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それもまた愛だと思う

※9/30呂佳さんの誕生日


「バカが風邪をひかないってのは、バカは風邪をひいても気付かないから、とからしいぜ。つまりお前は、体調が悪いにも拘わらず雨の中をずぶ濡れで歩く大バカ野郎な訳だ」

久々に実家に帰った呂佳は、ベッドに横たわる弟を見るなり冷たく笑うのだった。






それもまた愛だと思う






「てゆーか兄ちゃんさ、あの、」

利央は、呂佳の毒舌に反論しようと言葉を紡ぎ、途中でけほけほ噎せた。

「看病とか、しにさぁ」

看病という言葉を聞いて、はあ?と呂佳は顔をしかめる。
それを見た利央は、はて自分は変なことを言っただろうか、そう頭の中で考えた。

「え、違うの」

「たりめーだろ!」

呂佳の大きな声が、利央の疲労しきった頭を揺さぶる。
思わず顔を歪めた利央に気付き、呂佳は慌てて声のトーンを落とした。

「別に、服取りに来ただけだし」


なんだ。
そんな事か。


利央がムッとして、呂佳に背を向けるように寝返りをうった。
同時にごほっと咳が出て喉が震える。


いや、普通は看病しに来てくれたんだって思うよ。


熱で潤んだ目の利央は、心の中でそう訴えた。
「お前の不注意で引いた風邪をなんで俺が看病しなきゃなんねーんだ」


引きたくて引いた訳じゃ……。
しなきゃなんねーんだって、そんな言い方ないでしょ。


利央は言い返したいと思ったが、頭も喉の痛みも酷いので無言を貫いた。
暫く呂佳は利央を見つめていたが、大きなため息を一つ落とすと、利央の部屋から出た。

絶対俺に移すんじゃねぇぞ。
振り向きざまに呂佳はそれだけ言うと、苦しそうな利央を一人部屋に置いて、どすんどすんと音を立てながら階段を降りた。

残された利央はといえば、兄に会えた高揚から一瞬にしてどん底に突き落とされた気分だった。
自然と顔が歪む。

「……兄ちゃん、さいてー」

部屋に利央の咳き込みながらの小さな呟きが響く。


兄ちゃん。
別に頭撫でたって風邪はうつらないと思うんだけど。


利央の目にじわっと涙が浮かぶ。
続いて熱くなる喉。

体調が悪いと涙脆くなるっていうのは本当なんだなあ。
そんな事を考えながら、利央は声を押し殺した。






一方その頃呂佳は、利央が自分の態度に傷ついたという事など知らずに、台所でため息を吐いていた。

「あれは、無いわ……」

口では看病などしない、と言っていたが、別に本気で怒っていた訳ではない。
ただ、弱った利央を見て生まれた加虐心を抑えるために口調が乱暴になった、それだけの事だった。

掠れた声、潤んだ瞳、色付いた頬、湿った髪。
すがるような視線。

呂佳はお粥の火加減を確かめると、その場にしゃがみこんだ。


あれは目に毒だ。

据え膳だ。

つーか拷問だ。


呂佳は髪をぐしゃぐしゃとかき乱して立ち上がった。
氷枕を冷凍庫から取りだしタオルを巻きつける。
鍋の丁度良い時間にキッチンタイマーを合わせて、階段へと進んだ。

今ここで理性が切れたら人として失格だろ。
自分に言い聞かせながら呂佳は一段ずつ階段を上がる。

利央の部屋の前で一呼吸置いてから、呂佳はノックもせずに勢いよくドアを開けた。

「おい、入るぞ……」

「っ兄ちゃん!?」

中にいた利央は服を着替えている最中だった。
慌てて衣類をたぐりよせる。
一瞬驚いた呂佳だったが、ズガズカ部屋に入り利央の頭を叩いた。

「言えば手伝ってやるから体力消費すんじゃねえよ」

本当にバカだなお前は。
ぶつぶつ言いながら、呂佳は手に持った氷枕を取りかえた。
それから利央の額の汗を拭うと、汗を吸収して重くなったシャツを奪い取った。

「聞いてんのか、利央」

「うん」

利央はぱちぱちと目をしばたかせる。
突然戻ってきた呂佳を見て不思議そうな顔をした。

「何で、」

利央の呟きを完全に拾えなかった呂佳が顔をしかめた。

「何か言ったか?」


側にいてくれるなら、なんだっていーや。


「兄ちゃんありがとって言っただけ」

「あっそ、じゃあ早く脱げ」


聞いてきたのそっちじゃん。


呂佳は利央をベッドの上に座らせてパジャマのズボンに手を這わせた。
それに驚いた利央がその手を力の入らない手で掴んだ。

「自分で脱げるよ」

「いいからあんまり動くな。お前朝から全然食ってないって母さんが言ってたぞ」

呂佳が無理やり手を進め、するりとパジャマをずらした。


白い。


どくどくと呂佳の心臓が騒ぎ出した。

利央の白い脚が出来るだけ目に入らぬよう気をつけて下ろしきり、呂佳は利央の顔を真正面から見た。
利央の手がゆっくり呂佳の頬に触れる。

「兄ちゃん」

「なんだよ」

「多分今なら、ヘンタイって言っても怒んないよね」

ドキドキしたんでしょ。

呂佳の頬が赤くなった。
利央の手から伝わる熱なのかもしれないが、そんなこと今の呂佳には関係なかった。
欲情したのは確かだった。

「下着脱がせてくれないの」

その言葉を聞き、呂佳は利央に覆い被さる。
ベッドに押し付けて、唇を貪ろうとした瞬間、利央が苦しそうに咳をした。


そうだ、こいつは病人だった。


「……悪かった」

頭冷やしてくる。

「待って」

我に返った呂佳がベッドから立ち上がり利央から離れようとすると、それをほぼ裸の利央が悲痛な声で呼び止めた。

「兄ちゃん、兄ちゃん」

「……利央」

呂佳は利央をなだめるように優しく抱きしめて、耳元で何度か名前を呼ぶ。

「りおー」

次第に落ち着いてきたのか、利央が呂佳に全身を預けて目を閉じた。

「キスだけさせてくれねぇか?」

閉じたばかりの目を開き、利央が呂佳の唇にちゅうと吸い付く。


側にいてくれるなら、なんだって。


利央が広い身体にしがみついて、甘い声で兄を呼んだ。

「どうした」

「今日さぁ」

カレンダーを白い指が示す。

「兄ちゃんの誕生日じゃん」


本当はね、ケーキ作っちゃおうかな、とかプレゼントどうしようとか色々考えてたんだけど。


「何も用意出来なかったから、今日だけは兄ちゃんにいっぱいサービスしたいなって、思ってたんだよ」

可愛いこと考えてくれるよな、と呂佳は照れた顔を隠そうと利央の首筋に何度も唇を落とした。

「なのに風邪引くとかさ、無いよね」

「ああ。無いな。風邪っぴきに誘惑されても、こっちが気ぃ遣うっての」

利央のしょんぼりした顔を、呂佳は満足そうに見つめた。

「なんでそんな嬉しそうなの」

「いや、だって」



久々にお前に会いたいと思って帰って来たんだよ、誕生日だし良いかなってさ。


だからお前の色んな表情が見られて嬉しい。


「また次の機会にでも、サービスしてくれよ。利央」

「言わなきゃ良かった、兄ちゃんの変態ー」


ちゅっ。










end

呂佳さん、happy birthday



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