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恋する111の動詞
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ふと、お互いの視線が交差する。
 露わになっているのは右の眼だけなのに、その力の強さに鼓動が高鳴る。

「どうした、愛」
「いえ、何でもありません」

逃げるように視線を逸らす。優しい言葉をかけられても、射るような瞳が何故か恐ろしかった。すべてを見透かされている心地がした。

「そうか、ならばよいのだが」

政宗が愛から顔を背けると、視線が一切隠れてしまう。安堵するとともに仄かに淋しさを感じる。何と身勝手な感傷なのだろうか。輿入れから数日経った今になってもこうして二人でいることにまだ緊張しているくせに、彼への慕情は少なからず持ち合わせているらしい。

ささやかな意思表示をと、着物の袖を指の先だけでほんの少し摘む。その小さな動きだけで政宗は愛の方へ向き直り、何かと尋ねるように顔を傾けた。そんな仕草の一つ一つが嬉しくもあり恥ずかしくもある。

「どうした、愛」

先程と全く同様の言葉が返ってくる。口調はぶっきらぼうで、無表情であるのも変わらない。ただためらいがちに触れられた手の熱さが、その性根を表しているように感じられた。

「何でもありません」
「そうか」

愛も同じ言葉で返してやると、今度は僅かに彼の表情が和らぐ。この、時折見せる優しげに細められた瞳にここ数日で幾度心惹かれただろうか。

「殿は悪い男の方です」
「……俺は何かしたか?」

愛が拗ねたように呟くと、政宗は実に不思議そうに考え込み始めた。その様子がおかしくて、可愛らしくて、思わずくすくすと笑いを漏らす。そうしていると、視線を感じた。顔を上げると、目と鼻の先に政宗の顔がある。
あの右の瞳一つで、強く見つめられる。
 彼が恐ろしいという訳ではない。知らぬ間に彼に囚われていく、それに歓びを感じる自分自身が恐ろしいのだ。

「愛、何をする?」

両の手で政宗の右目を覆う。政宗の男性の割に長い睫毛が、政宗が瞬きする度に掌を掠める。

「そんなにも、見つめないで下さい」

不覚にも声が震える。草木も眠る深夜である。続く行為が何であるか、推測は容易い。

「お前があまりに可愛らしいことを言うのだから、仕方がない」

手を取られ、その掌に口付けられる。続いて手首にそっと。

伏せられた右目が上目遣いで愛の瞳を捉えた。それに応えるように、愛はゆるゆると瞼を下ろした。




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あきゅろす。
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