short
お礼SS.1.あせも.続
呂佳サン、と親しげに呼んでいるが、正直準太は呂佳が苦手だった。
笑顔一つ見ても、弟の利央は、笑う時もやわらかい笑顔なのに、兄の方はというと、悪魔の笑顔にしか見えない。
進んで関わりを持とうとは思わないので、呂佳と利央の兄弟仲がどんな物かさえ知らなかった。
利央って結構呂佳サンに苛められてるよな、ほんとに仲良いのかよ。
今更ながらに、勝手に電話をかけたのは悪かったかも、と思うのだった。
利央は、不安気に準太を見てから携帯を耳にあてる。
「に、いちゃん。あの……アイスごめんね」
[はぁ?お前それ言うためだけに電話かけてきたわけ?俺が忙しいのわかってねーのか、アホ]
「うっ……」
電話で呂佳が怒ったような声を出している所はなんとか聞き取ることが出来た。
思わず、頑張れ、などと心で呟いてみたりするのだが、電話を無理やりしたのは準太だ。
完全に他人事扱いしながら、耳だけは側だてる。
「……だって準さんがぁ
え、背中見せたけど……あせも治せって。
うん、うん。
オレもアイス、あーんってやりたい!
兄ちゃん大好き!」
さっぱり意味がわからない。
アイス、あーん?
一体どんな流れで「兄ちゃん大好き」になったんだ。
「準さん、兄ちゃんと仲直りしたよぉ」
通話を切った利央は、にこにこして準太に報告した。
しかし、準太は今の会話でなぜ仲直りできたのか訳がわからない。
「利央、あのさ意味わかんねぇことだらけなんだけど、まず、アイスあーんってやりたいって何?」
準太がそう問うと、いそいそとワイシャツをはおり、そのボタンを止め始めた。
「なんかねぇ、兄ちゃんは、オレとアイスを分けあいっこしてあーんってしたかったんだって。あとね、むやみやたらに人前で肌見せんじゃねぇって」
もー兄ちゃんってば、脱がないでどうやって着替えろって言う気なんだろーね。
……えへへ〜今日はアイス買って帰らなきゃ。
先ほどの不安気な態度が嘘のように、利央は嬉々として帰り支度を始めた。
準太は、利央の言葉を理解しようとして、しかし固まってしまった。
まてまてまて、利央、あーんとか、お前何してんの。あと、肌見せんなって、どんな心配されてんだよ。
普通、兄弟はそんなことしないっつーの。
てゆーか呂佳サン、あの人何がしたいんだ?
これじゃ兄弟……つーより、恋人同士、みたいな……
準太が固まってしまったのを気にも止めず、利央は部室のドアを開けて言った。
「準さん、オレシャワーいーや。兄ちゃんが待ってるし帰るね」
お疲れさまでしたー。
ガチャリ、とドアの閉まる音が、部室にただ一人取り残された準太の耳に届いた。
「(和さん、俺これからどうやって利央に接して良いのか分かりません)」
準太のため息を聞いた者は誰もいなかった。
end
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