short お礼SS.2.夏なので.続 続き 「じゃあ行くよ。……昔々あるところに、キツネさんとウサギさんがいました」 キツネさんとウサギさん!? もはや怖い気配を微塵も感じられねーよ! などと、呂佳が思っていることにも気付かず、利央の話は続く。 「キツネさんは、ウサギさんの奥さんでした。でもうさぎさんにはリスさんという別の……」 「あ、和さん。喉かわきません?」 「そうだな……喫茶店でも入るか、準太」 そう会話をしながら高瀬準太と河合和己は近くにあった喫茶店へと入った。 メニューを注文して、一息つく二人。 そして水を口に含んだ準太は店内を見回して、顔をひきつらせた。 仲沢兄弟がいる……! 準太にとって、先日のあせも事件で発覚した利央と呂佳の微妙な関係は、忘れたい出来事のトップである。 準太のげんなりした顔に気付いた和己は、心配そうに声をかけた。 「準太、疲れたか?」 「和さん、違うんです。ただちょっと犬を見つけまして……」 犬? 和己も店内を見回して、利央を発見した。 「呂佳さんもいる。あの兄弟って、意外と仲良いいんだな」 和さん、仲が良いとかそんだけじゃないっす!色々やばいんすよ! 準太は曖昧に笑って誤魔化した。 「……そしてリスさんにキツネさんは言いました、あなたなんか、井戸に落ちてお仕舞い!と。リスさんは鼻で笑って言います。ウサギさんのことをわかっているのは私よ……」 呂佳は笑いを堪えるのに必死だった。 利央が真剣な顔をしているのが余計におかしい。 怪談と言っていたが、これは明らかに昼ドラである。 しかもキツネさんウサギさんリスさん。 どこの森の住人だ。 とにかくおかしい。 とうとう呂佳にも限界がやってきた。 ぷっと噴き出してすぐに、腹を抱えて笑う。 「兄ちゃんなんで笑うの?」 わりぃ、けどな利央。 「利央。頑張ってるのはわかったから、だからさ」 笑いが混じったまま呂佳は続ける。 「笑えるからやめてくれ。いやしかし、お前はほんっとにアホだな」 そこまで言ってもう耐えられなくなったのか、呂佳は爆笑した。 それを聞いた利央はムッとして、すぐにしょんぼりしてうなだれた。 「いつまで笑うんだよぉ」 「ちょい待ち、そろそろ止まりそうな気がする……くくく」 「ひどいよ、だってオレ、頑張ったのに」 呂佳は乱暴に、利央の頭を撫でてやる。 「ほんっとに可愛いよお前」 さらりと言ってのけた呂佳は、ガムシロを自分のコーヒーに混ぜて利央に差し出した。 「笑ったお詫びだ。苦くないから飲んで良いぞ」 利央はうつむいた状態から上目遣いで視線をあげた。 そして首を少し斜めにして、呂佳の目を見ながらまばたきする。 呂佳の心臓が大きな音を出す。 それが顔にも現れていたようで、利央は仕返しとばかりに笑った。 「兄ちゃん、どきどきしたでしょー。変態ー」 利央はアイスコーヒーのグラスに自分のストローを入れて、もう片方のストローを呂佳に向けた。 「一緒に飲んで。そしたら許してあげる」 「恥ずかしいヤツだな」 呂佳はしぶしぶといった感じでストローに口をつけた。 甘い空気が二人を包み、利央はとろけた笑顔を呂佳に見せた。 俺一生、ブラコン治んねーかも。 呂佳も笑った。 その一部始終を見た桐青バッテリーは、げっそりしていた。 「……うわ、和さん和さん、あいつら、飲みましたよコーヒー」 準太があからさまに顔をしかめて小声で囁いた。 和己は明後日の方向を向いている。 「……まさか呂佳さんが、そんなに利央大好きだったなんてなぁ。まぁ、兄弟、仲良いのは良いことだって」 「和さん。もうわかってんでしょう、あれはただの兄弟じゃないですって……」 利央のヤツ、アイスあーん、とかも家でやってんの本当なんだ。 俺、あせも事件のこと忘れたかったんだけど。 準太が遠い目をする。 「準太、このことは忘れような。金輪際今日の話はしないようにしよう」 準太と和己は、大きくため息をついた。 そんな夏の1日。 end [*前へ][次へ#] [戻る] |