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第1話『タイムパトローラー』

「こんなしみったれた所で、何を変えようとしていたのかな?」

薄暗い洞窟の奥深く。
その暗さにまるで似合わない明るい口調で、少女がそう問いかけた。
視線の先にいたのはフリーザ軍の戦闘兵。
名前もわからないので、そこら辺にいた雑兵のひとりだろう。

「……さぁな!ただ壊せという命令だ!」
「それで、こんなところへ?」
「飛ばされ方だって適当なモンだ!……ちきしょう!」

ロクに説明もしてくれず、罵声を飛ばすのみ。
きっと本人も解ってないんだろうし、何も聞けないだろう。
少女はそうっと掌を向けた。

「……本来、キミは此処にいない。理由はそれだけで充分なんだよ」

放たれた気弾は、兵士を一瞬で消し飛ばした。
誰もいなくなった洞窟をぐるりと見回して、何もないことを確認する。

「聞こえる?トラくん」

話す相手など誰もいない空間で、少女が喋り始める。
それに、その世界において彼女にのみ聞こえる声が返す。

『はい。終わりましたか?』
「フリーザ軍で見たような兵士さんがひとり居ただけで、他は特になし。
 ということで一回戻るよ」
『わかりました』

短い業務連絡の後に、少女は光に包まれる。
その世界から、時間を、空間を遡って。
辿りついた先は、巻物ばかりがずらりと並ぶ不思議な一室だった。

「お疲れ様です、ロリセさん」

そう少女に言うのはトランクス。
タイムパトローラーとして働き始め、いつの間にか中間管理職みたいなポジションで
上と下に酷使されている。
昔から今に至るまで、タイムマシンを使えど苦労人であることには変わりない。
恐らく、彼の生真面目な性格が災いしているのだろう。

「ただいま、トラくん。
 さっき言った通りだよ。ちなみに、有力な情報もなかった。
 また、壊せって言われただけだーってさ」

少女の名前はロリセ。
トランクスがドラゴンボールの願い事で呼び出した存在であり、
今はタイムパトローラーとして歴史をあちらこちら飛び交っている。
緑がかった黒髪をしているが、れっきとしたサイヤ人らしい。

「壊せ、だけですか。
 最近は目的もなく歴史を回る奴が多いですね」
「今回はフリーザ軍の残党だか何かだったけれど、その前は全く関係のない異星人だったし
 法則性も見えないね。まあ、どの時代にも悪はいる、ってことなのかな」
「悪にも手段が増えた、ということですか?」
「かもなーって。わからないけれど」

ミラとトワを退け、魔神を倒して、もう歴史を変える奴はいないだろうと思っていた筈なのに、
実際にはちょっかいを出すような感覚でちまちま変えられているのだ。
いつの時代、どんな世の中でも悪というのはいるのだろう。
トランクスもロリセも、呆れたような表情を浮かべるしかなかった。

「とりあえず、少しお腹が空いたからトキトキ都に行ってくるよ。
 暫くしたか戻るから!」

そう言うと、ロリセは建物から出て行った。
ぱたぱたと駆け出すその様子を見届けてから、トランクスは巻物を手に取った。
終わりと始まりの書。
宇宙の歴史、時の流れ。それら全てが収められたその書物は、乱されれば宇宙のバランスすら
崩しかねないほどの重大なものであった。
その巻物をしまってある、この建物。
刻蔵庫に収められた数多の書物、ありとあらゆる歴史を見つめながら、彼は溜め息をついた。

「……平和とは、難しいものなのでしょうか」

そんな呟きを、ひとつ零して。
他にも改変されたものはないかと、巻物を点検し始めるのだった。

++

トキトキ都。
真ん中に大きな砂時計があり、その周りで沢山の機械とタイムパトロール隊員が働いたりしている。
其処でロリセは賃金として貰った少しのゼニーを払って、肉まんを買って食べていた。
ちなみに、カプセルや道着といった実用性溢れる物しか置いていなかった事にロリセが不満を言ったことから、食べ物も置くようになったらしい。
他の隊員からも好評なんだとか。

真昼のような空と、砂時計。後ろ手にはタイムマシンが立ち並んでいる。
そんな他にはない風景を眺めつつ、肉まんを頬張る。
このひとときが、ロリセのささやかな楽しみだった。
別に、他に楽しみがない訳ではない。
ただこの瞬間だけが、タイムパトロール隊員ではない自分であるような気がして。

「……これが、普通って奴なのかな」

ロリセはトランクスに呼び出される前の記憶がない。
だから、気がつけば此処にいて、タイムパトロール隊員になったようなものだった。
別にそれが嫌な訳ではない。
サイヤ人だからか、悪に対抗する力もあった。
この仕事を通じて、トランクスや時の界王髪、様々な戦士に出会い、師弟関係を結び様々な事も教えて貰ったし、協力して闘い互いに助け合った事もあった。
その全てがロリセにとってかけがえの無いものだ。それは揺るがない。

ただ……時々、疑問を抱いてしまうのだ。
全ての前提となる、この仕事……タイムパトローラーでなくなったなら、自分は何者となるのだろう。

「……考えても仕方ないんだけれど」

がっつくように肉まんを食べ尽くす。
適当に噛んで飲み込み、勢いよく立ち上がった。
考えても仕方ない。
そうやって振り切る形でいつもこの話題は決着する。
今日もそうだった。

「さてと、トラくんが何か見つけてるだろうか。行こう」

そう言うと、ロリセは駆け出した。
彼女は魔神も倒した、この業界ではわりかし名のある隊員だった。
だから、彼女の在り方を疑う者など、誰もいなかったのだ。

刻蔵庫に辿り着いたロリセが、意気揚々と尋ねる。

「トラくん!何かあった?」

そう聞けば、トランクスは巻物を差し出す。
邪悪な、暗い光を放つ巻物を見て、ふたりはニヤリと笑った。

「……行きましょうか、ロリセさん」

これが、ふたりの日常だった。


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