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【リクエスト・過去作品サルベージ】
◆『流刑惑星の楽園』6(完結) 鬼畜J×堕天使X R-18 +α2独白有り注意

全く…コイツの義肢翼は、身体のワリには大きすぎるんだよな…
毎度の事ではあるが、完全に意識が無くなった後は、運びにくくて仕方がない
損傷してダラリと垂れ下がる、翼を引き摺りながらも
ジェイルは、ぐったりと身体を預けているゼノンを抱き上げた

床にポタポタと滴り散らばるのは…傷だらけのゼノンの身体から流れる血と
どちらのモノとも解らない劣情が、入り交じった体液
勿論命に関わる程の手傷は負わせてはいない、最低限度の手加減はしているのだが

紅い月の夜は何時もこうだ…どうにも加減を誤りそうになる

本当は…堕天使とその執行者の間に生じる契約も、刺青の呪詛もどうでもいい
強い苦痛と快楽に喘ぐコイツと、俺自身を締め付ける熱い中が
堪らなくヨくて、気持ちが良すぎて、興奮しすぎるのだ
完全に意識が飛んでしまうまで、無茶苦茶にしてやらないと収まらない

月に触発されて昂ぶった、俺の攻撃性がそうさせているのか?
無駄なやせ我慢をするコイツの態度が悪いのか…もうどちらでも構わないのだが
意識レベルが完全に堕ちているのにも関わらず、まだ震えているゼノンを見下ろし
心が痛まないワケではないのだ、俺なりにね

けれど…定期的に犯してやらないと、穢してやらないと安心出来ない
最初に抱いてやった時と、同じ痛みと熱さを加えて
もう天界に戻る事は叶わないと、その身に刻みこんでやらないと気が済まない

堕天使が天使に戻る…そんな事は通常なら有り得ないの

姿だって他の悪魔と同じだ、普通なら堕天使には生えはてこない筈の角まで有るゼノンが
元天使だと言う事実を知る者は少ない、生粋の魔族と言っても充分に通るだろうし
神の分身の一名だった…等と言うトップシークレットは
コイツがダミアンの手元で飼われていた頃に、直接関わりの有ったモノ達だけだろう

体内にまだ残っている、必要最小限の【光】すら許せない…等と言う生優しい問題ではない
嫌悪すべきは『神』とやらのコイツに対する強い【執着心】の方だからだ

冷静に考えてみればおかしな話なのだ…いや異常な事と言ってもいいだろう
コイツに対する奴の扱いは、明らかに他の天使共とは違うのだ

神にとって「天使」とは消耗品でしかないのだろうか?
そう疑いたくなる程に【穢れたモノ】とやらを切り捨てるのは早い
そしてソレに従う天使共もどうかしている、自己犠牲も自決も厭わず
自らの同胞に同等の行為を強要する事も厭わない…

まるで自己判断そのものを飼い主に丸投げしてしまった、狂信者の様に

ソレが天界に置ける絶対的な正義で常識、秩序だと言うのなら
神に威光とやらに背いたゼノンが、そもそも生きながらえる筈が無いのだ

気に入らない存在は、直ぐさま失敗作として殺処分してしまう神が
何故ゼノンだけは許したのか?記憶を消してまで、あの惑星に閉じ込めていたのか?
そこがどうにも引っかかって仕方がないのだ

殺さなかったのではない、殺せなかったのではないか?としか思えないから………

ゼノンをあの惑星から、連れだした時の事を、思い返してみてもそうだ…
失われたパーツを取り戻す為に、俺達に迫ってきた哀しみ、虚無のうねりは
何も【あの女】の幹から溢れ出したモノばかりではなかった
惑星自身?或いは弱っちい生き物達の総意集合体?とも言えない
他の強い意思の気配をその影に感じた…

アレは…まだ直接に対面した事はないが、神と呼ばれる存在のモノでは無いのだろうか?

いかに俺の逃げ足が速かろうと、魔界側のダミアンのサポートがあろうと
他の存在に隠れたその気配が、本気で俺を捕縛しようとすれば…きっと捕まっていただろ
当時は若気の至りの果ての無茶ではあったが、それくらいの事は直ぐに解ったのだが

しかしその気配は、最後まで此方に手を出しては来なかった
ワナワナと怒りに震えながらも、何かを躊躇している様にも感じた
その怒りの矛先が何処だったのか?
明らかに俺の存在などは無視したソレが、まっすぐに見ていたのは
今と同様に俺に傷つけられ、意識を無くしていたゼノンの方だった………そして

何故…お前は私に逆らう!!!何故私に助けを求めない!!!

血を吐く様なその叫び声が、俺の耳にもビシバシと届いていたからだ

だが…そんな奴の嘆きすらも俺はどうでも良い…むしろ挑発してやるだけだ
そんなに覗き見が好きなら、好きなだけ見て居るがいい
自分が必要とされないなら、認識されないなら、手助けしてやる事も出来ない未練など
酷く薄っぺらくて、見苦しいモノにしか感じなかったからだ

そうしたいと願うのは自分自身だ、例えそれが自分には得にはならない行為であっても

その苦痛から助けてやるから、自分を敬え、感謝しろ、愛して当然だ!!!
とでも言わぬばかりの奴の態度に虫唾が走る…そんなの所詮貴様の自己満足じゃないか?
孤独に押し潰されそうになる状況下まで、故意に追い詰めて放置した上で
見え見えの救いの手を差し伸べるのは、自らのレア度を高めたいだけの作為にすぎない

何故ゼノンが、あの【罪の樹】とやらに、あそこまで執着したのか?正直俺には理解しがたい
生き物の【悪意】を吸い上げる珍しい特製を加味したとしても
自らの身体を楯にして、傷付けてまで護る価値を感じないのだが

アレを創った製作者として、【あの女】の【親】として愛着を感じていたと言うのなら、解らなくもない
俺の親父やダミアンが、子供の俺に掛けた、少し重すぎる【愛情と執着】と同じだと思えば…

だが…神のソレは明らかに違う、奴のソレはねじ曲がった自己愛としか思えなかった

まぁ…そういう俺も、自分で仕込み上げた、この具合の良い身体を手放すのが惜しいから
コイツに悪魔のままで居て欲しいから、利己的に抱くだけなのだが
コイツに固執するのは、ソレ等の物理的な欲望だけではない

あの惑星で、最初に言葉を交わした時の、あの目を覚えているから

敵か味方かも解らない俺を、大して警戒する事もなく
泣き出しそうな目で見上げていた…あの目が忘れられないから
あの樹とコンタクトが取れると言う話だけで、俺をテリトリーに招き入れた迂闊さには呆れたが
至近距離で密着した背中からは、バクバクと音を立てて緊張する心臓の鼓動を感じながらも
ソレを上回るゼノンの寂しさと、肌の温かみを求める渇望に震えている事は解ったから

まるで同族から【はぐれた存在】になってしまった、かつての俺と同じだと感じたから

砂漠の真ん中で本音を叫ぶ事も出来ず、縋る相手も解らずに、ただ孤独を噛みしめていた
途方に暮れて震えていた自分自身と、重なってしまったのかもしれない

だからコソ…その瞬間までは、強い相手との戦闘を望んでいただけの攻撃性・破壊衝動が急速に収まった
ゼノンを殺さずに、魔界に連れ帰る気持ちにもなったのだ

だからその絶望を、苦悩を植え付けた張本人に、コイツを渡すワケにはいかない

軍属ではなくとも学者としての地位も確立して、すっかり悪魔になったゼノンが
過去の経歴を消去の上、まるで最初から魔界生まれの様に、済ました顔で過ごすのも
女遊びが過ぎようが、誰と寝ようが、抱こうが抱かれようが、俺はさほど関心がない…
そういう意味の独占欲は無い、多淫は悪魔のたしなみだからな

だが…天界のゼウスがゼノンを取り返しに来ると言うなら…
上等じゃないか、此方から迎え撃ってやるだけだ
どんなに卑怯でも、惨たらしい手段を使ってもだ、力の差なんて関係ない
もし…何かの拍子にゼノンが天使に戻ってしまったとしても、天界に返してなんかやらない
例え俺自身がコイツを噛み殺して、引き裂いてしまったとしても、奴にだけは渡さない

分身である筈のゼノンが、本体であり親でもある【神】との再会を望んだとしてもだ…

コトが済んだからと言って、標本室の冷たい床の上に、放り出しておくのも気の毒だろう?
仮眠室のベッドまでは運んでやるのだが、ココでも大きすぎる翼が収まり切らない
前局長の趣味なのか?ダミアンの趣味なのか?俺は知らないが
こういう場合も想定して、デザインしてやれば良かったのに…

何度か興奮のあまりに、ゼノンの翼を噛み砕いてしまった事があるのだが
デザイン変更をする事も無く、全く同タイプの義肢翼を培養再生するんだよな、頑ななぐらいに
学者の考える不合理性は、拷問官の俺にはよく解らないけどな…

堕ちた意識下でも悪い夢でも見ているのか?小さく呻き身じろぐ身体の側に腰掛けると
ジェイルはようやく生乾きの頸の傷に、自分の魔力の照射を始める

火炎系悪魔のジェイルは、本来ヒーリングは苦手とするのだが…この刻印だけは別だ
刺青のカタチはしていても、俺の血を直接混ぜ込んだ呪詛で当たり前の傷とは違う
直接俺の魔力を分けてやらないと、開いた傷口を塞ぐ事は出来ない
例えヒーリング魔法に長けた、土属性の上級悪魔であってもだ

それどころか、ゼノン自身の魔力が極端に弱体化する【ヴァルギブスの夜】には
俺が何もしなくても、勝手傷口が開いてしまうらしい
コレは他の奴には無かった現象で、最初にその話を聞いたときは驚いたが
今ではソレすらも都合が良かったと考えている、誤算を面倒な事とは思わない
どれだけ俺を憎もうが拒もうが…この関係を解消するワケにはいかなくなった分はな

後は…もう少し可愛気のある態度を取ってくれたら、もう少しくらいは優しいくもしてやれるのだが
聞き分けが良くなりすぎても味気がない、コイツには苦悩と涙の方がお似合いだからだ

さりさりと傷口を舐め上げてて、翼を撫で上げてやるのだが、相手の意識はまだ戻らない
いちいち震えなくていい…もう酷い事はしないから、今夜はもう勘弁してやるから…
ゼノンの汗で張り付いた前髪を整えてやりながら、ジェイルはねっとりと薄暗い笑みを零す

※※※※※※※※※※※※※※

時々…おかしな夢を見る、僕自身の過去の記憶などではない…

だからと言って、現在進行形の現実でも無く、少し前の出来事なのだろうか?
幻影の様に映るソレを、僕はただ傍観者の立場で眺めるだけ
漏れ出した他人の哀しみを、無理に切り捨てたソレを
僕の思考が無意識に拾ってしまっているだけなのだろう…
元は同じ肉体だった後遺症だとでも言うのか?

僕がその場所に居た時には、無かった部屋で彼は独り佇んでいるのだ

誰をも側に近づけない彼は、目映い光を纏いながらも孤独を噛みしめる
天地創造のあの当時は、理想と自信に満ちあふれていた様に見えた彼も
今はもう役目を終えた【老いた存在】とでも言うのだろうか?
一回りも二回りも小さくなった様に感じるのは、気のせいではないだろう

初めてこの夢を見たとき、思わず声を掛けてしまったのは
彼に恨み事を吐き散らしたかったワケではない
翼の無いその背中が、どうしようもなく寂しそうに見えたから

しかし…僕の声は彼には届かない、そこで初めて時間軸のズレを感じた
僕の記憶ではないけれど、これは彼の過去…断片的な【後悔】なのだと

彼の両脇を固めていたはずの、12人の賢者達も既に無い
天界の奧院で、あまたの天使達に傅かれながらも、彼が外に出る事は皆無なのだ
彼は何時も独りなのだ、その絶対的な権力故に、理想主義故に
誰も信じられない、誰も側に置けない、特定の個どころか誰も愛せない…
既にある程度の安定を保っているこの世界では、彼の役割などもう無いのかもしれない

それでも彼の存在は消える事はない、彼もまたこの世の一部にすぎないから
僕があの惑星のパーツに成りはてていたのと同じ様に

世界の全てが終わるまで…いや、終わってしまっても彼は生き続けるのだろうか?
再び新たな世界を作り上げる為に?未来永劫終わる事のない運命に捕らわれているのは
この絶対者の方なのかもしれない…と僕は思い始めていた
彼のその落ちくぼんだ眼孔を、絶望を眺めていると

僕の肉体は…確かに彼の一部から創られたモノだけれど
魂は別のモノを吹き込まれている為か?漠然とした寿命は確かにある…
そこは他の天使や悪魔、生き物達と変わらない
同じ肉体と魂の再生を繰り返してしまう彼のソレとは、明らかに違う…
そしておそらくは、他の賢者達、グリゴリ達も同じだったに違い無い

無限の檻に閉じ込められているのは…正真正銘彼だけなのだろう

彼の膝の上で愛され、疑う事を知らなかったあの頃は…流刑にされる迄は
彼の本質を孤独を知る事など出来なかった、考えつく事すら無かったが
今は違う…僕に対する愛憎の入り交じった嫉妬と、独占欲も今なら理解出来る

だからと言って、彼の側に戻ろうとは…決して思えないけれど………

悪魔になった僕を、彼はどんな気持ちで眺めているのか?
時折感じる彼の視線を敢えて無視しながらも、僕は密やかにソレを思う

僕が他の堕天使達の様に、彼を恨み糾弾しない事を
直接的な攻撃に出ない事が、理解出来ないのだろう
僕に与えてしまった、自分と同じ知識と経験を、魔界に売り渡すのではないか?
そう訝しみ、恐れている気配は、ひしひしと感じている

その神経質な猜疑心から、僕の存在を完全には捨て置く事は出来ないのだろう

確かに悪魔として大魔王家に忠誠を誓ったからには
僕もそれなりの代償は支払う義務があるだろう…魔界の為にね
魔界の学者としての地位と立場を保つ為には、必要な技術提供も、知識提供もするけれど
望まれる以上の事はしない…殿下をはじめ、大魔王家も無理にソレを求めてはこない

それが光と闇の均衡を保つ事になる…絶対的な【理】に触れるべきではない
堕天使の血統の彼等にもソレが本能的に解るのだろう、その理解の深さには感謝している

実際に魔界の研究者としての生活は穏やかなモノだ
例え局外のモノ達からは、為体の知れない生体実験室と恐れられていたとしても
根本的に僕は、自分のやりたい研究さえ続けられれば…その環境さえ確保されれば
自分が天使であろうが悪魔であろうが、どちらでも構わない性分らしい

ソレに拘る他の魔族や天界人にコレを知られば、糾弾されるか?呆れられるか?
でもそれが僕の本質なのだから仕方がない、そういう風に創られているのだから
そして研究環境に特化して考えれば、天界のソレより魔界の環境の方が遙かに融通が利く
だから僕自身が制約塗れの天界に、再び恭順したい等と思う事は無い

それこそ…僕の寿命が尽きない内に、大規模な天地創造が再び起こる事でもない限り
その有り得ない事態が仮に起こっても、関係の修復は難しく、素直に彼の片腕には戻れはしないだろう
そしてもし?新たな創造神が出現するのなら、きっと敵対する事になる
それが…僕が彼に感じている気持ちと言うか、ケジメみたいなモノなのだ

加えられた理不尽な暴力は憎い…従う事は出来ない…
が、彼以外の創造神もまた認められない

結局僕も利己的で理不尽なのだろう、彼の分身なのだからね…だから妥協はしない
お互いの存在を恐れ牽制しあいながらも…言葉を交わす事はない、対面する事はない
それが二つに分かれてしまった僕と彼にとって、最良の関係であり緊張感なのだ

しかし…ソレを快く思わないモノが居る、ほんの僅かな繋がりも許せないのだろう?
あの神経質な拷問官は、心の何処かで僕が天界に焦がれているのでは?と疑い
神が僕を取り返しにくるのではないか?と恐れている、どちらも有りはしないのに

赤い月の夜は、傷が開いてしまうから…自分で癒やせないから
ジェイルに抱かれる、酷い苦痛を伴うカタチで

だけど…神に裏切られた時のあの痛みに比べれば、ソレは微々たるモノなのだ
緩やかなエンジェル・フォールの為に加えられた、長すぎる加虐行為ですらも
あの痛みや哀しみには及ばない…記憶を完全に取り戻してからは、特にそう感じた

だからジェイルに対する恐怖心は、後々まで引き摺らなかったのかもしれない

毎回、無茶苦茶にされるし、他の手傷も負ってしまうのだけど
彼もまた自分の昂ぶりを、ただ身勝手に叩きつけて来るワケではない
ヤり方は手酷くても…気を遣われて手加減されているのも解るから
僕も彼を完全には拒まない…ただソレだけだ

行為を受け入れる事で、監視役のジェイルの不安が解消するのなら
魔界での僕の地位が安泰なモノになるのなら、この程度の痛み等さした問題ではない
それが…堕天使とソレを堕とした悪魔の間の契約で呪詛と言うなら、甘んじて受けるだけ

意識レベルが保て無い程に追い込まれるけど…目を覚ますと何時もベッドの上なのだ
頸の刻印だけではなく、他の傷の応急処置も終わっている事が常だ
医療技術者の僕等のソレよりも簡易的ではあるけれど
生かさず殺さずが本分が施す拷問官のソレも、手慣れたモノで的確だから
傷の状態が変に悪くなる事は滅多に無い

そして…目を覚ます時には、何時もジェイルは立ち去った後だ
学者の僕でもその組成が把握しきれない、エキゾチックなコロンの香りを残して

「今回は…まだ優しい方だったかな………」

他人事の様にボソリとそう呟いたゼノンは、ゆっくりと上半身を起こす
格納出来ないままに、垂れ下がった黒翼だけではない
散々掻き回され、蹂躙された内側はズキズキと痛み
身体中が軋み、鉛の様に重たいが…、局内に職員達が戻ってくる前に後始末を
着衣からはみだしてしまう部分の傷だけでも、完全に消してしまわなければならない

仄かに緑色を帯びた光がゼノンの身体を包む、と同時に彼方此方から白煙が上がる
全開にした治癒魔法が、体表上の傷を優先的に癒してゆく、何事もなかった様に
執拗に付けられたキスマークと甘噛みの痕が、薄くなってゆく状態を確かめながら

僕は自分自身の翼を両手で抱き締める、義肢翼であってもソレは柔らかく温かい…

前局長は…鬼族らしい厳めしい見かけではあったが、繊細な方でもあった
不必要な事を多くは語らない悪魔ではあったが…この少し大きめの翼もまた彼なりの気配りなのだろう

敵対する勢力からの変異悪魔、特に堕天使は、周囲からの信頼を得るまでに時間が掛かる
故に独りで悩み、苦悩する事も、泣きたい時もあるだろう…
そう考えたからこそ、この翼を与えてくれた様にすら感じるから
色は違えど懐かしい感触と、まるで翼そのものに抱き締められる様に感じるその大きさは
飛行機能よりもその意味の方が強いのではないか?と思う程にジャストサイズだから

手当を済ませながらも先に消えるのは、ジェイルなりの気配りである事は解っている
僕等の関係は…恋愛感情などとは違うモノだから、歪んだ支配関係だから
自分を傷付けた者が何時までも側に居ては、僕が休めないとでも考えて居るのだろう
それが普通の感覚だから、彼がそう考えるのも当然なのだが

本当は…側に居て欲しい、せめて目が覚めるまで…そんなに待たせないから

目が覚めた時に独りは嫌だ…流刑にされたあの時の事を思い出すから
乱暴に扱っても構わないから、情事の後は抱き締めて欲しい
そうちゃんと伝えれば…きっと僕の希望は叶えてくれるだろう、戸惑いながらも
最初の時とは違う、それくらいの事は、言える間柄にはなっているから

でも…素直にソレを言えない僕も、相当の意地っ張りなのかもしれない

「………寂しいよ、でも側に居てくれなんて言えない」

自分の声とは思えない程に弱々しい声に、思わず自嘲してしまう
ようやく折りたためる様になった翼を格納すると、ゼノンはもう一度自分の両肩を抱き締めた

※※※※※※※※※※※※※※

小さなあの子が、私と仲間の為に傷付いた…その現実が許せなかった
アイツは…気を失ったあの子と私達を、この星に捨てる前に冷たく言い放った

「裏切り者と駄作には、相応しい末路だ」と………

何が失敗作・何が駄作よ…不完全なモノを創りだしたアンタこそ
本物の欠陥品とは考えないの?この世界のが完璧だと言うならば………

罵声の限りをあの男にぶつけようにも、ちっぽけな苗木の私には何も出来ない
それどころか水と養分の供給が止まった、この狭い培養ポットの中の培地がなくなれば
ただ…無意味に枯れてしまうだけの運命だろう…そう諦めていたのに

ポッドに覆い被さる影と、私を覗き込む大きな青い目に、私はギョッとする

何時の間に気がついたのだろうか?涙を溜めたその目は、虚ろで普通では無いのだが
手早く私のポッドを開けると、中から私を出してくれるのだ、自分もボロボロだと言うのに
狭い空間から解放され、新鮮な大気の心地よさを感じながらも…私は気が気ではなかった
目の前でその小さな手を泥だらけにしながら、あの子は私の為に穴を掘ってくれる
私がこの大地に根を下ろして、生き延びられる様に…

ああ…泣かないで、哀しまないで、私の創造主…小さな天使様

この世界の創造神はあの男で、貴方はあのロクデナシの作品
そして貴方に創られた私は、その副産物にすぎないかもしれないけれど
私を創りだしたのも、廃棄されたモノ達を庇ったのも間違いなく貴方
貴方の哀しみは私達の哀しみ、貴方の痛みは私達の痛み…だからどうか泣かないで

あの男に裏切られた現実が、そんなに辛いのなら、哀しくて涙が止まらないのなら
そんな記憶は、全部私が封じ込めてあげる、この身に吸収してあげる
あの男を憎む事すら拒絶するなら、その恨みも私が引き受けてあげるから

貴方は棄てられたんじゃない…元々独りだったのよ
この狭い世界をイチから作り上げた、私達だけのカミサマだったのよ

それでいいじゃないの…だからもうその慈悲深い気持ちを傷つけないで
あんな男を想って苦しまないで、御願いだから

天使様の涙をふいてあげたくて、苦労して伸ばした根の先から
とくとくと流れてくるのは、彼の心に芽生えた小さな闇
それすらも受け入れられずに、苦悩する心の悲鳴を感じた

それが…この子を苦しめると言うなら、そんなモノは全て私が引き受ける
穢れた闇は、純粋すぎるこの子には似合わない…
闇も苦悩も取り除いてあげる、その能力だけは持っているのだから…この私は

私の命が尽きてしまうまで、この子の心を護り続けたいと想ったの
その深すぎる哀しみと絶望から…あんな奴の為に壊れてしまうなんて絶対に嫌
でも…用意周到なあの男は、私と彼が言葉を交わせない様に呪いを掛けていった…
おそらくは彼をここに幽閉し続ける為、そして再び余計な知恵を付けない様に

意思疎通すら出来なくなった事に気がついた私は、哀しくて泣きつづけたけれど
言葉は通じずとも、哀しみの波動を察知する天使様が哀しむから、直ぐに泣き止むしかなかったの
絶望なんてしている暇はない、私に出来うる全てのサポートを彼につぎ込む
例えソレを知覚してもらえなくとも、感謝してもらえなくても構わない
彼がこの星のカミサマとして心穏やかに、この星で生活出来れば…ソレ以上は何も望まない
あのロクデナシが、思い出した様に此方を覗き見していると解っていてもね

でも…私の寿命は短かった…他の廃棄物達より各段には長かったけれど
神の助手として創られた天使様の寿命には、遠く及ばない
私も不完全な存在だから、創ってくれたのは天使様でも
あくまでもサンプルで、試作品の生命体でしかなかったから

自分の子孫を残そうにも…私の果実の種だけでは、発芽しないのだ
それも当然だろう、私は負の感情をコントロールする為の、バイオシステムとして創られたのだから
勝手に繁殖して、増えられた困る生き物でもあったワケだから…
その機能にセーブが掛かっていない方が問題だろう

でも…状況は変わってしまった、自分と同じモノを創れないのなら
自分の死んだ後も、天使様のサポートを託せる相手を見つけなくては
でなければ安心して死ねない、寿命をとうに越えても朽ちて枯れる事は出来ない

そんな時だった…私達の惑星に、悪魔と呼ばれる生命体が現れる様になったのは
天使様はカミサマとして、星の守護者として戦い続ける
私はそんな彼の手を煩わせない為に、星中の生き物の恐怖と不安感を吸い上げ続けた
臆病で弱い彼等が、見た事もない外敵にパニック状態にならない様に
天使様の脚を引っ張る様な、問題行動を起こさない様に

その無理が…弱った私の命を更に削る事になる事は、解っていたけれど
そうする事しか出来なかった…私にはその機能しか無いのだから
同時に尽き掛けた命を騙しながら、惑星中の生き物の気配をもう一度探っていたの
天使様のサポートに回れる様な、強い生き物は何処かに居ないか?と呼びかけ続けた…

そうしたら…突然その呼びかけに答えるモノが現れた
答えたのは…よりにもよって天使様の敵の悪魔だったのよ

勿論、最初から信じたワケじゃない…その禍々しい気配には寒気がしたけれど
天界にも、この星の生き物にも、後が託せないなら…
外の世界から来たその男に、頼るしかなかったの…危険な賭だと解っていても
次に意思疎通の出来る知的生命体に、何時出会えるかなんで解らなかったから

でも…その後の惨劇を考えれば、悪魔を招き入れた事は間違いだったのだろう

「彼を傷付けないと言ったではないかっっ!!!」

私の叫び声は当然の如く無視された…私の幹に括り付けられた天使様は
耐えがたい苦痛に悶え苦しみながらも、拘束を引き千切ろうとはしない
既に多数のアンカーを打ち込まれ、彼と同じ様に封印に束縛された私が
それ以上傷付いて枯れてしまわない様に、自らの身体を楯にして護り続ける

ああ…こんな惨い事になるなんて、災いを招き入れた愚かな私を許して…
御願いだから私に構わないで、残った霊力でこんな枷など弾き飛ばして
私の寿命はとうに尽きかけているのです、貴方の手で切り裂かれるなら本望です

必死にそう叫ぶのだが…その声は天使様には届かない…

その血と汗を、理不尽な暴力に震えるその痙攣と、それに入り交じる吐息すらも
ダイレクトに感じる程に側に居るのに…密着しているのにも関わらず

私に出来る事は…精神的に受ける痛みや苦しみを吸い上げ、緩和する事しかできなかった

天使様が身じろぐ度に私の傷口は広がり、吸い込んだ恨みと樹液が溢れ出す
締め上げる鎖が…私の樹皮をこそげ墜としてゆくのだが…
そのダメージを自己修復する力すら、今の私には残されては居なかった

動物たちの負の感情だけではない、一番護りたかった天使様のソレすらも
もう充分に吸収出来なくなってきている、間もなく私は滅びるだろう…
それでも…朦朧とする意識下で想うのは、哀しみばかりでは無いのだ

まさか天使様が、ここまで私を大切に想ってくれて居たなんて、考えもしなかったから
護ってもらえる事実を嬉しい…等と感じるのは間違っている

彼の為に限定的に毒素の抜いた、私の果実さえも口にする事はなくなり
何時も哀しげな目で私を見るその様子に、てっきり嫌われていると思っていたのだ…
明確な理由さえ解らないまま、手の掛かる私の手入れに嫌気がさしているに違い無い…そう思っていたのに

何故私を見捨てないの?自分の尊厳をズタズタに切り裂かれてまで?

私を護る事が彼の最後のプライドであって、例え私を愛しているからじゃなくても、構わなかった
この既成事実だけで満足だった…ここの星の毒素を穢れの全てを受け続けた苦痛は報われる

自己崩壊する私を見上げる彼の目は、まだブルーで涙に濡れていた
ごめんなさい天使様…最後まで貴方を護ってあげられなくて
私の声が彼に届いたかどうかは解らない…そんな事はどうでもいい
薄れてゆく意識下で…背中の古傷を抉られる貴方の叫び声を聴いた
私から溢れ出してしまった、貴方の恨み・過去の記憶が貴方を更に苦しめる事になる
だから…一番返せない記憶だけは、私が抱きかかえたまま消滅しようと思ったの
今の貴方がコレを思い出せば…天使にも悪魔にも成れなくなってしまうから

その後はどうなったかなんて、よく解らない…

貴方と悪魔の気配が…私の感知出来る空間から消滅するのと同時に
私の周りに集まってくる獣達の気配と唸り声を感じる
四散した悪意は彼等の身体と心の中に戻ってしまったのだろう
更なる知恵を求めるのは、生物としての当たり前の本能だ
活動を停止して弱った私は丸裸だ…私を護り続けた管理者ももう居ない

枝葉に実っていた果実だけではない…引き裂かれた幹をも引き摺り倒され
地上に露出して居なかった根すら掘り起こされ、貪り喰われてしまう
私と言う存在が小さくなってゆくのを感じながら、ただ思うのは…天使様の行く末

例え悪魔になってしまっても、どうか生きながらえて
今度こそ貴方自身の人生を生きてちょうだい…貴方を縛るモノは何もない

私の残骸の奪い合いは…その後も暫く続いた…
バラバラになってしまいながらも、植物細胞の私を完全に滅するのは時間が掛かるのか
断片的に残ったソレが、地中にしみこむ生き物の血を吸い続け、細々と生き続けるなんて思ってもみなかった…
肉体の大半を失いながらも、私はまだ消滅する事が出来ずにいた
しかし…元通りの身体を再生するには至らない、私は歳を取り過ぎていた
幾分猶予のできた最後の時間を…私を奪い合い、殺し合った連中の血で生きながらえるとは…
私ももう天界側の生き物では無いのかもしれない
でも…この醜い争いが終われば…そ勝者に跡形もなく喰われてしまうと解っていても
別段何も感じなかった…痛みを感じる機能すら破壊されつくしていたから

ところが…何もかもを諦めきった私が感じたのは、此方に近づいてくる強い力の波動だ
上空高くに出現したゲートから現れたのは、あの小憎らしい悪魔と
すっかり姿も気配も変わってしまったあの子…もう天使様とは呼べない姿になって

真っ直ぐに私の元にやって来た天使様に、この星の現実を見せたくは無かった
屍の折り重なり血塗れになった大地を、彼はどんな気持ちで見るのだろうか
だけど同行した悪魔はもっと惨いのだ…天使様を獣から護った事は感謝するけど
感傷に浸る間すら与えない、あろうことか、私の上に彼を組み敷いてしまう
この星の連中に…私に、穢れきった自分を見せつけてやれと言いながら

当たり前の羞恥心に喘ぐ天使様は、泣きながら止めてと懇願するけれど
あの男がそんな言葉に耳を傾けるワケもない、ココで彼を嬲り続けた時と同じ様に
嫌がり藻掻く体を強引に開き、その清い魂を蹂躙するのだ
ポタポタと落ちる天使様の涙に、我慢出来なくなった私は
残った力を振り絞って、彼を苦しめる悪魔に一矢報いてやりたかった…例え適わなくとも

けれど…私は気がついてしまうのだ、天使様の身体に纏わり付く無数の気配の名残に
ああ…彼はもう独りではないのだ、カタチはどうであれ向こうでは大切にされている
この星で幽閉されていた頃よりも、きっと良い環境に居るのだ

今ココで強引に彼を取り戻せたとしても…私達の星はもう醜く変わってしまっている
生きながらえている私の命も、かりそめのモノ、ずっと側には居られない
このまま彼が星に残っても、深い哀しみと孤独…それしか用意出来ない
………彼を解放しなければならないのは、私自身だったのかもしれない

ふと気がつけば…金色の瞳が私を見て居る、私の存在にはとうに気がついていたのだろうか?
天使様を組み敷いたままの悪魔は何も言わない、ただニヤニヤと私を見ていた
やがて…僅かに残った私の体細胞、バラバラに飛び散った破片の全てに赤黒い炎が着火する

天使様の為にも、貴様はもう何も言うな…黙って消滅するがいい、愛しているならば…

そう言う事なのね…本当に身勝手で残酷な男ね、最後のお別れさえもさせてくれないなんて
でも…きっとソレが正解…今、私が出て行けば、天使様はまた迷う事になる

一度闇に堕ちた堕天使が、再び天使に戻るなんて、普通なら有り得ないけれど
彼は創造神の一部だから、例外的に何が起こるかなんて解らない
そうじゃなくとも悪魔になったばかりなのだから、混乱している彼を刺激するのは
何一つ良い事はないでしょうね、そんな事、アンタなんかに言われなくとも解っている

サヨナラ…大好きだった天使様、貴方の為に黙って消えてあげるわ

あのロクデナシが気紛れに見せた親心、小さな貴方に優しくした記憶
そしてソレを喜んでいた貴方の無邪気さなんて、今の貴方には必要ないから、コレは返してあげない…
私の消滅のエネルギーと共に消し去ってあげる、跡形もなくね………

ちりちりとその身を焼焦がす炎に身体を委ねながら、【罪の樹】はそう呟くと、跡形もなく灰になってしまった
彼女に最初に付けられた本当の名前、【知恵の樹】【林檎】と言うソレすらも思い出せないままに…



end


考えていたより長編になってしまいましたが…如何でしょうか?
Kさんの『代官に拷問されてる堕天使和尚がみたい』的なツイートに便乗したカタチで
瞬間的に浮かんだ、和尚=元アダムの林檎の管理者設定と
聖セバスティアヌスの磔シーンから派生したお話でしたが
なかなか根暗でエグい良い感じに纏まったかな?と自分では思ってます

でも…歪んだ愛情で護られてるよね?天使和尚様?かなり酷い目にはあってますが…
天使ルークちゃん編とは違った感じになってますかね(^_^;)(^_^;)(^_^;)

何時もは外道系長官の影に隠れがちで、今ひとつ表面に出てきていない???
ド鬼畜にゃんこの底意地の悪さが、これでもか!と書きまくれて楽しかったです

書き終わったから言えますが…実はベースになっているお話がもう一つありまして

少し昔の作品になりますが、ギャグだかシリアスなんだかよく解らない…
山田圭子先生の『ゴーゴーヘブン』と言う作品がありまして
その2巻の巻末に『花嫁』と言う短編が載っているのですが

コレが死ぬほど良いのですわ…

ヒロインの少女が【氷雨】と言う名前なんですが
S嬢デビューする時に、女王様としての源氏名にしようかと本気で悩んだくらい好きです
もし今回の天使和尚様の話がお気に召されたのなら、間違い無く泣けます

【罪の樹】の特殊設定は、この話に出てくるもう独りの主人公【娑羅】ソレを借りてアレンジしたモノです
お話の結末は全く違いますが…もし興味を持たれましたら是非とも読んで頂きたいです


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あきゅろす。
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