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【見習い拷問官と教官】
【修正版】『見習い拷問官と教官』1 R-18G プロローグ

地獄の最下層、コキューストにある特別監獄は、他には類を見ない奇妙な作りをしている
現所長ジェイルの趣味により、改装されたソレは、金属質で装飾も無く、無機質な内装である反面
全体的な構造は、古代ローマのコロッセオを思わせる、独特なカタチをしているのだが
階段状に積み上げられ、ぐるりと内側を向いて、独房が並ぶ構造には、ちゃんと意味が有る

効率良く監視行動をする意味とは別に、収監者に対する威嚇する為、もとい嫌がらせの為の建築でもあるのだ

収監者には、嫌でもその中央が見える…独房の最下層に見える円形のステージが
連行されたばかりの者は、監獄らしからぬ不可思議な作りを、怪訝に思うだけだが
間もなく知る事になる、その場所が【所長専用の特別拷問室】である事を………

白い円形ステージの上には、4本ある柱の他は、一見何も無い様に見えるのだが
ソコには、大魔王家直々の強力な結界が、張り巡らされている
例え上級悪魔であっても、ココに放り込まれてしまえば、脱出は不可能だ

そして引き摺り込まれたら最後…肉体の原形を留めては出る事は出来ない、最悪の地獄室だ
所長専用の遊び場であり、血塗られた玩具箱なのだから…

通常の尋問には、特別室は使用されない…ココに引きずり込まれるモノは
所長に目を付けられた、気に入られてしまった哀れな「生け贄」だけだ
気紛れな彼に、ランダムに選ばれてしまえば…
その息の根が止まるまで、いや…死ぬ事が出来るまで解放されはしないのだ
薄暗い欲望が満たされるまで、時間を掛けて何日もただいたぶりつくされる

怯えきった他の収監者達の、無数の目に凝視されながら
最後の一息まで、藻掻き苦しまなければならない、彼が満足して殺してくれるまで

最も…この監獄に送り込まれる者達の殆どが、最初から処刑が確実な者ばかりだ
カタチばかりの裁判を待つまでもなく、程無く滅せられるのは確実な
特Aクラスの重犯罪者ばかりの収容施設ではあるのだが

政治的な策謀の場合、実行犯はともかく主犯格には、高貴な血を引く者も多いため
虜囚と言えど、その権利は守られている、刑が確定するまでの短い期間ではあるが

最終的な罪状と処刑執行日が確定してしまえば、専門の死刑執行官も在籍するため
その執行は、公開・密室に関わらず、期限までに別の処刑場で行われるのが本筋であり
如何に獄卒・拷問官と言えど、過度な加虐行為は禁じられて居るはずなのだが

そんな建前も、規則も、彼の行動原理を抑制する事は出来ない
ココの所長は、純然たるエゴイストな上に、無類の流血好きなのだ、普通の魔族以上に

受刑者の権利も、それに付随する恨み言や遠忌も、彼にとってはどうでも良いのだろう
玩具箱に堕ちてきた人形共に、権利も何もあったものでは無いだろう?とばかりに
死刑執行までのつかの間の安息すらも、見逃しはしない、慈悲を掛けるそぶりも見せない

拷問官は、恨まれて当然、憎まれて当然、忌まれ、恐れられてこそ誉れとばかりに

何かとそれらしい「理由」を付けると、虜囚を独房から引き摺り出してしまう
身分も階級も関係無い、本能の赴くままにズタズタに引き裂き、弄び、嬲り殺してしまう

ジェイルは「その仕事」を代々の生業とする、古くからの貴族・豪族ではない
皇太子殿下が、何処ぞから連れ帰って来た、変異悪魔である為
その出自については、経歴不明な部分が多く、詳細を詳しく知る者は少ない

多少ハメを外したとしても、その行為を非難されようとも、彼自身は痛くも痒くもない
横暴で極悪非道の「殺戮者」として、傷つく家名も一族も持ち得ないのだ
躊躇に繋がる「枷」を、何一つ持たない現状も、彼の奔放すぎる行為を後押ししていた
その上に皇太子殿下の寵愛も厚く、腹心の一名として、特例的な特権を持つ分、更に始末が悪いのだ

歴代所長の中でも、最悪・最凶拷問官と言われる所以はそこに有る

どうせ殺してしまうなら…間もなく消えてしまう命なら
せめて生きている間に、その血を見せろ、楽しませろとでも言わぬばかりに
自らの手で切り裂き、いたぶり尽くすのだ、まるで…猫が捕まえた獲物を弄ぶ様に

単純に血に飢えているから?いや…それならまだ救いがあるだろう…
それならば…ひと思いに楽にもしてもらえる、苦しみも痛みも一瞬だ
だが彼はソレを許さない、許すワケがない…

その命を尊び、速やかに相手の命を絶つ事を尊ぶ、死刑執行官では無いのだから

虜囚が肉の一欠片になってしまうまで、その苦痛と絶望を余さず味わいつくす
楽には死ねない様に、じわじわと責め立てる、冷たい冷笑を浮かべながら

「詰問・審問中の虜囚の死亡は罪には問われない」

それが拷問官の特権的な権利ではあるが、職権乱用も甚だしい事だ
だからと言って、それを咎める者も居ない、ココは完全に彼の独壇場でしかない

犠牲者の血潮が映える様に作られた、真っ白な床は磨き上げられ
床下には得体の知れない拷問器具が、多数隠されている事を、虜囚達はみな知っている
強制的にその様子を見せつけられ、断末魔を聞かされる日々に怯え縮こまる

例え今日は助かっても、何時自分が「対象」に選ばれてもおかしく無い事も解っている

中には…特別室に送られる前に、いっそ自ら命を絶ち、楽になりたい…
と考える者が出るのも当然だが、彼等にはその自由すらない

一名一名の首に付けられた首輪からは、生活反応の全てがモニタリングされている
例え看守の目を盗んで自害を計っても…駆けつける救護班に直ぐに手当をされてしまうのだ

早く楽になりたければ…絶望から解放されたければ
処刑の執行日を大人しく待つか、所長の手に掛かるか…
その二つしか選択肢は用意されていない、この場所に送り込まれた以上は

ほら…今日も近づいてくる、踊る様に軽やかで、特徴的な白いブーツの足音が
本来は足音など立てない生き物の癖に、わざわざ音をたてて居るのだ、ソレに怯える者達を嘲笑う様に

今日の生け贄は誰なのか?俺を見るな…御願いだから早くこの房を通り過ぎてくれ

その気配が通路を巡回する度に、虜囚達は身体を縮め、物陰に壁際にへばり付く
彼のギラギラとした視線から、少しでも逃れる為に、目を付けられてしまわぬ様に
ただ息を潜め待つ事しかできない…その足音を自分の房の前で止めてしまったら最期だから

気まぐれな所長の気分一つでソレが決まり、加虐が特別特権として許されている
ここは地獄…最下層の地獄、この監獄から生きて出られるモノは居ない最悪の生地獄

しかし…その得体の知れない、極悪非道の拷問官の存在感が、恐怖感が、
魔界全土の治安を護る為の一翼を担っている事も、また事実なのだ
故にジェイルがその権利を剥奪される事はない…
重犯罪者達もまた、彼に壊されて初めてその存在意義を確かめる

かつては弱肉強食・強者の支配…混沌と無秩序しかなかった魔界を
まがりなりにも法治国家として纏め上げるには、暗闇と汚れ役は必要不可欠なのだ
そこは人間界と替わりはしない

※※※※※※※※※※※※※※

全く…最期の最期まで、こんなにも俺を楽しませくれるとは
見込んだ通りのヤツだったね24653…

場に籠もるどんよりとした空気には、錆びた鉄の臭い、噎せ返る様な血臭と油と体液の臭いが立ち籠め
引き千切られた肉片と、無残な傷跡は壊死が始まり、既に死臭を漂わせ始めている
その中心で、両手を肘まで真っ赤に染めたジェイルは
恍惚とした表情でその血潮を舐めとると、少し低い位置に居る相手を見下ろした

目の前の柱に吊された男、所長の「お気に入りの虜囚」の息は、既に弱く浅い…
彼の最期がその時が近いのは、誰の目に見ても明らかだ
いや…ようやく死ぬ事が出来る、そう言った方が適切であろう
追加尋問の名の元に加えられた加虐、男が受けた暴行は、それくらい凄惨で残酷なものだった

白い床に鮮やかに広がる血潮の上には、無数の血塗れの肉片が散らばり
引き千切られた臓器はひしゃげ、粉砕された骨の欠片は踏みつぶされ、ブーツの下でパキリと悲鳴を上げる
男の下半身…いや下半身だった「モノ」は既に原形を留めていない

どんよりと曇った目が、力無く下を向き、引き摺り出され、垂れ下がる腸を眺めている様な酷い有様だ

それでも…彼がまだ、かろうじて生きて居られるのは…
何も再生能力の高い、魔族の肉体だからではない、単純に拷問官の腕が良いからだ

魂の一部、再生力と魔力の源であるコアは、事前に抜き取られて居る
今の彼は魔力を持たない、弱い生き物と何ら変わらない状態なのだが…

酸素供給を阻害しない様に、心臓と肺は無傷のままだ
脊髄と脳幹の損傷は、最小限度に抑えた上で
静脈と動脈も綺麗に残され、循環を確保する為に、ショートカットのバイパスで繋がれている

無秩序に切り裂いて居ると見せかけて、計算されつくしているのだ
呼吸困難・失血だけで、相手が勝手に絶命しない様に
要所要所に止血、治療の痕が残されて居る様子も、逆に惨たらしく感じる

そう…細心の注意を払った上で、生命活動にギリギリで、必要な部分だけを残されている
最期まで感覚を失う事も出来ない様に、脳を優先的に生かされ続けている…ソレだけだ

そのままショック状態を起こしかねない程に、惨い方法で肉を剥ぎながらも
相手の耐性と精神力を秤ながら、手加減を加える技術力は大したモノだが

それが虜囚の男にとって救いにはならない…ただ地獄の様な苦痛が長引くだけだ
嬉し気な視線を落とす拷問官が、満足するまで、死ぬ自由すら彼には無いのだから

例え半分の質量になってしまった肉体でも
その重さの全てを支えきるには、腕の筋肉と骨は華奢すぎるのだ
長時間吊された両腕は、血の気を失い、青黒く変色、既に脱臼しかけている上に
伸びきった両腕の靱帯も、かろうじてカタチを残している上半身を、支える事すら最早叶わない

その意味を成さなくなった肩の筋肉は、今は彼自身の気道を塞ぎ、圧迫しているのだろう
充分な呼吸すら出来なくなった男の顔には、紫色のチアノーゼが既に浮かんでいた

自らの手で、加虐の限りを尽くしておきながらも
瀕死の彼の反応が薄くなった事が、気に入らないとでも言うのだろうか?

ジェイルは、未だにピクピクと痙攣している臓器に爪をたて、無造作に強く握りしめる
その度に奇声を発っして、体液をまき散らしながら、跳ね上がる男の上半身は
まるで出来の悪いマリオネットの様に、踊り、悶え苦しむ様が哀れなのだが
拷問官はその返り血を気にも止めずに、その感触と肉の軋みを、悲鳴を残さず味わう
薄暗い冷笑を浮かべて、さも楽し気にニヤニヤと笑いながら

収監者No.24653 本名は不明 通称はアレクセイ

人間の時間で言う所の三月前、大魔王陛下の御寝所に忍び込み、暗殺を企てた実行犯

魔王宮の使用魔として、一年以上前から潜入した経緯と、市井には到底揃えられないレベルの装備
魔力レベル的には、下級悪魔の域を超えて居ないのにも関わらず
王宮付きのコマンダーを、瞬時にして10名殺傷した、暗殺技術を考えれば…
高度な特殊訓練を受けた者であり、単独犯としての可能性は低い
比較的高位、或いは潤沢な財力を持つ、協力者・首謀者が別に存在すると考えるのが自然だ………

それがこの虜囚の肩書きだった、俺の役目はその首謀者を聞き出す事

それから三ヶ月だ、所長の俺が直々に、コイツの担当になったのは
勿論、情報局の許可も取っている…否情報局から暗に依頼されたと言った方が適切だろうか?

お前は、久しぶりに攻めがいのあるヤツだったよ…本当に
エースんトコの局員が、手に負えないと匙を投げ、俺に回して来たのも解るよ
実際に思いつく限りのメニューをこなしても、本名すら名乗らない、悲鳴も満足に上げない…

いくら生かさず・殺さずの加減はしても、三ヶ月も俺の調教を受けきる奴は珍しい

コアを抜かれていては抵抗も出来ない、傷の自己再生も叶わない
獣の様に鎖に繋がれたままで、一方的に受ける加虐を耐える意味がコイツには有るのか?
最大限の苦痛を感じる方法で、肉を抉られ、削られ、毟り取られては、踏みつけられ
ボロクズの様になってゆく自分の身体と、心を、コイツはどんな気持ちで見ているのか?

唯一言、お前を見捨てた雇い主を答えれば、直ぐにでも楽にしてやると言っているのに

強情なお前は首を縦には振らない、ソレが最期のプライドとばかりに、頑なで、結局何も答えてはくれなかった
そのくせ、憎しみと怒りに満ちた目で、ただ俺を睨み返してくるのだ
それが気に入った…無駄に泣き叫び、吠えるヤツよりも、場違いな命乞いする奴等よりもずっといい

誰にも触らせたくなくなった、ずっとココに収監して置きたかった

王族暗殺を企てる奴等なんて、今始まった事じゃないだろ?
王都では日常茶飯事みたいなモノだろ?ありふれた事件じゃないか?
もうコイツ「雇い主」を、主犯格を、無理に聞き出す必要すらない
適当な首謀者なんて、後からいくらでも、でっち上げられる
その候補者には事欠かない、身に過ぎた野心と支配欲に溺れる魔族はいくらでも居る

面倒くさくて邪魔な奴に、濡れ衣でも着せちゃえば?それで一石二鳥じゃないか?

まぁ…それ以前に、ダミアンを殺す事の出来る奴が、魔界に居るとは思えないからね

よくよく考えて見れば、コイツも無駄な努力をしたもんだよ、コイツもコイツの雇い主とやらも…
主犯格とやらは、本気になったダミアンの恐ろしさを、知らない階級の奴等なんだろうか?
それともよっぽどの馬鹿なのか?まぁ俺にはどうでも良い事なんだけどね?

大魔王宮内の、政治的なイザコザなんざ、俺にとってはどうでも良い事だ
俺はただ、コイツと遊んでいられれば、長くゆっくり楽しめればソレで良い、と思っていたのに

職務第一で、お節介なエースが、先に首謀者を特定逮捕してしまったんだよね

刑が確定したら、コイツの処刑執行命令は、スグに出てしまうじゃないか
もう少し楽しみたかったのに、生かしておきたかったのに
気に入りのオモチャを取り上げるなんて、エースも無粋な事をするよなぁ…

だから【特別室送り】にする事にした、処刑執行官に渡してしまうのは惜しいから

処刑が確定した以上、もう生命維持の義務は無いからな
その前に自らの手殺してやりたいから…送ってやりたかったから

最期の加虐は、スペシャルコースで、今迄よりも更に辛辣なモノにしてやったけど
生きたまま内臓を引き出され、じわじわと肉を剥がれ骨を砕かれても、奴は許しを請わない
身体の半分を削られる苦痛に…この男は耐えぬいた、結局最期まで何も語る事はなく…

全く…呆れ果てた精神力だよ、強情であまり賢くはなくとも、下級悪魔にしておくのは勿体無いくらいに
プロの暗殺者として、実行犯としては、最適な精神力ではあるけれど…
こんなツマラナイ事件で、殺してしまうのは惜しかったかもね、残念だよ

一体報酬を幾ら積まれたのか?あるいは主犯格に、何らかの弱味を握られていたのか?
それとも暗殺者としてのプライドだけだったのか?最早確認も出来ないけれど

要人暗殺なんて、首尾良く任務を果たしても、生還出来る確率は微々たるモノだ
使い捨てにしてしまうには、勿体無い逸材だったろうに、この男は?
コイツの雇い主もコイツ自身も、その価値に気がつけなかった事、見る目が無かったのは、不幸な事だな

どれでも、見苦しく命乞いをする連中より、ずっとイイ………
最期まで「俺の気に入りの玩具」である事は変わらない

所詮は末端の鉄砲玉だ…最初から陰謀の確信にコイツは触れてはいないだろう
仮にこの男の口が白状して、知りうる情報の全てが、垂れ流しになったとしても
取るに足らない下級悪魔の証言など、最初から何の効力も無いと言うのに

では…意味の無いこの拷問は、加虐行為は、何の為なのか…
これは【見せしめ】なのだ、証言の有無・信憑性など、最初からどうでも良いのだ

現行政権に逆らったモノの惨たらしい末路を、下々にアピールする為の「生け贄」だ
魔界といえど治安を乱すモノは許さない、それ相応の罰を受ける事を
絶対的な恐怖と言うカタチで、宣言公布する為の…媒介にすぎない…

だからお前は、より惨たらしく、惨めに死ななければならない…死刑執行のその前に

それにしても、お前は本当に良いオモチャだったよ、俺の最高傑作だよ

いくら不死身に近い魔物とは言え、コアを取り出され再生能力を封印された上での暴行だ
途中でショック死しても、気が狂ってもおかしくないレベルまで、キッチリ追い込んだのにも関わらず
それでもこの男は、殆ど悲鳴も上げずに耐えた、最期まで憎しみに満ちたギラギラとした目で、俺を睨み見上げながら

いいねぇ堪らないよ…お前みたいな【意地っ張り】は特にいい、
これっきりで【お別れ】にしてしまうのは、とても残念で、惜しくて、哀しいよ

ほんの少しだけ、男との別れが、寂しくなった俺は、鋭く伸ばした爪でその肌をなぞり
優しく首筋を頸動脈を撫で上げてやるのだが
散々痛い目に遭わせた結果もあるだろう、震えるソレは、最後まで俺を受け入れたりはしない…

血脈が足りなくとも、脈打つソレは、コイツと同じで素直ではない
俺の指を拒み反抗する、その反骨心を剥き出しにするカタチで

ただ殺すだけならば、ココをそのまま切り裂いてやればいい、
脳に巡る血液は、一気に断たれてしまい死滅する
心臓の鼓動と共に、噴き出す体液の速度に、この弱り切った身体は順応出来るワケがない

これ以上の痛みを感じる暇も与えずに、一気に楽にしてやる事も出来るのだが…やはり何だか惜しいのだ

コイツには、最後まで足掻いて欲しいのだ、その様を俺に見せつけて逝ってもらいたい

不意に良からぬ事を思いついた俺は、止血の為に圧迫していた損傷部の包帯と、皮膚の仮縫いをブチブチと引き千切る
何の為にそんな事をするのか?怪訝な顔をする男の顔は、みるみるウチに青ざめてゆく
出血量が増えたから?いや違う点、何かが…内側から身体中を掛け巡ってゆく

ようやく現世にしがみついている肉体を、細胞の一つ一つを潰される様な猛烈な痛みと、猛烈な吐き気に
男は嗚咽しながらも、暫くの間は身をよじり、もだえ、藻掻き苦しむのだが
程無くその曇った目から、涙が溢れ出し、急速に光りが失われてゆく…生体反応が無くなってゆくのが解る

敗血症性の劇症だ、再生能力を奪われている彼は、ソレを止める事が出来ない

損傷の激しい部分に備蓄していた炎症が、加圧した部分に貯め込んだ毒物が
堰を切った様に一気に全身に回ってしまったのだろう…自らの細胞を食いつぶしながら
本来は彼を護る筈の免疫物質が、逆に彼自身を殺してしまった瞬間でもあった
急性の敗血症性ショックに耐えきる体力すら、もうこの男には残されていなかったのだろう

喉元に迫り上がる血塊を、ゲフゲフと咳き込みながら吐き散らすと
男の首はカクンと前に垂れ下がった、まるで作りモノか何かの様に

同時に俺が摘出したまま、預かっていたままだった、この男のコアに
パキリッと大きなヒビが入った、そして…程無くソレは粉々に砕け散ってしまう
完全なる「死」…活動限界が来たのだろう…ようやく男は安息の眠りについた様だが
その顔には穏やかとは言えない、最期まで苦悶の表情を浮かべたままだった

この自己犠牲に果たして意味はあるのか?最期まで解り合えなかったのは残念だよ…

完全に生体反応がなくなり、動かなくなった肉塊をウットリと見下ろす金色の目は
血塗れのままの手で、優しく男の背を胸を、さわさわと撫でまわす
死後硬直が始まる前に、半開きになったままの目蓋を閉じてやると
血塗れの唇を舐め上げ、その苦しげな表情を、ほんの少しだけ補正してやるのは、彼なりの弔いなのか?

そして…冷たくなったその頬と、首筋に口付ける…ありったけの愛情を込めて

「お楽しみは終わったのか?ジェイル?」

絶妙のタイミングで、アナウンスから声を掛けられ、ジェイルがその先を見上げると
柔らかい照明がココよりも明るい、巨大な強化ガラスの向こうの、管制塔の上から
長身の悪魔が、情報局長官が、此方を見下ろしていた
腕を組み、幾分困った様な表情のエースは、
此方を威圧的な三白眼で睨み付けながらも、盛大な溜息をつく様を俺は見逃さない
だから俺も何も言わない、ニヤリと笑い返すと…それだけで答える

ああそうだ…そう言えば、昔はそうやって、ソコからアンタに注意されたっけ…

今とはカタチの違う拷問部屋で、虜囚を持てあます俺は、彼によく注意されたモノだ
管轄は違う筈の年上の悪魔に、直接に「仕事」の手ほどきを受けたものだ

でも今は違う………

収監者を、最期まで慈しむ事を教えたのは、他ならぬあの赤い悪魔
気に入っているヤツだからこそ、時間をかけてなぶり、いたぶり、愛する事も

勿論、監獄に堕ちてくる連中なら、誰でも良いワケではない
気に入らないヤツは…必要な情報だけを短時間で吐かせてしまえばいい
用事さえ済んでしまえば、サッサと死刑執行官に引き渡してしまう
それだけでも、形式的な仕事は終わってしまうのだから

プライドの欠けらも無い悲鳴なんて耳障りなだけ
腐臭のする、不味い血なんて欲しくない………

気に入っている奴だけだ、自分の手で殺してやりたい奴だけは
こうやって最期を看取ってやる、誰にも触らせないままに、俺自身の手で
ソイツに一番相応しいカタチと死化粧品を用意して

一方的ではあるが、俺の愛情表現…最大限の敬意のつもりなんだけど
この感覚を理解するモノは少ない、同じ悪魔でも限られているみたいだ
ソレを俺に教え込んだエースにまで、困り顔をされる覚えは無いのだけど

そして、それが…俺が【地獄最悪の拷問官】と言われる理由らしい
欲しくて貰った呼び名ではないけれどね


続く

※※※※※※※※※※

封印してから、かなり時間が経ってしまって居るので
既に公開している分も、加筆してから続編に移ろうと思ってマス

改めて読み直して、加筆してから、気がついきましたが
「コロッセオ設定」って、この当時から有ったんでしたっけ(苦笑)

『廃城の砂猫』のスフィンクスの居城シーンを書いている時は、
全然意識してなかったかも…もとい記憶から抹消してたかも

構造が被ってしまったのは失敗でしたが………一応元のままにしてみました
個人的に嫌いじゃないから、そういう調教室があったら…
加虐性癖者としては、もの凄く萌えるので⇒最低最悪すぎる

すり鉢型の円形舞台って…綺麗じゃないですか、
コロッセオだけじゃなくて、全般的に好きなんですよ、現代風の舞台より

一応?最初は、本解散LIVEの時のデベソ・円形ステージと
『幽遊白書』の暗黒武闘会編の会場を、イメージはしていたのですが
床下から場面に応じた、拷問具が迫り出して来る構造は
完全にローマ時代の「コロッセオ」そのモノですよね…
多分?無意識下に「憧れ」があるのでしょうか?

その上、殺戮プレイ光景を、他の囚人に見せつけて喜ぶとか
現実的には代官の趣味ではなくて、管理人の趣味ですが…えげつなすぎる
ステージでギリギリと囚人を締め上げるのは、きっと気持ちが良いでしょうけど
ココで収監はされたくないですねぇ…絶対に
ギリ下っ端の看守とか、社会科見学くらいなら?有りは有りですが

まぁ…本物の「コロッセオ」自体が、人間の暗部といいますか?
「黒い欲望」の固まりの様な文化ですからね…ある程度の残虐性は皆等しく持っているのか?
とか言い訳しながらも…仮に管理人が、アノ時代・ローマ時代に生まれていたら
うきうきワクワク?通い詰めていたかもしれません、大浴場に通うのと同じ感覚で(*_*)

このシリーズに関しましては、こんな感じで最終話まで続きます
代官が独り立ちするまで、変態要素を丸出しで続きます…
加減はしていますが、エロより流血残酷表現の方が酷いです?

途中、加虐性癖者の心の闇と、快楽殺人の要素も、どっぷり含みますので
それらの表現に不快感を覚える方は、途中ギブUPは、全然OKですので
無理はしないでくださいね

そういうのが大丈夫な方のみ、続きをお楽しみください

次はまだ旧作のままなので…少し時間を下さいませ
加筆修正は、トップページでもお知らせいたしますm(_ _)m


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