ありがとう、大津!」
弟が自分に花を見せるためだけに息を切らせてまで走ってきてくれたと思うと、大伯は感激して大津の手を握った。
すると、大津がその逆の手を伸ばして花を一枝手折り、大伯の髪に挿した。

「うん、やっぱり姉上に似合うと思った!」

そう言って髪をさらりと一撫でする。
大伯は一瞬動きを止め、その後気恥ずかしさから顔を真っ赤にした。
大津の将来の女性関係を暗示するような自然な手つきに一抹の不安を覚えつつも、嬉しさに笑みを隠し切れない。


そんな日々は長くは続かない、そんなことは百も承知だったのに

永久に続けばいいと儚い願いを抱いてしまっていた。





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あきゅろす。
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