[携帯モード] [URL送信]
緋きラプソディーに殺しのキッスを


ガンガン頭を何か固いもので殴られている様な痛みがさっきから続いている。痛くて痛くていてもたってもいられなくて、俺はベッドに横になった。この激しい頭痛の原因は、この音楽だ。綺麗な女性の声、スローテンポなメロディ。別にこの歌手が嫌いなわけでもない。ただ、苦しく悲しく、嫌なことしか込み上げてこないんだ。なんでかわからないが、苦しくて痛くて死にたくなる。
でも前は大好きで、いつもいつも聴いていた。聴かなくなったのは、嫌いになったのは確か幸村が入院してからだった。いつも二人で聴いていた時は何も感じなかったが、死んでしまった恋人を思った歌なんて今は絶対に聴きたくない。なのに、幸村はそんなのもお構い無しにその曲を大音量で聴いている。大音量と言ってもイヤホンをしているから病院の迷惑にはならない。でも漏れている音は俺の耳に入ってくる。それでも俺はたまらなく嫌で、耳を手で押さえて、目を閉じた。でもまだ聴こえていて、俺は幸村に音楽を止めてもらおうと声をかけたが、イヤホンでしかも大音量で音楽を聴いているから俺の声は聞こえていないようだった。

「あっ」

コンポの電源を切ってまた目を閉じた。すると顔を叩かれたから目を開けると幸村はむすっとした顔で俺を見下ろしていた。なんだ、そう言うと幸村はひとつ大きなため息をついて、笑った。

「ずっと俺が音楽聴いてたから妬いちゃった?」
「・・・俺はその歌が嫌いなんだ」
「・・・なんで」

急に目の前が真っ暗になったかと思ったら、唇に違和感を感じた。約一秒(いや、もしかしたら五秒ぐらいかもしれない)で俺は幸村にキスされているんだと気がついた。幸村の髪の毛が耳に当たってくすぐったかったから書き上げた。ふわりと薬品の臭いがして、また頭を殴られている様な感覚に襲われた。

「・・・前、よく一緒に聴いていたじゃないか」

唇が離れた瞬間、俺と目が合うより前にぽつりと呟くように言った。幸村の顔を咄嗟に見ると、悲しみを押さえているような、とても辛そうな複雑な顔をしていた。
きっと幸村も辛いのだろう。いや、この曲がじゃなくて現実が。俺はこの曲を聴くとその現実に押し潰されそうになったから、だから聴きたくなかった。でも幸村は違うのか。幸村はこの曲を聴くと、俺のことを思い出すのだろう。だからさっきまで聴いていた。今ならわかる。なぜなら、明日は手術の日だからだ。

「・・・すまない」
「・・・俺は死なないんだからさ」

その時の幸村の笑顔は無理矢理作った笑顔だとすぐにわかった。嗚呼、俺はなんてことをしてしまったのだろう。俺は幸村を傷つけた、俺とお前のお気に入りの曲にも。きっと、この後悔は一生残る。そう、幸村の病院が治っても。

「・・・すまない」

俺はもう一度謝罪をして、コンポの再生ボタンを押した。









第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!