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【リクエスト・過去作品サルベージ】
◆『流刑惑星の楽園』4 鬼畜J×天使X R-18G 部分ダミ×X D&A×Xあり

「もう一度あの惑星に行ってみてくれないか?ジェイル?」

ダミアンにそう命じられたジェイルは露骨に嫌な顔をする

「今更?あの星に行ってどうすんだよ、今は再構築の真っ最中だろう?」

絶妙なバランスで惑星を維持していた【要】の一つを破壊した上に
更に重要であった【守護者】を引き剥がし、その場から連れ去ってしまったのだから
今現在あの星には電磁波の嵐が吹き荒れているに違い無い、元々の不安定な状態に戻って
天変地異と急激な気候変動の下で、地上の生物はどれだけ生き残れるのだろうか?

否ソレ以上に【彼女】の崩壊と共に外に溢れ出した【悪意】
嫉妬やねたみも含んだ【負の感情】の全てを、積もり積もったソレを
あの寝とぼけた生物達が、受け止め切れるとは…到底思えなかった

報告では惑星事態の重力レベルすらも、まだ狂ったままだと聴く
そのため【守護者】を排除して尚、魔王軍の設営部隊はあの星には降りていない
一度崩壊しかけたソレの環境が、再構築され落ち着いた状態になる迄待つしかないのだ

例え上級悪魔であろうとも、磁気嵐に巻き込まれる危険性は皆無ではないのだ
そんな場所に再びお遣いに出されて、愉快であるハズもない
むくれるジェイルを諭す様に、ダミアンは続けた

「まぁそう言うな…どうにもおかしくてね、あの子の記憶の抜け方がね
もしかしたら…一番重要な部分は完全に抜き取られて
別ユニットとして、何処かに封印されているのかも?と思ってね
あの星で彼とマトモに接触したのは、お前だけだからね、何か心当たりはないかい?」

「え〜アイツは、もう完全に悪魔になったんだから、良いじゃ無いか、そんなカビ臭い記憶なんて」

面倒くさそうに答える部下に「そうは行かないよ」と彼は答える

普通の天使なら…過去の記憶などどうでもいい、綺麗さっぱり忘れてしまえばいいが
【賢者】であったゼノンのソレは違う、天地創造の為の研究ラボであり
神の実験室に在籍していたはずの彼の記憶は、魔界にとっても有益なモノだ
取り戻せるモノなら…取り戻してもらいたいのだよ、私と魔界の未来の為に………

有無を言わさずそう言う主に、ジェイルは渋々同意せざるおえなかった

そもそも、天使のままで魔界に連れて来いと命じられた彼を
闇に堕としてから連れ帰った件は咎められていた、首に刻んだ刻印の件も含めて
ダミアンにそのまま渡すのが惜しくなった上での「悪さ」である事は、付き合いの長すぎる主にはバレている
ご機嫌取りにココで【貸し】を作るのもまた、賢い保身の一環だな

そう考えたジェイルは憎まれ口を叩きながらも
再び開かれた惑星へのゲートを潜ろうとするのだが

「待って下さい………あの……あの惑星に行くなら、僕も連れて行ってください」

控えめで小さな声が二名を呼び止める、振り返ればラフな夜着をきたままの堕天使が
戸口に縋る様に立ちつくし、此方をじっと見て居た

「無理をしてはいけないよ、昨日も高熱を出したばかりだろう?お前は奧でゆっくり寝ていなさい………」

連れてこられたばかりの頃に比べれば、幾分かは調子が良さそうには見えるが
それでも、病みやつれている事には変わりはない
ダミアンは出来うる限り優しく彼を諭すのだが、鳶色に変色した瞳を潤ませた彼は
それでも引かない、ふるふると頭を振りさらに懇願する

「………御安心下さい、この姿では、天界に帰れるはずもない…
絶対に逃げたり致しませんから、戻ってきますから、僕も行かせてくださいお願いです
僕はあの惑星と管理者として、最後を見届ける義務がある…護り慈しんだモノ達の末路を」

語尾は掠れ、譫言の様に言葉を続ける彼の目元は赤く腫れぼったく、発熱が治まっていない事は容易に推測出来た
だが…言葉で諭したくらいでは、彼も納得出来なくて当たり前だろう
ふぅと溜息をついた皇太子は、ゼノンのまだ熱い身体を抱き寄せると、顎を持ち上げて唇を重ねる

「……ふぅん…んんっ」

天界側の生き物だった為、まだキスにも慣れては居ないその舌を楽しみながら
短時間の外出に必要な体力と魔力を分け与えてやる、強いヒーリングと共に
宝飾に飾られた指がピンと弾かれると、ゴトリと音を立てて、足首に巻かれていた枷と鎖が外れる

「………良いだろう、自分の目で確かめておいで、その方が踏ん切りも付くだろう?
ジェイル、彼も同行させてやるんだ、当事者が一緒の方が【捜し物】は早く見付かるだろうからね」

そう言いながら、ゼノンの肩に手早く衣装を掛けてやりながら、素足に靴を用意する
額に巻かれた角の補助帯を締め直してやるダミアンの姿に、ジェイルは解りやすく顔をしかめる

「おいおい、病魔連れで調査かよ………ピクニックじゃないんだけど???
ゼノン、お前も無理すんなよ、お前だって俺と外出なんて本意じゃないだろう?」

威嚇のつもりなのか、嫌な笑みをワザと作るジェイルの前に、ゼノンはツカツカと進み寄る

「………それでも構わない、足手纏いなのは解ってる、でも連れていってください」

拭いきれない恐怖心からだろうか?カタカタと震えながらも、縋り付いてきた相手の様子に
ジェイルは幾分驚きながらも、その後頭部を撫で上げると、その背をぎゅっと抱き締めた

「ふん…良い度胸だ、一度俺の調教を受けてトラウマになったら
普通なら100年や200年は、目も合わせて来ないのに…そんなにあの星が大切?
なら…連れていってやるよ、自分でその結末を確認したらいい………」

ゼノンを片腕に抱いたまま、ゲートに飛び込んだジェイルは、ケラケラと笑っていた、酷く楽しいそうに、凶悪な顔で
一瞬だけ両名の出発を止めようとしたダミアンではあったが、直ぐにその手を引いた

それがどんなに悲劇的な結末や事実であっても、彼が完全に悪魔に転生する為には必要な通過儀礼なのだ
ゼウスの分身であると言う【特別製】故に背負ってしまった宿業の様なモノだ

ゲートが閉じ静かになった部屋で、地獄の支配者は独り佇んでいた

※※※※※※※※※※※※※※

天使の金環が消し飛ぶと直ぐに、地鳴りの様な音が鳴り響いた
そうだ…ここは普通の惑星ではない、天地創造のその時から、天界側の力が強く及ぶ土地なのだ
【守護者】であった者もまた、この惑星の均衡を保つパーツの一つに
いや、惑星の一部になっていてもおかしくはない…事前の調査報告でその危険性は明記されていた
だからこそ【対象者】を徐々に闇に染め上げる事で、
そのアンバランスな均衡が、一気に崩れない様に気を配っていたつもりだったが

完全にその【光の属性】が消えてしまった事に、大地が呼応して嘆き悲しんでいる
強い地震の様な強い揺れはその現れだ、ミシミシと軋む大樹もまたソレに答えている様にも感じる

マズイ…これは………あまり時間が掛けられないかもしれない…

大地の嘆きと同様に、大気のざわめきをも敏感に感じ取ったジェイルは、空を仰ぎ唇を噛みしめる
ところが…彼が組み敷いている当の天使は、動揺するそぶりすら見せない
見開かれた目は放心状態で、ボロボロと涙は流してはいるが
我が身に起こった事の方が受け入れがたいのか?その視線は酷く虚ろで
周囲の事は、まるで見て居ない様にすら感じる、まるで命のない人形の様に

オオオオオオオ 地鳴りとも怯える獣共とも違う叫び声が、あたりに鳴り響く

目を上げれば…漆黒に染まった幹をくねらせ、【罪の樹】が悲鳴を上げている
天使の惑星中の生き物の哀しみや憎しみ…その全てを吸収しきれなくなったのだろう
限界などとうに越えていたのだ…ドス黒く染まった樹液がボタボタと落ちるのだが
それでも尚…彼女は、ソレの吸い上げる事を辞めない
その醜悪な姿とはかけ離れた、金色のオーラを放ちながら、尚も与えられた役目を全うしようとするのだ

「おいっ!!!お前!!!コイツをここから解放したいんじゃなかったのかッ!!!
いい加減に、コイツの悪意と記憶を吸い上げるのを辞めろ!!!
その為に俺を呼んだんだろうがっっ!!!聴いてるのかっっ!!!」

怒気を含んだジェイルの咆吼は、半分は獣のソレに戻っているのだが
【罪の樹】は彼の言葉を聞き入れる様子は無い、自己崩壊も厭わないつもりなのだろう
もてる霊力の全てを解放しはじめる、その様子に派手な舌打ちをしたジェイルは
その爪で、項垂れる天使の拘束具の一部を切り裂き始める

「チッ…女の移り気かよ…今更コイツを手放すのが惜しくなったのか………」

悪魔の叫びの意味なんて解らない…なに?何をしようと言うの???
朦朧とした意識下で僕は相手を見るけれど、相手は僕を見て居ない…
その鋭い眼光が見上げているのは、【彼女】の方だった

悪魔は手早く僕の身体の向きを変えてしまうと
今度は僕が、彼女に抱きつく様な形で、僕を固定してしまった

今迄…背中に彼女のゴツゴツとした木肌は感じていたけれど…
目の前のソレを見て愕然とする、一体何があったと言うのだ
真っ黒に変色しただけではない、熱を持ち脈打つソレは
最早、樹木のモノとも植物のモノとも思えない代物に変貌しており
僕は思わず彼女に縋り付き、上を見上げるのだが…
ザワザワとうねり軋む彼女は、相変わらず僕の問い掛けには答えてはくれない

「リングの破壊で、記憶の方も戻ると思ったんだけどな…
やっぱりコッチも穿らないと駄目か………」

背中でブツブツとそう言い放つ悪魔の言葉にギョッとした僕は、恐る恐る振り返えれば
悪魔の目は酷くギラギラとしていて…僕の背中を凝視していた
悪寒が駆け上がる…こう言う目をしている彼は…ロクな事を考えていないからだ
首に刻印を入れ始めた時と同じ様に

「ーーーーッ!!!」

ユルユルと何かを探り、背中の肩胛骨の辺りを撫で回していた指が
突然ある一点で、嘘の様にめり込み、体内に押し込まれる…
爪先にブツンッと破られた肌の軋みに、背中が反り返るのだが
悪魔は構わず肌を切り裂き、その中身を乱暴に掻きむしった

ブチブチと張り付いた何かを引き千切る音と、耐えがたい痛みに僕は絶叫した
生温かい血が背中から溢れ出すのだが
彼はその傷跡の中を指で掻き回してくる、まるで何かを探しているかの様に

「痛いっ…嫌っああっ…やめてぇ……」

焼け付く様なその激痛に…ただ許しを求めて叫び続けるのだが、彼は聞く耳を持たない
それどころか、同様に、反対側の同じ様な場所の肌も探り、ガリガリと抉り始める

鮮血の臭いに入り交じる饐えた体液の臭いに…ソレがタダの傷では無い事は推測出来た
新しく出来た傷などではない…元々僕の背中にソレはあったのだ
その上に完全に皮膚が被ってしまう程に、当事者がその存在を忘れてしまう程の昔に
その背に負った古傷を…この無情な悪魔は、抉り引き千切っているのだ

背中の激痛とは別に、ズキリとまた頭が痛くなり、そのままドクドクと脈打ち始める

ソコにあったモノ…かつてソコにあった何か………嫌だ思い出したくない………

物理的な激痛に翻弄されながも、何故か心がギシギシと軋み
どちらを拒絶しているのか、自分でも解らなくなってゆく………

そして…彼の両方の指先が血塗れの何かを
折りたたまれた何かを、体内から引き摺り出す………

最早自分で動かす筋肉も神経組織も遮断され、ダラリとぶら下がるばかりのソレ
悪魔両腕で蛇腹の様に広げられるのは…骨が露出したカタチばかりの翼の残骸

何か大きな力で毟り取られた様なソレを見た瞬間に
僕の古い記憶が…自ら封印したはずのソレが蘇ってくる

最愛の相手に、翼を吹き飛ばされ奪われてしまった日の事を
僕が作った試作品、失敗作の烙印を押されたモノ達と共に、この惑星に遺棄された事実を
主人に逆らい…作品の廃棄を拒んだ罰として、余計なモノを作った罪を問われて

「あああっうぁあああ………」

思い出したくない…そんな酷い事、惨い事を思い出したくないっっ!!!
心の奥底で、当時はまだ子供だった僕が、そのままの姿で泣き叫ぶ
そんな辛い事なんて、忘れてしまえばいい…そんな酷い事は、無かった事にするんだ

そうだ僕は最初から一名だったんだ…この星の創造主として、最初から独りで………

空を仰いで泣きじゃくり、自問自答する僕の側には
まだ培養ポッドの中に収められたままの【罪の樹】の苗木が有った

【彼女】は若枝を僕に伸ばしながら、金色のオーラを放って何かを言った
でも…遺棄される前に、【彼女】の声を聴く力すらも奪われた僕には
【彼女】が何と言ったのかすらも解らなかったんだ…その温かさダケは確かに感じながらも

※※※※※※※※※※※※※※

「良い調子じゃないか…そら…そのまま全部思い出してしまえばいい」

血塗れの翼を震わせながら、樹木に縋り付いて泣く天使の尋常では無い様子に
ジェイルは気がついていたが、それでも情けを掛ける様な事はしなかった
ガクガクと震える身体をそのまま押さえつけ、傷付いた翼をギリギリと掴み上げると
先程まで穢していた場所に、再び己の猛りを叩き込んだ

「ひぃああああっ………嫌っ嫌だぁぁ………」

既に体液に塗れたソコは、大した抵抗も無く悪魔を受け入れるのだが…
身体中が痛くてたまらない、ソレ以上に心が張り裂ける
今無残に爪を立てられている翼も、強引に毟られ開かれた、格納孔癒着部分も焼け付く様に痛いけれど
ソレ以上に苦しいのは心の方だ…何故そんな辛い記憶を思い出さねばならない
涙の色は血の色に変わり、頭を振り乱す僕は、認識したくない記憶を再び封印しようとするのだが

内側に穿たれた悪魔の熱さと激しさが、無慈悲にそれを許してはくれない

ガツガツと突き上げるソレが僕の精神を蝕み、追い詰める、現実に引き戻してしまう
都合の良い妄想世界に夢に逃がしてがくれないのだ…現実世界で苦しめと言わぬばかりに

「憎いだろう?俺が?嫌な事を思い出させる俺が、憎くてたまらないだろう?
お前を捨てたアイツも、許せないはずだよなぁ?いくらアイツに作られた人形でも?
いや違うな…アイツを忘れられないからこそ、狂おしい程憎いんだろう?
お前を愛してくれなかったアイツも、愛されずに捨てられたお前自身もか?」

「嫌だっ…聴きたくないっっ!!!それ以上言うなっっ!!!」

ガチャガチャと鎖を鳴らしながら、絶叫する僕の目の前で
【彼女】の幹に走った無数の亀裂が一気に裂けると、内側から崩壊が始まる
刺激され増幅する僕の苦悩と苦痛を、吸い込みきれなくなったのか?
崩壊する楽園を逃げ惑う、この星の住人達の嘆きの叫びに耐えきれなかったのか?
そんな事は今となっては解らないけれど、彼女はとうの昔に限界を超えていたのだろう

大樹を包みこんでいた金色のオーラが、徐々にその光りを失い完全に消失すると
裂けた幹から溢れ出すのは…血液の様にドス黒い樹液…
否…この樹は長期間にわたって、惑星中から回収した悪意の固まりて言うべきか?
粘度を持ったソレは…まるで生き物の様にブルブルと震えると、放射状に一気に拡散する
まるで元の持ち主の元に、回収した場所に戻ってゆくかの様に

勿論…繋がれたままの【守護者】の例外ではない…
ボタボタと降り注ぐソレが、あらゆる隙間から体内に侵入してゆく
口や目、耳からばかりでは無い、損傷した翼の隙間、首の傷口からさえも
強引にねじ込まれ、流れこんでゆく、物質的な質量を完全に無視するカタチで

逆再生の様に【黒】に浸食されてゆく【純白】を
繋がったままのジェイルは、ニヤニヤと薄暗い笑みを浮かべながら見下ろしていた

「ぐっあっっあああっああ………」

とても受け止め切れない黒い闇が、僕の中に入ってくる
熱いマグマの様なそのうねりが、強引に身体の中に流れこんでくる

憎い・憎い・憎い・憎い………

強制的に掘り起こされ、刺激されるのは…押し殺していた感情か?
元々持っていたモノなのか?その余りの強さと渇望に
僕の深層心理は怯え逃げ惑う、その【暗闇】に飲み込まれたくなくて
憎んだところで惨めになるだけ…怒ったところでソレを上回る哀しみを覚えるだけ…
そう考えて目を背けていたモノが、向き合おうとしなかった感情が
今一気に僕の存在を飲み込もうとしていた

駄目だアレに捕まったら、僕は僕でなくなってしまうっっ 僕は僕のままでいたい
嫌な事なんて、哀しい事なんて、何も思い出したく無い

だけど…許してもらえない、鎖に繋がれたままでは【うねり】から逃げる事も出来ない
藻掻き苦しむ僕の中を掻き回す悪魔は、強引に僕の口をこじ開けると、闇を僕の中に導いてしまう

痛い…苦しい…もうやめて…助けて、助けて………

ボタボタと流れる涙すらも黒に染め上げながら、叫ぶ言葉はもう言葉にならない、意識がもう保て無い…
このまま気を失ったら、僕は違う何某になってしまうのか?そのまま消滅してしまうのだろうか?

※※※※※※※※※※※※※※

樹液の流出は一段落した様だな…完全に沈黙した【大樹】を見上げていたジェイルは
腕の中でぐったりと項垂れる相手を見る、肌が熱い…暴行に重ねて古傷を抉られ
場合によっては肉体が崩壊しかねない量の【闇】を、一度に吸収してしまったのだから
高熱ぐらいは出て当たり前だ、今の姿を何とか保っているのも不思議なくらいだ

早めにココから退散して、適切な処置を受けさせた方が無難だろう…

殺さずに生かすべき………流血と殺戮を楽しむ悪魔の性ではなく
拷問官としての直感の方で、そう感じたジェイルが、虜の拘束を外そうとすると
ハァハァと息を吐きながらも、腕の中で震えていた天使がぐもった悲鳴を上げた

「ひぐっああああっ」

頭の両サイドから、唐突に血飛沫が上がり、ジワリと溢れ出す鮮血
ブロンドを掴み上げ、確かめるまでもなかった…
頭を突き破り、メキメキと音を立てて出現するのは、拗くれた角だった…
まるで崩壊した【罪の樹】のような色をしたソレは、血に塗れて鈍く光っていた

「深層心理に累積した憎しみと、恨みか………」

肌の開口部からの出血は止まらず、辺りにボタボタと血溜まりを作ってゆくのだが
禍々しく自己主張をする、生まれたばかりの【角】が、酷く綺麗に見えて
ジェイルはその赤い唇をよせて、その先端をベロリと舐めると
既に意識の無いハズの身体が、それでもピクリと反応する

どうやら…場合によっては武器使用も可能な、魔族や有角生物の『角』とも違う様だ
発生したばかりのソレは、まだ不安定で固まりきっていないのか?
舌と唇で触れたソレは、予想よりも柔らかくドクドクと脈打っていた…堅そうに見える見た目とは裏腹に
その心地良い感触に、思わずソレに齧り付き、引き千切りたくなる獣の衝動を無理に抑えると
ジェイルは、天使の中に穿ったままの自身をずるりと引き抜いた…

「何も解らないふり・知らないふりをしていたアンタより
今のアンタの方が、生き物としてはよっぽどマトモだな………そうは思わないか?」

手早く帰り支度を始めるジェイルは、昏睡状態の天使の背を摩りながらそう呟いたが
虚ろな目で虚空を見つめる相手に、ソレが伝わっている様には見えなかった

※※※※※※※※※※※※※※

到着した惑星の有様は…想像以上に酷いモノだった
二つの要を同時に失った事による、天変地異と磁場嵐は、既に収まりつつある様だが
問題はソレだけでは無かった………
大地に転々と転がるのは、無残に引き裂かれた生き物の屍と、荒れ果てた大地が続く

罪の樹から拡散した【悪意】は全ての動植物に取り憑き、その行動を狂わせるには充分な量だった…
何しろ彼等の為に用意された一個体分のソレではない
何世代もの【悪意】を昇華する事も出来ず、ただ貯め込んでいった結果なのだから
元は凡庸で無知だったハズの生き物が、唐突に手に入れてしまった【悪意】を
その身には過ぎた【知恵】を使いこなせるハズもなかったのだ

順応しきれなかったモノは発狂する、無知だった自分を恥じ入るからではない
元に戻れない事嘆き、何も知らなかった自分に恋慕した挙げ句に、自らを抹殺してしまう
そして何とか現実を受け止めたモノ達は、更に利己的に【知恵】を求め始める

より強い【知恵】を求めた彼等は、その源である【罪の樹】の残骸に当たり前の様に群がる
しかし…力を放出したその樹木は、如何に大樹と言えど
この惑星全体の生き物からみれば、やはりちっぽけな存在なのだ
【暴走】した彼等が満足するだけの分配量を、最早その身には残してはいなかったのだ

それでも…彼等の渇望は止まらない、目の前の残りカスの様な【知恵】の欠片を巡って
醜い諍いが起こりはじめると、そしてソレは明確な【殺意】に変化してゆくのだ

【憎しみ】を覚えた彼等は、覚えたばかりのソレで相手を恨み、殺し合う
自分の目的を邪魔するモノの全てを【敵】とみなし、何の躊躇も感じずに排斥する様になってゆく

変わり果てたその光景に愕然としながらも、ゼノンは真っ直ぐに【罪の樹】の元に向かう
ジェイルはただ黙ってその後について行く、樹木に近づく程に増えてゆく屍を乗り越えながら

小高い丘の上に生えたその樹の周囲は………
かつては丁寧に手を入れて、下草まで刈り込んで居たため、居心地の良い広場の様になっていたのだが
彼女の根まで食もうとしたのだろうか?無残に掘り返されたソコは黒い土の色をさらけ出し
掘り起こした欠片を奪い合う、生き物達の血で、更にドス黒く染まっていた

そして…かろうじて残った大樹の残骸の根元では…
この血みどろの争いに勝ち残ったと思われる、大型の肉食獣が二頭、尚もソレを奪い合っていた
その毛皮を鱗を、爪と牙を、互いの血と脂で濡らしながら………

少なくともゼノンがこの星に居た間、ここまで巨大な生物も、攻撃な性質を持つ者も
この星には存在しなかったハズなのだが………
急激に体内に取り入れた悪意と互いに対する殺意が、短期間でここまで身体を変質させてしまったのだろうか?

ちょうどゼノンの頭に、突然角が出現した様に…精神の昂ぶりが細胞を変質させる事が可能なのだろう
神の分身である彼と同じで、隔離された原始生物、創造者の試作品の子孫達なら…
それくらいの芸当はやってのけるだろう

「やめないかっっ!!!お前達!!!」

姿形はすっかり変質していても…ゼノンは双方の獣の気配には覚えがあるのだろう
両者の間に割って入ろうとするのだが、相手は彼を【管理者】と認識出来てはいない様だ…
単純に姿だけではない、属性も気配もすっかり変化しているから無理も無いだろう

よだれを滴らせる口から漏れるのは、新たな敵を目視で確認しただけに過ぎず
自分達の争いに水を差す邪魔者として認識したのだろう、巨大が爪と牙が一気にゼノンに襲いかかってくる

ひゅんっ 空間を切り裂くソレが、ゼノンの髪をかすめて手前の獣の顔面を殴打する
同時に走った深紅の炎は、長く伸びた鞭の上を走り、獣のたてがみに燃え移った

大振りの一本鞭に見えたソレの先端は、生き物の様に九尾に分裂して対象者に食らいつく
戦闘用の九尾鞭を繰り出したジェイルが、自らが発した炎に煽られて不敵に笑っていた

既に両者の戦いで血に塗れ、汗に塗れていた事が逆に幸いだったのか
その炎は、獣の上半身を火だるまにしてしまう程の威力は持たなかったが
タンパク質が焼け焦げる臭いと、痛み…そして自在に操られる炎の渦は
言葉の通じない獣を威嚇するには、充分な効果が有ったのだろう

直ぐ側でソレを見て居た獣がまずその場から逃げ出すと、鞭の一撃をくらった方も慌ててその後に従う
ジェイルもソレ以上の深追いはしなかった、あっさりと獣を呪縛から解放してしまう

逃げ去ってゆく獣達を呆然と眺めていたゼノンは、ギンとジェイルを睨み付ける

「………お前のせいだ、お前さえ来なければこんな事には………」

明確な憎しみを孕んで、ギラギラと光るその目は
この星に捕らわれていた、流刑の天使のソレとは違う
感情が殆ど見えなかった、ガラス玉の瞳ではない
考える事を完全に放棄した、与えられた使命をこなす人形のソレではなくなっていた

その強い視線を満足気に見下ろしながら、ジェイルは言った

「ああ…確かに俺のせいだろうな?だが俺は切っ掛けにすぎない…
だが…いずれは支えきれなくなっただろうさ、そう遠くない時期にな
あの女の寿命はとうに尽きかけていたのだから…世話をしていたお前が一番解っているはずだ」

魔王軍がここに来たのも、俺が派遣されたのも、その崩壊への序曲をほんの少し早めたにすぎない

「そんな当たり前の事も解らないなんて、まだ躾けが足りないか?ゼノン?」

赤い舌がチロリと自分の指を舐め回す…ニヤニヤと笑い続ける相手の気配に
ゾクリとする別の何かを感じたゼノンは、思わず後ずさるのだが
金色の瞳に灯った薄暗い光から目を反らす事が出来ない………

※※※※※※※※※※※※

「嫌だっ触るなっ………」

剥き出しの土の上に押しつけた身体は、それでも藻掻き、無駄に抵抗をするので
ほんの少しだけ、後ろから頸を締め上げててやれば
癒えきらない刻印に擦れる鞭の質感が、よほど痛かったのだろう
ゼノンは小さく悲鳴を上げて呻いた

転魔の反動でまだ不安定な身体だ、体力も戻っていないのに
上級悪魔の俺に敵うどころか、逃げ切れるはずもないのに…

揉み合いで着乱れた衣装から露出する、病み上がりの肌は、天使であった頃よりも生白く
黒く染まった大地とのコントラストで、妙に浮き上がって見える
全身にくまなく散った鬱血痕…重ねられたキスマークがエロチックだ

『保護』と言う名目で、ダミアンのプライベートスペースに幽閉状態のコイツは
ダミアンにだけではない、他の奴にも抱かれているのを俺は知っている
出かける前に、抱いた奴から直接に聴いたからね

惑星での調教が、少々効き過ぎたのか?
俺と同じ白面の上級悪魔に、強い恐怖心を持ってしまったゼノンは
比較的元の姿に、天界人に近い姿のダミアンには…チャームで簡単に懐いたクセに

流石にそのままではマズイと感じた皇太子殿下は
戦場から定期的に帰還する側近に、主にエースとデーモンに
荒療治も兼ねてゼノンを抱かせたらしい、自らも同席する部屋で

見た目はしっかり魔族になっていても、完全純粋培養のゼノンからすれば
不特定多数に抱かれるなんざ、考えた事すら無かったのだろう
最初こそは泣いて嫌がり、ベッドに上げるだけでも一苦労だったそうだが………

頸の傷跡に気がつけば、あのお優しい副大魔王は、すぐに感傷的になったに違い無い
俺の悪さの謝罪でもしながら、優しくシてやった事は、容易に想像がつく
ダミアンだってそうだ、利用価値の高いゼノンは、嬲り殺す対象の天使では無いようだ
ならば…ベタベタと甘やかして、壊れ物の様に扱ってはいるはずだ

………かつて虚弱体質だった、子供の俺にそうした様にね

問題があるとすれば…エースぐらいなモノだろう

戦場から持ち越した興奮状態が、そうじゃなくても昂ぶっている状態の目の前で
愛魔が他の者に触れているなんて、面白いはずもないからな…
デーモンの事となると、例え相手が俺であっても、切れる事があるくらいだからな

格別の扱いをされながらも、ベソベソ泣くばかりのコイツにカチンとくれば
少し乱暴に犯すくらいの事はしたハズだよな…多少の無理と倒錯行為も含めて
俺がきっちり調教した身体なら、少々の事では壊れないだろう?とか言ってね

実際に…「抱き心地は悪く無かった」等と嫌味半分に言われたばかりだからね

状況が手取る様に解ってしまう分、「お前が来ると悪魔恐怖症が酷く」なると
蚊帳の外のに追いやられた状態の自分が、少々面白く無かったのも事実だ

スルリと延びてきたジェイルの手が、やんわりと前に触れただけで
ゼノンは腕の中でビクリと大きく震えたのは、怯えからだけではないだろう
まだ熱の引かない身体は、元々熱かったのだろうが
指の中でビクビクと反応するソレを確かめながら、ジェイルはその耳元で囁く
自己意思とは関係無く反応し始めた身体と、彼の羞恥心を最大限に煽る様に

「どれだけ身体が仕上がったのか?具合を確認してやるよ………
エースの凶悪すぎるアレが、呑み込める様になったのなら
他の奴のナニなんざ楽勝だろう?使い心地も良くなったんだろう?」

何故ソレを知っているのか?
オーバーなくらい見開かれた目が、此方を見るので、ニヤリと笑い返してやる
この程度で、そんなに絶望的な顔をするなよ…
その動揺を隠せない顔が、酷く可愛らしかったからだろうか?

キスの変わりに俺は、その角に唇を落とす

最初に触れた時よりかは、しっかりと固まっては居る様だが
ドクリと脈打つソレは妙に生温かくて、中を流れる血をダイレクトに感じる分
獣の本能がゾクリとしてしまうのだが………

なに…食い千切ったりはしないさ、俺なりに優しくしてやるさ、俺なりにね………

本当にコイツの絶望や哀しみは良い匂いだから
渡したくなかったよ…例え相手が地獄を統べる皇太子殿下サマでも

面倒くさいお遣いの駄賃に、少しぐらいお裾分けを頂いても罰は当たらないいだろう?



続く


延びるよ延びるよどこまでも…にしたくは無かったのですが
細々書いてると伸びるので、あきらめました、わっははははっっ
同じ事をにょた参謀の時も言っていたので、5くらいで終わるかな多分???

描写のエグさはかなり修正したつもりですが…
その分?内容が重々しくなりすぎました

ご自身で碇シンジ君傾向=保護者・配偶者・恋人に
重度の依存傾向が有ると判断できる方には

特に重過ぎる話になってしまったかもしれません

天使=神への絶対な精神依存・理想主義の存在と考えている分
そうなってしまうのかな…変化球を繰り出してるつもりでも

読み進めてゆくうちにしんどくなってきた方は、途中ギブも全然OKですから
絶対に無理はしないでくださいね

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あきゅろす。
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