[携帯モード] [URL送信]

short
何も聞こえないように



※若干妖しい感じなので、注意してください
・利央視点






「ねぇ、兄ちゃん、」


オレ、いったいいつまでこうしていられるの。


そう呟いたとき、オレの頭の下にある兄ちゃんの腕がぴくっと動いた。







何も聞こえないように






兄ちゃんの事を兄弟として見れなくなったのは、中2になってからだった。

野球に打ち込む兄ちゃんがとても眩しくて。
思慕から恋慕へ変わるまで時間はかからなかった。
兄弟なのに。
ただただ、兄ちゃんに気付かれるのが恐くてたまらない。
そんな日々が1年続いて、中3になった。
そして、オレの片思いが意外な方向に走り出すきっかけが訪れた。


高校最後の夏、兄ちゃんが負けた。



平日で、普通に学校のある日だったから、オレは見に行けなかったんだけど。
兄ちゃんの学校が負けたというのは母さんからのメールで知った、
でもそんな訳はないとすぐに信じなかった。

中学校から帰って、真っ先に、照明の点いてない兄ちゃんの部屋を覗く。
そこには、涙1つ溢さないでボールを見つめる兄ちゃんの姿があった。
それでやっと、ああ、負けたんだと知った。

その姿を見ていたら、兄ちゃんが生気の無い眼をオレに向けて、

見んな。

と一言、投げてきた。

なんでか、オレが負けた訳じゃないのに涙が溢れて、それに気付いた兄ちゃんに舌打ちされた。


「今すぐ自分の部屋に戻れ。でないと殴る。泣いてんじゃねぇよ、同情か?ふざけんな」

誰の目から見ても兄ちゃんは弱っていた。
ここを去らないと本当に殴られると思った。

でもオレは、兄ちゃんの言葉を無視して部屋に入り込んで兄ちゃんに抱きついた。

口では、ああ言ってたけど殴る気力も残ってないみたいで、突き放されたりもしない。

だから、今ならできると思って、

兄ちゃんにキスした。
オレの涙のせいでしょっぱいキス。

兄ちゃんが弱っているのを知っていたのに、オレは、弱味につけこんだ。

それから毎日オレは、何度も好きと言って、彼女なんてつくらないでとすがって、


「オレを好きになって」


と泣きながら言った。




一緒に寝るようになって、抱かれるようになったのがいつからだったかは、良く覚えていないけれど。
最近では兄ちゃんと会えるときは、毎回一緒の布団に入る。
するときもあれば、何もしなくて添い寝だけのときもある。



オレ達の関係の始まりがそんなだから、
終わりだっていつ来るかわからなくて、兄ちゃんとした後はいつも泣きそうになる。

兄ちゃんは、優しい。


優しいけど、いつまでオレを抱いてくれるの。

いつまで一緒にいてくれるの。


兄ちゃんが、オレを「好き」って言ってくれるそれは、兄ちゃんの本心って思っていいの。



ねぇ、

「にーちゃん……オレのこと、すき?」

掛け布団の中、二人とも何も身に纏っていない状態で向き合って、響くのは掠れたオレの声だけ。

「にぃ、ちゃん、」

「利央」

なに、兄ちゃん。

「無理して声出すな、明日の朝ガラガラになるぞ」

兄ちゃんの手が、オレの身体を労るように撫でた。
それから、片方の腕にオレの頭を乗せて、腕枕してくれる。
でもね、今欲しいのは、それじゃないんだよ。

「兄ちゃんっ、」

ねぇ、なんで答えてくれないの。オレのこと好きじゃないの。

「にい、ちゃ」

「だから、苦しいなら喋るなって」

聞いて、
そして教えてよ。

「んっ、兄ちゃん、」

「ったく……なんだよ、利央」


傷付きたくないから、ずっと聞かないようにしてた。
でも、このままは辛い。


「好き、じゃない人のことも、抱けるの?だから、オレとも、ヤるの?」

兄ちゃんが、怪訝な顔をしてオレを見る。

「……利央、お前何が言いたい」

きつめな口調でオレにそう言った。


……わからないの?


「ねぇ、兄ちゃん、」


オレ、いったいいつまでこうしていられるの。


そう呟いたとき、オレの頭の下にある兄ちゃんの腕がぴくっと動いた。


「兄ちゃんが、好き。でも、兄ちゃんは違うんで――」

「――利央」


兄ちゃんにキスされて、言葉を遮られた。
鋭い目に、捕まった。

「俺が信じられないか」

「……られる」

その目、オレがすごい好きな目だ……そんな顔するなんて、兄ちゃん反則だよ。

「……嘘吐け、信じてねぇだろうが」

「信じて、るもん」
「好きだ」


心臓がドクドクいってる。

今、好きって言った。
本当に好き?

……ああ、ほんとだ、オレ兄ちゃんのこと、信じられてない。
だって、しょうがないじゃん。好きなんだから……。


兄ちゃんが、言葉を続けた。

「お前が思ってる以上に、俺はお前が好きだ」

いや、お前がどれくらい俺の気持ち知ってんのか、さっぱりわからねぇんだけど。

「利央、なんて言えば信じる。つーか本当にお前はバカだよな。バカ犬。

でもな、
俺はお前のことを、多分、すごい愛してるんだと思う。……ほら、朝早いんだから、寝ちまえ」




そう言って、兄ちゃんがくれるキスが優しくて、あの日とは違う涙が出た。


わけわかんないくらい涙が出て、結局その晩ずっと、兄ちゃんがまぶたにキスしてくれていた。










end

[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!