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お礼SS.2.夏なので


2010.8.16〜
お礼SS.2

※お礼SS.1.あせもの続きのような内容です



夏なので






なぜ大学生にもなって、高校生の弟とお使いへ行かなくてはならなかったのだろう。
しかも、この暑い日に。

そう考えながら、呂佳は額の汗をTシャツの袖で拭った。
手に持ったビニール袋がカシャカシャ音をたてる。

気温は35、天気は晴天。
思い返せば、もともとお使いを頼まれたのは利央だった。
利央が家を出てから数分後、呂佳の元に届いたメールは「財布を忘れた」というもの。
今すぐ戻って来い。
そうメールを打とうとして、たまには優しくしてやってもいいか、と呂佳は家を後にした。
そして太陽を浴びた瞬間に後悔する。

暑い。


やっぱり利央を一旦家に帰らせようか。
いや、この熱い中を2回も往復させるのはどうなんだ。
利央がかわいそうな気がする。
しょうがない、行ってやろーじゃねーか。


そんなこんなで、買い物が終わり帰る頃には、二人は汗だくだった。
拭っても拭っても汗はとまらない。

「兄ちゃーん。あーつーいよー」

「うるさいだまれ余計に暑くなるってのアホ犬」

米を両手に抱いて持つ利央も汗だくで、天使のようなふわふわの髪が湿っている。

呂佳は思った。


何が、利央がかわいそう、だよ。
今一番かわいそうなのは俺の頭だ、このブラコンめ。


利央とは逆を向いてため息をつく。

いい加減ブラコンは卒業したい。
兄弟だけの間柄ではないけど、ブラコンは卒業したい。
夏バテ気味の脳を働かしながら歩いていた呂佳は、あるものを見つけ立ち止まった。

「利央、喫茶店寄っていくか?」

とたんに利央の顔が笑顔になった。

「えっいいの?兄ちゃんの奢りなら行く!」

「……兄ちゃんはお前に金を遣わせたことなんてねーんだけど」

奢りならってなんだよ、と苦笑して呂佳は喫茶店に歩き出した。






「生き返ったー!」

「死んでないだろ」

冷房の効いた店内は快適で、熱い体にはちょうど良かった。

「だってオレ、溶けるかと思ったもん」

「そうか。一人で溶けても良かったんだぜ、俺が排水口に流してやるから」

「兄ちゃんのバカ」

利央はチラリとコーヒーを見てから、自分のストローの封を破った。

「いっちょまえにアイスコーヒーなんて頼んじゃってさー。兄ちゃんなんかプロテインで十分なんじゃないのォ?」

呂佳もストローの封を破り、それでアイスコーヒーをかき混ぜる。
氷の涼しい音が響いた。

「なんだ、お前も飲みたいの」

「オレ苦いのダメだからいらないっ」

利央がストローを口にくわえて、ジュースを吸う。
コーヒーを飲みながらも、呂佳の視線は利央の口元にあった。

液体が吸い上げられる。
利央の喉が動く。
ストローから離した唇が濡れる。

しばらく無意識に利央の唇を見つめていたが、はっと我に返る。
色っぽく見えるのは頭が沸いてるからだな、と結論付けて、呂佳は無理やり視線を反らした。

「そうだ、兄ちゃん」

それまでジュースに夢中だった利央が急に声を出した。

「オレ今ね、怪談を練習してんの」

「怪談?」

呂佳が首を傾げる。

「この前ねぇ、山サンが話してくれた怪談がすごくて」

やっぱり夏は怪談だよねー。
うんうん、と利央は一人頷いて続ける。

「今オレたち、ものすごい暑いじゃん。だからオレが涼しくしてあげんね!」

利央が嬉々として言うので、呂佳は「お前の話す怪談なんてたかが知れてる」と出かかった言葉を呑み込んだ。

「いいぜ。聞いてやる」










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