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幸せの朝


※少し怪しいです









朝の陽射しが眩しくて目が覚めた。

体勢を変えて光から逃げようとしたが、利央の身体は動かない。
ダルさは少しあったが、体調が悪い訳ではないのは自分で分かったので、身体の動かない原因が気になって利央はそっと目を開けた。
そこには何も身にまとっていない兄の胸板。


ああ、兄ちゃんの腕で動けなかったんだ。


利央は安心して、昨日を思い出しながらもう一度目を閉じた。





幸せの朝





呂佳は大学生ながら、友人を手伝って野球部のコーチをしている。
大学に入った呂佳は、実家ではなく寮で生活するようになった。
たまに利央から電話をかけると、返ってくるのは疲れきった声。逆もまたしかり。

呂佳も利央もお互いが忙しいことはわかっていた。
それでも、会えないならばせめて声だけでも、とくたくたの身体で電話もメールもやめられない。

ある日、タイミングよく二人の休みが重なった。

明日は寝坊するんだー。
そう電話で利央は兄に嬉しそうに話す。
俺も明日休みだわ。
だから、今日はそっちに帰る、と呂佳も嬉しそうに弟に言った。

更に、その日は両親が懸賞であてたらしい2泊3日の温泉旅行に行く日でもあった。
いつもの利央ならば羨ましがるのだが、今回は好都合だった。
内心飛び上がり、おみやげよろしくね、と利央はニコニコしながら親をさっさと追い出す。

あとは呂佳の帰りを待つだけ。
利央はそわそわしながら、時間がたつのを待った。


兄ちゃんが帰ってきたらまず抱きしめて貰おう。
それでキスして……。


利央が色々思考を巡らせていると、玄関の鍵が小さく鳴った。
続いて呂佳がドアから顔を出した。

「兄ちゃん!」

まだ靴も脱いでいない呂佳に利央が抱きつく。
それを呂佳もしっかり抱きしめた。

「久しぶりだな、バカ」

「久々に会って最初にバカって酷くない?」

普通の兄弟なら仲が良いだけの光景も、二人の場合はそれに恋人というのが追加される。

甘い雰囲気の中叩かれる軽口は、幸せを増幅させるだけ。





「にぃちゃん」

暗い部屋、絡めた指、月の光だけが二人を映す。

「利央」

名前を呼ぶと、自分の名が返ってくる。
電話越しでなく肉声で。
そんな当たり前のことに利央は嬉しくなって微笑む。
暗闇の中でも、呂佳にそれが伝わった。
呂佳が利央の耳元に顔を寄せて低く呟く。

「随分余裕だな」

その声に利央は身体を震わせ、視線を絡ませようと身体ごと呂佳に向けた。

「余裕じゃないよぉ」

瞬きしながらちょっと不満気に言う弟に、呂佳は笑った。

「余裕だろ。……で、今なに考えて笑ってたんだ」

呂佳が利央の上に乗り上げシャツのボタンを外してやりながら尋ねた。
利央は、時折服の合間から肌を掠める兄の手を焦れったく見やり、頬を染めて言う。

「あのね兄ちゃんの声、好きだなぁって、」

兄ちゃんキスして。
利央の目がそう言っているように思えて、呂佳は唇を重ね言葉を遮った。

「……にぃちゃん、すごいスキ、大好き」


ああ、なんでコイツはこんなに。


互いを想いあう気持ちはどうにもならない。

露になった白い肌に手を這わせる。
首に噛みつく。
震える利央の腕が呂佳の首にまわる。
目に溜まった涙に口付けを落とす。


全て終わって、二人は互いを抱きしめて眠った。



それが昨日の話。

利央は少し目を開けて、呂佳の寝顔を見上げた。
昨日は二人きりになってすぐ当然のように寝た訳だが、呂佳は休む間もなかった。
その事を利央は思い返した。

疲れてるもんね、もうちょっと寝かせてあげよ。
んで、オレも寝るー。


利央は呂佳の身体に頬を擦り付けて目を閉じた。

その瞬間に鳴り響く自分の携帯のアラームに、びっくりして一気に眠気から覚める。

呂佳の腕が利央を拘束しているため、あわてて利央は手だけを動かして携帯を探した。


兄ちゃんのこと寝かせてあげようと思ったばっかりなのに、なんだよもう!


やっと携帯を見つけアラームを止める。

すっかり起きてしまった利央は呂佳がまだ寝ていることを確認すると、時間をかけて腕から抜け出した。

「オレ、シャワー浴びてくるね」

小声で利央は言うと、脱ぎっぱなしの衣類を集めて浴室へ向かう。

その様子を狸寝入りしていた呂佳はこっそり見ていた。


俺って愛されてんな。


そして、唇に笑みを含んで、利央の気遣いを無駄にしないように目を閉じた。





幸せだな、本当に。

一人はベッドの中、一人は浴室で幸せを噛みしめた。










end






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あきゅろす。
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