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多分それは俺と貴方とケーキの問題

※「意味もなく会いたい」と若干繋がっていますが、単品で読めます





ボロアパートというか俺の家で、昼飯を食っていたら利央が突然押し掛けてきた。
昼間から、まぁ大きな声では言えないような事をして、そのまま疲れて二人で昼寝した。
やらなきゃいけない課題とか、野球部の事とか色々あったのに。
ただ、アポ無しの押し掛けも利央が俺を好き故の行動だというなら、どうでも良くなるのだ。





多分それは俺と貴方とケーキの問題





気付けば外は真っ暗で、夕飯でも作ろうと立ち上がる。
俺が動いたせいで隣でぐっすり眠っていたコイツも目を覚ましたらしい。
俺の袖をぼさぼさの金髪が掴んだ。

「兄ちゃん、今何時?」

「8時」

「……うそ、寝すぎた」

利央がガバッと布団を蹴って起きる。
おい、人の布団に何すんだ。
殴ってやろうか。いやいや、俺はそんなに短気じゃない。
振り上げかけた右手を、左手で抑えて、慌てて服を探す利央にシャツを渡してやった。

「ありがと!あとズボンどこだろー」

「いや、自分で脱いだんだから、どこに置いたかぐらい……」

「てゆーか、早く兄ちゃんも服着てよね」

お前人の話最後まで聞けよ。
俺は着てるっての。
部屋着だけど。

「何慌ててんだ。今日泊まっていけばいいじゃねーか」

外はもう暗いし明日は日曜日だから学校ないだろ、という親切心から言ってやったのにこのアホは、

「きゃー、兄ちゃんったらまだ足りないの?ハレンチだー!」

などとほざきやがったので、さっき我慢した拳骨をお見舞いした。
利央は笑って、オーバーに痛がる素振りを見せた。

「あ、ズボンと下着発見したよぉ。……俺だって泊まりたいけど、明日は大事な用があるから帰らなきゃいけないの。駅までさ、一緒に行こーよ」

だから早く着替えて。
利央が俺を急かす。

利央の白い肌が衣類によって隠れていく。
もったいない。

利央の裸もだが、雰囲気だとかがもったいない。
さっきまでそういう事をしていたのに、余韻も何もないなんて。
サバサバし過ぎだろ。
俺遊ばれてんのかってくらいさっぱりだな、畜生。

何だか気が抜ける。

「お前、元気だね」

俺はさっきの利央との運動での疲れがまだ残っていた。
でも俺よりも利央の身体にかかる負担の方が大きいはずなのに、回復力のこの差はなんだ。
腕立ての回数でも増やしたほうが良いのだろうか。

そんな事を考えている間にも利央の素肌は隠れていく。
やはりもったいない。

「おい利央、鎖骨舐めさせろ」

「……変態」






帰りの道中、利央が俺の顔を見つめて言った。

「兄ちゃん、寂しいの?」

寂しいのはお前も一緒だろうが、顔に出てんぞ。

確かに名残惜しいと思っていたから、利央と少しでも長くいるために夕飯を外で一緒に食べることにした。
ファミレスよりも少し高級なその店は、俺の財布から結構な金額が飛んでいくのを予感させた。
金おろしたばかりだし、大丈夫だろう。

最近、利央に振り回されてばかりな気がする。






店に着いたときには、もう8時半をまわっていた。
男女の組み合わせが大半で、明らかにデートだとわかる。
席に案内される途中に、利央がこっそり俺の耳元でオレ達もデートだね、と呟いて微笑む。

違和感。


他のカップルへの対抗心か?


少し利央の様子がおかしいのがわかったが、いつもの笑顔に戻ったので何も聞かずにそのままにした。






パスタを口に運びながら、利央に俺よりも大事だという明日の用事とは何か聞く。

「明日?えっとね、あちっ」

あーあー、そんながっつかなきゃいいのに。
別に取りゃしねえよ。

利央は熱いドリアをはふはふさせ、若干涙目になりながら勉強会と答えた。

「勉強会?お前が?」

マジかよだってお前バカじゃん集中してちゃんと勉強できんのか無理だろ。
一息にそう言うと、利央が頬を膨らませた。

「無理じゃないし、言い方ヒドくない?」

明日、利央は友達の家で勉強会をするらしい。
それが俺の誘いを断った理由だった。

利央は今度はスプーン一杯のドリアを息を吹きかけて冷ましてから口に運んだ。
食事をする行為、というのは人間にとって視覚的に性欲を感じさせるものだ、とどこかで見た気がする。
水を口に運ぶ動作ですら、利央が行えば悩ましく見えた。


俺も若いな。
というか、邪な目でしか利央を見れないのか俺は。
情けなくて自分勝手だ。


コイツはバカなりに頑張っているのだ。
別に何も言わない。
たまには二人でゆっくり過ごしたいと思ったが、友人と過ごせる時間だって大切なのはわかる。
利央を独占していたい、それは俺のエゴ以外の何物でもない。


なんて俺が考えているという事を、ただ黙々と食事している利央は気付かないのだろう。

ふと、利央の口元にソースが付いている事に気が付いて手を伸ばした。

「付いてる」

「ん」

指で拭ってそのまま唇に押し付けると、赤い舌が動くのが見えた。


ああ、キスしたい。


その時、俺達から離れた所のテーブルが騒がしくなった。
利央と一緒に目を向ける。


デザートを前に涙ぐむ女。
結婚してくれませんか。
と穏やかに笑う男。


なんだプロポーズか。

俺は幸せそうな男女から目の前の利央に視線を移す。
そして利央の表情を見てぎょっとした。

利央は泣きそうな顔で、うつ向いていた。
俺の視線に気付いた利央は、違和感だらけの張り付けた笑顔で、俺にキスをねだる仕草をした。

「今は、ダメだろ」

どれだけの人がいると思ってるんだ。

「うん」

利央が、泣きそうな顔を更に歪めた。

失敗した。
でもやっぱり今キスするわけにはいかなかった。
男同士で兄弟なんて、認められるはずないからだ。






暗い雰囲気の中、駅へと歩こうとした俺を利央が引き留めた。

やっぱり今日泊めて欲しいな。

利央の涙に勝てるわけないし、元はそのつもりだったから頷いた。
何より、こんな状態の利央を一人にさせたくなかった。

暫く無言のまま歩く。
何を言っても利央が泣いてしまう気がして、会話のきっかけが掴めない。

「シャーベットの中に結婚指輪とか、どこのドラマですかって感じじゃない?


突然利央がすらすら喋りだした。

指輪ベタついてるじゃん、絶対。
女の人泣いちゃってたしさぁ。
三流ドラマをリアルで見るとこんなんなんだね。
だって兄ちゃんもそう思ったでしょ。

利央のどす黒い感情が流れ出した。
幸せそうな男女に向けての物だった。

利央は基本的に人を悪く言わない。
だからこそ、わからない。
さっき俺は、なんだプロポーズか、と流した。
コイツにとっては泣くほど苦しい物だったのか?
なんでだ。

「利央」

利央が震える声で言った。



「でもさ。オレ達は、そんな三流ドラマもやれないで終わるんだよね」




そうか。

俺達には、幸せな未来なんて夢でしかない。
さっきは周りなんか気にせず、利央にキスするべきだった。
今さらもう遅いけど。

「ごめん気にしないで」

気にするだろ、普通。






家に着いて、利央を抱き締めた。

「不安にさせて悪かった」

利央の肩が跳ねる。
そして腕が絡み付いてきた。

そういえば、昼間急に押し掛けて来たとき、ドラマでキスが、とか何とか言っていた気がする。
あの時から利央は不安だったのかもしれない。

情けない。


「利央、次暇なのはいつだ」

「なんで?」

「ケーキ作るぞ。家庭科の成績最悪のお前でもわかりやすいように教えてやる」

ケーキ?


「指輪は俺が就職したらな。今は金ないし」


利央が不思議そうな顔をしたので、無理やり唇を奪った。


「利央。結婚しよう」


利央は驚いて目を丸くしていた。
しかしそれも一瞬にして満面の笑みに変わる。
飛び付いてきた利央をしっかり抱き締めてもう一度キスした。

「兄ちゃん、第2ラウンドいける?」

それを聞いた俺は、利央のシャツのボタンを外して鎖骨に噛みついた。

きゃあ。
と利央がわざとらしい声をあげる。

イタズラっぽい顔が幸せに満ちていた。








end



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