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災難は終わらない
※拍手の「あせも」「夏なので」と連動していますが、単体でも大丈夫です
朝のニュース番組のお天気お姉さんが可愛いから、お前ら絶対見てみろよ。
島崎慎吾のその言葉を聞いて、高瀬準太はがっくり項垂れた。
「慎吾さん、あんたね……」
俺は、あんたが絶っ対ろくなこと言わないだろうってわかってたから無視してたんスよ!
災難は終わらない
2年も一緒にいれば流石に相手の事もわかってくるというもの。
すごい先輩なのに、時々すごく残念な事を言う先輩。
出会いから2年、それが慎吾を見ていて準太が出した結論である。
今日も例外ではなく、静かな朝の風景に似合わない慎吾の嫌な顔を見た瞬間、準太は直感的に近寄るべきではないと判断した。
念のために言うが、慎吾の嫌な顔というのは顔の形が悪いとかそういった意味ではない。
ろくでもない事、いやらしい事を考えているなどの総称である。
とにかく、朝練中、何か言いたげに準太を見つめてニヤニヤしている慎吾に対して、見られている当人が綺麗に無視を決め込んだのは、自身の結論に基づくものであった。
結果から言えば、どうせ意味の無いことを考えて笑っているに違いない、という準太のその想像は正しかった。
朝練が終わり部室にて、待ってましたとばかりに利央と話す準太の元に慎吾が駆け寄ってきて第一声。
朝のニュース番組のお天気お姉さんが可愛いから、お前ら絶対見てみろよ。
準太が深いため息をつく隣で、利央はきょとんとした顔を見せた。
「お天気お姉さん?」
「おっ、利央が食いついてきたか」
色白でな、目がおっきくてな。
慎吾が利央の頭をぐりぐり撫でながら嬉しそうに笑うのを、準太は一蹴した。
「俺は一回もあんたの下らない話に食いついたことなんてないスけど。利央さっさと着替えちまえ、『いやらしんごサン』の『いやら』の部分がうつるぞ」
「……準太最近なんか俺に冷たくね?」
わざとらしい泣き真似をする慎吾の肩を、慰めるかのように利央が2、3度叩いた。
「慎吾さん、落ち込まないで!これはね、準さんの愛情なんだよ」
オレにはわかる、そう言うかのように利央はしみじみと頷く。
「そうなのか準太!」
「違いますけど」
なんだかんだ言って、貶されている慎吾も、絡まれて迷惑そうな準太も楽しんでいる。
その和やかな雰囲気を感じとった利央は、二人に微笑んでから着替え始めた。
既に着替えを終えた慎吾は、準太が着替えるのを妨害しながら遊ぶ。
先輩であろうが当然のように反撃する準太は、慎吾にとって面白いおもちゃに映っているのかもしれない。
慎吾は次第に準太だけではつまらなくなったのか、黙々と着替える利央に手を伸ばした。
「うりゃ!」
利央の背後に回り、掛け声と共にズボンから勢いよくシャツを抜いて首辺りまで持ち上げた。
利央はといえば、何をされたのかすぐには理解出来ず、ワンテンポ遅れて悲鳴をあげた。
「ひゃあ!」
楽しそうに笑う慎吾の声が、だんだん空笑いの響きになるのを準太は背中で感じ、心の中で頭を捻る。
程々にしないと嫌われますよ。
そう言うために振り返った準太は、はだけた利央の背中を見てしまい、本日何度目かのため息をついた。
「……おーい、りおちゃーん。背中に歯形があるんだけれども」
「え、ホント?」
慎吾の言葉に、利央はびっくりしたように背中を触る。
痛々しいうっ血の痕は、どう見ても人の歯形だった。
可愛い後輩が、大人だった。
慎吾にとってこれはかなりのダメージとなり、そのまま固まった。
そんな慎吾を放っておいて、準太は利央の服を元に直し、ため息混じりに話しかけた。
「キスマークだけならまだ良いけどさ……」
いや、良くないんだけど。
準太は自分で自分にツッコミを入れた。
「利央、歯形ってどうなんだよ。ちゃんと痛いって言えばやめてくれるだろうに」
どうせ呂佳さんだろ。
準太の口から吐き出された驚愕発言を聞いて、慎吾の目は飛び出さんばかりに開かれた。
「準太くん、お前何言ってんのかな、シャレになんねーぞ、ははは」
慎吾の乾いた笑いを掻き消すように、利央が大きな声で準太に返事をする。
「だって兄ちゃん甘噛み好きらしいしさ、オレもそこまで嫌じゃないし」
「うわ、ノロケかよ。やだやだ」
ああ、シャレじゃなかった。
慎吾は文字通り頭を抱えてうんうん唸っていたが、準太の平然とした態度に疑問を感じ、二人の会話に割って入った。
「準太準太、何でお前驚かないの」
ていうか、何だよ、利央と呂佳さんがゴニョゴニョって。
「ゴニョゴニョって、慎吾さんおもしろーい!」
利央が爆笑する。
「面白いのはお前の頭だ!」
ぴくっと血管が動いた次の瞬間、準太が利央の頭を思いっきり叩いた。
すっきりした所で慎吾に向き直り遠い目をして言う。
「色々あったんスよ……色々と」
「準太……よくわかんねえけど、大変だったな」
よしよし、と慎吾は準太の頭を撫でてやる。
二人の様子を不思議そうに利央が見つめた。
その数秒後、軽快な音楽が利央の携帯から流れ、電話の相手を確認した利央は嬉々として通話ボタンを押した。
「兄ちゃん!」
途端に準太と慎吾の顔がやつれた。
利央は気付かずに続ける。
「てゆーか兄ちゃん、一昨日の歯形まだ残ってるって言われちゃったんだけどお。どんだけ強く噛みついたのっ」
―普通だよ、フツー。お前だって嫌がってなかっただろ。
「でもさぁ!」
利央、音量でかい、だだ漏れ。
先輩二人はぎゃあぎゃあ叫ぶ利央を眺めつつ、そう心の中で呟いた。
「兄ちゃんの変態!今朝だって4チャンのお天気お姉さん見てニヤニヤしてたしさ、噛みつけるんならオレじゃなくてもイイんでしょ!」
なんだ、だからお天気お姉さんの話題に食いついたのか。
更に慎吾のテンションが下がる。
―ニヤニヤなんかしてねぇ!キャスターの髪のふわふわ具合がお前に似てるなって思っただけだ!
「だって……」
―お前だから噛みつきたいんだよ!好きだ、利央。
「兄ちゃん……っオレも、好きー!じゃあまた夜ねっばいばーい」
無機質な、携帯の閉じる音。
そして吐血ならぬ吐糖。
「てゆーかさぁ、お天気お姉さんの話しはもう終わっちゃったのぉ?」
微妙な雰囲気の中でただ一人、利央の能天気な声だけが部室に響いた。
end
電話オチ再び
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