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short
そんな日もある


※あやしい




今日は激しかった。

目の眩むような快感が終わり、利央の頭に浮かんで来たのがそれである。
視界が揺れてはっきりしないまま、兄の背中をぼんやり見下ろした。
汗の粒までよく見える。
それと爪痕だ。
呂佳は利央の身体を抱え上げ、利央は呂佳の首に腕を回してしがみついていた。
いつもは普通に行うが、時々思い出したようにこういう体位でしてみたりするのだ。

利央は野球をしているため、爪は短く揃えてある。
その短い爪の先が付けた傷が呂佳の背中に残っていた。
痛いのだろうか、でもそこまで赤くはない、と利央は指先で傷をなぞる。
そうしてじっと眺めていると、呂佳がゆっくり利央をベッドに横たわらせた。
柔らかい布団の感触に、利央はほっと息を吐き出す。

呂佳は利央の額にキスを一つ落とし、タオルで身体を拭ってやった。
互いに、汗も精液も混ざりあってひどい有り様だった。
利央は呂佳の前髪をかきあげて、くすくす笑う。

「なんか今日はいつにも増して、べたべたすんね」

「そうだな……このタオル朝には大変なことになってるだろーな」

呂佳はタオルをベッドの脇に落として、利央の隣に寝転がった。

「よし、寝るぞ」

そしてぽんぽんと利央の頭を軽く叩いて目を瞑る。
利央もそれにならったが、直ぐに開けて呂佳の腕に擦り寄った。

「寝ちゃうの」

「明日は早いんだよ」

「えー」

利央は身体の向きを横にし、片足を呂佳の腹の上に乗せ太股を擦り付けた。
呂佳は薄目を開けて、それから逃れようと利央に背を向けた。

背中向けることないじゃん。

驚いたように目を丸くした利央だったが、次の瞬間には不満そうな顔になっていた。
懲りずに呂佳の背中に頭突きをする。
とすん、とすんと利央のさらさらした髪が肌にあたる。
軽くて甘い衝撃に呂佳は頭を抱えた。

「勘弁してくれ」

そう言って利央のほうに向き直る。
呂佳にしては珍しく困ったような表情だった。

「無理だって、マジで」

「え、何で」

何言ってんの、と利央が不思議そうに首を傾げた。

「そんくらいの体力はあるでしょ」

あれだったら、朝起こしてあげる。
いや、なんかお前に任せたら遅刻しそうだ。
て、違う違う。

利央は呂佳にぎゅっと抱きついて文句を言った。

「いつの間に若いのに、若くなくなっちゃったの」

その言葉を聞き、呂佳は顔をひきつらせた。

「なあ。お前って、普通に失礼だよな」

「じゃあ、しましょーよぉ」

利央が呂佳の首筋辺りに吸い付いて、わざとらしい声を出した。それを聞いた呂佳はまた頭を抱えたくなった。

何でそっちに持っていこうとするんだ。
何でそんなに盛ってんだよ、高校生ってやつは。
いや、利央だけなのか。

色々言いたい事はあったが飲み込んで、黙って利央の額を強めにべしんと叩いた。

「……すぐ暴力に逃げる」

「お前がしつこいからだろ。自業自得だ」

ばしっと呂佳の胸に衝撃が走った。
利央が平手打ちしたのだ。
地味に痛い、と呂佳は唸る。
今度は利央が呂佳から離れ、背中を向けてぼそぼそ言った。

「別に最後までやろうって言ってる訳じゃないし、ちょっと触りあいっこするぐらいいいじゃんか」

まだ諦めないのか。
呂佳は自分がどっと疲れたのを感じた。

「お前の言う触りあいっこは、どこまでの範囲だよ。絶対そんなに可愛いもんじゃないって俺は言い切れる」

「あーもー、融通きかない人だなぁ」

これは驚いた。
呂佳は小バカにしたように言ってやった。

「融通なんて言葉知ってるんだな。偉い偉い」

利央は振り返り、ぐっと身をのり出した。

「今褒めたよね。じゃあ偉いオレとしようよ」

「だから何でそうなるんだよ」

もう堂々巡りだった。
利央も疲れきっていて、呂佳も時計を気にしながら睡魔と戦っている。

「お前も疲れてんだろ」

「疲れてるけど、無性にしたくてしょうがないの」

兄ちゃんにだってあるでしょ。
利央は呂佳の目を見つめて言った。
確かにあるが。
呂佳は自分の行いを振り返ってみる。
無理強いは……多分していないはずだ。

「とにかく、俺は寝る」

じゃあな、と呂佳は布団を被る。
直後、利央がそれを剥いだ。
いい加減にしろ、と言いかけた呂佳の唇を利央が人差し指で押さえた。

「寝てていいよ」

「そうする」

「自分で動くもん」

「そっちの寝るじゃねぇ!」

呂佳は利央をシーツに押し付けて、両腕を片手で纏めた。
空いた方の腕で利央の腰を固定する。

「やーだー離して!」

「離したらまた煩く騒ぐだろーがバカ」

呂佳は利央の唇を舌でなぞって黙らせてから、やっと眠りについた。

ぎゃんぎゃん騒いでいた利央も、呂佳が眠ってしまったと気付くととたんにおとなしくなった。
ふう、と息を吐き、呂佳の顔を見つめながらゆっくり瞼を閉じる。


今日は激しかった。


眠りに落ちる前にそれが頭に浮かび、利央の唇の端が少し緩んだ。









end


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あきゅろす。
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